第11話 姫
第11話 姫
目を開けていられないほどの突風が吹き荒れる。
見る見るうちに火球が小さくなり消えた。
体にビシビシ風が当たりしばらくして風が止んだ。
ゆっくりと目を開けるとそこには信じ難い状況が広がっていた。
「一体何をした?足裏の踏んでいる感覚が無くなったかと思いきや一体どういう事だ?」
その隙に救出したのか智の腕の中にはさっきまで虐げられいた巳波が姫の様に抱かれ赤面していた。
いや、刮目すべき点はそこではない。先程まで栗色の髪を靡かせていた由加里の髪色が薄い緑色になっていて、肩甲骨の下の辺りからは緑色の炎が吹き出している。
『何をした小娘。事と次第によっては消すぞ小娘』
「もう、こんな事やめてよ。昔はあんなにやさしかったのに。兄さん?」
息を呑み込む。予想外の答えが返ってきて一番面くらっていたのは火球を指示した本人だった。
「何故生きている?...止めを刺していないとは言え、一太刀浴びせたと言うのに。一体どうやって生きながらえた?」
「三年前、私が異界の研究をしだした頃から兄さんは変わってしまった。...もう一度殺してみれば?兄さんのヘッポコ剣術で」
ボソリと呟き自分に言い聞かせ、杖を折り、拳を構えて両方の手に薄く魔力を込める。
「ほざけ、私に体術で挑む気か?本しか読まなかったお前が?」
「智さん、後ろの袋の中に一本刀が入ってます。私じゃ兄を救えない。どうか私達を助けて下さい」
「分かった。やるんだな?」
「はい!」
人を抱え、智は小刻みに走り去る。女性とは言え、完全武装している人を抱えて走るなど正気の沙汰では無い。
「勝手に王の前から去るな。飛弓隊射れ」
天井の淵から無数の矢が後を追いかける。翼竜討伐に使用されていた弓よりも遥かに大きく矢自体も大きい。
「お前らの相手が私だ」
手刀で宙を薙ぎ払い、矢の軌道を狂わせ、追尾されていた矢をへし折る。
「流石は正統な監督者。だが、実戦経験が足りないな」
不敵な笑みを浮かべ張り付くような言葉を見繕う。不安が体を駆け巡り送り出した後ろを振り向く。目には見えにくいが矢を象った小さな無数の矢が二人を追尾していた。
「お前達兄弟の血には様々な国の者の血が流れていて一人で複数の属性を使える!!だが、お前のは中身がないな!」
言葉で由香里の意識を削ぎ、その隙にリーム王の飛弓隊が智に向かって太い矢を放っていたのだ。
(間に合わない)
右手で銃のような形を模し、反対の手で支えて矢を破壊しようと最速の魔術をイメージするが間に合わない。
私が憧れた人、私を助けてくれた人を自分が死なせてしまう。頭の中に二人に関する走馬灯が駆け巡り、脚を竦ませる。
パァーン
弾け飛んだ。いつもこうだ。実の兄が暴走し隣国に応援を呼びに行く際も結局は周りの人に助けられた。わたし自身では何もできない。あの時だって運が良かっただけ。でも、叶う事なら一度だけ誰かを助けたかった。
恐る恐る見開いた目に映ったのは走る男の姿。偶にはコケて脚を滑らすが決してその歩みは止めない。
「何で?」
何が起こったのか理解が続かない。少なくとも自分は何もしていない。だか、二人は確かに生きている。
「矢は魔法隊で落とした!!牽制しろ!!」
魔法隊の隊長が掲げていた杖で方向を指し示し、脚を震わせながらも盛大な声を上げ、それと同時に矢が引き絞られ放たれる。普通ならばこんな距離は届かない。
しかし、生き残った数人の弓隊が放った矢に魔法隊からのバブが幾重にもかかる。結果的に仕留めることは出来なくても王様お抱えの魔術師を牽制することには成功した。
「俺はさっき巳波が特攻を仕掛けた時、俺も魔法で応じたかった。だけど、咄嗟のことすぎて出来なかった。...自分の不甲斐なさを祟った。だけど、もう後悔する選択をしたくない。だから、だから」
「伏兵はみなさんにお任せしてもいいですか?」
「はい!お任せください」
モヤが吹っ切れたかのように由加里の言葉に秋山が歯切れ良く答え、杖を地面に突き刺し、拳ほどの石に視線を落とし、読み上げながら手をかざす。
「空を支配した血縁よ。我が呼応に答えて刃となれ」
秋山の身体からマダラ状に赤い発光物が空気中に溶け込んでいく。光は高く上り小さな火の玉に姿を変え、僅かに緑を帯びた光を纏う。智が胸を掴んだ際に付着した翼竜の血がどんどんと光だした。
『さっき智から受け取ったバトンだ。これを使った所で打開策にはならない。しかし、智は時間を稼げと言った。何かしらの考えを持っている。ランキング2位の俺がランキング外のあいつ、ましてや胸を掴んだやつに力は貸したくない。それに難しい事はよく分からない。だけど、俺たちの東京を壊したあいつだけは許せない。弓隊は短剣に装備を切り替え、魔法隊含む三人で伏兵を倒せ』
「オオー!」
雄叫びを上げ、一気に攻めかかる。火球の三分の一を雨のように降らせ、散り散りに戦力を分散。親衛隊がいくら戦闘のエキスパートで強くても関係ない。三人で取り囲み、スイッチを取り入れながら相手を翻弄する。重曹兵には2組が畳かけ、魔法を使えるものには短剣での近接攻撃を繰り出す。経験量が違うとは言え、数の優位を覆すのは難しい。
「何をしている。飛弓隊、魔法の術者を狙え」
「分かっています」
敵も杖を振りかざし、先ほどと同じ不可視の風を纏った矢を放つ。戦場の空間を的確にすり抜け、術者に迫る。しかし、その弓が届く事は無かった。どの弓も寸前のところで形を失う。
「見えない矢は風魔法の一種だ。急激な温度差に弱い。俺が熱膨張で形を失わせるから皆んなは思う存分戦ってくれ!!智からもらった魔石と翼竜の血液で火以外の力も使い放題だせ!」
秋宮の声に反応し、一つ一つ冷静に対処していく。
「何をしている!!水の魔法に切り換えて火の射手を殺せ!」
「だめです。射程の短い水魔法では届きません。もっと近づかなくては...」
飛弓隊を率いる吊り目の女の子しかし、近づくと探検の餌食になる。実質、軽装での弓兵が単独で近づくのは自殺行為に等しい。
「兄さん、兵を引いて。これ以上互いに血を流すのは無意味よ」
「ここまで来て引けるわけが無かろう。我が命に変えても我が国は力を得て復興を遂げる。そして、世界に力を示すのだ」
「国民を蔑ろにする国なんて、指名手配されてる盗賊がこの付近にもコロニーを作ってるって言ってたけど、それ以下の行為よ。分からないのなら私が力づくでわからせてみせる」
眼鏡を取り前髪を上げ、鋭い眼光で睨み付ける。フワフワとした小娘はもういない。覚悟を決め闘志を燃やす。
「シュリエ・ナデア・リームの名において、地に落ちたガルデ・リームを討ち果たす。いざ参る」
風の魔力で体を多い、地面を蹴る。一歩踏み出すごとに暴風が吹き荒れて、視界が荒ぶ。
「来い、小娘!」
リーム王は手甲を取り外し、掌を噛みちぎる。滲み出てきた血液の固まる力を強くし、凝固させ、刃を型取り応戦する。
一国の未来を体現する争いだ。




