10 元魔王とある女
すると、大声がギルドから聞こえてきたので、
俺はさらにギルドから離れ、
宿を探し始める。
さて・・・宿あるかな?
あっ。あった。
中に入る。
髪で顔の左半分を隠した女性が受付をしていた。
「ようこそ、メリッサの宿へ。
お兄さん、1人?」
「ああ、ここって宿屋なんだよな・・・。」
「えっ。
ええ、もちろん。
ご宿泊できますとも・・・。」
「ふ~ん、
じゃあ1泊頼むわ。」
「女性を選べますが・・・。」
うん?
どういうこと?
ああ、給仕の人・・・。
面倒だな・・・。
「うん?お姉さんでいいけど?」
「・・・・本当に・・・。」
「えっ。なんで?」
「・・・じゃあ、部屋に案内します。」
「あ、ああ、頼む。」
階段を上がり、
すると、
「あれ、ルン?
誰を指名?」
何だこの厚化粧は?
「・・・・・・・私です。」
何で自信なさげなんだよ?
「はははは。
冗談でしょう?」
醜い、汚い、客が寄り付かなくなるなどの罵詈雑言。
なんで、こんな厚化粧に言いたいようにさせてやがる・・・そんな言われねえだろう・・・。
イラッ。
「本当だがなにか?」
「ひ、ひい。」
「行くぞ!」
「ちょ、ちょっと。」
俺は鍵をふんだくり、
そのナンバーの部屋に入る。
「なあ、どういうことなんだ?
どうして言い返したりしない・・・。
なんでそんなに自信なさげなんだよ!?」
「・・・・・・。」
「な、なあ。」
俺は彼女に触れようとする。
「さ、触らないで。」
チラッと髪に隠れた部分が見える。
「おい・・・それって・・・。」
女性は急いで髪で隠す。
「・・・そ、そうよ。
この傷、それに火傷よ・・・それが理由・・・。」
「そうか・・・。」
「まあ、いいわ。
今日は私を指名してくれたからね。
話してあげるわ。」
正直寝たいが、興味がないわけではない。
ルン視点
あれは2年前、私はね。
冒険者だったの・・・。
今はここで働いているけどね。
当時は男に人気だった。
よく、パーティーに誘われたりしたわ。
当時の仲間といるのが心地よくて断っていたの・・・。
そうやって仲間といつまでも旅をして、好きな相手と結ばれる・・・そう信じていたわ・・・。
・・・そんなある日、私の人生を変える出来事が起きたのよ。
私たちはある薬草採取の依頼を受け、
ある森に行くことになったの・・・。
これでも銀ランクだった・・・。
楽な依頼のはずだったのよ・・・。
そう・・・あの場にワイバーンが現れなければ・・・。
炎に森は焼かれ、
周りは火の海・・・。
友人は皆食い殺され、
私はなんとか一命は取りとめたわ・・・なんとかね。
そうして・・・この顔になったの。
ここのオーナーには感謝してるわ・・・。
私を受付としてでも雇ってくれて・・・。
本当だったら、奴隷になってもおかしくなかったのに・・・。
そう、これが私の過去・・・どう?
満足した?
仁視点
彼女は服に手を掛け、勢いよく脱ぎ去る。
「で、体もこうなったってわけ・・・。」
女性のからだ中には大きなひっかき傷、
それに火傷の数々・・・。
・・・・ワイバーンか・・・後で狩るか・・・。
「お姉さん、こっちへ。」
「なに?
こんな私でも愛してくれるっていうの?」
そんなこと願うはずもないだろうに・・・。
「ああ。」
「・・・・初めてなの・・・できれば・・・やさしく・・・。」
俺は彼女を抱きしめる。
抱きしめるとよくわかる・・・思ったより華奢だった、そして・・・細く痩せていた・・・。
「あっ。」
彼女はほろり、ほろりと涙を流している。
これは助けないわけにはいくまいよ・・・。
「光の衣・・・。」
周囲は光に包まれ、俺は衣を身に纏う。
「な、なんなの・・・これは・・・。」
「じっとしていろ。」
「・・・・はい。」
彼女の体重が俺に乗るのがわかる。
軽いな・・・。
俺は彼女を力いっぱい抱きしめ、
「光の衣、展開。」
ぐっ・・・。
こいつが一番魔力を消費するんだったな・・・持つか・・・。
この女の涙・・・。
耐えてみせる。
たとえ俺の命を削ってでも・・・ぐ、ぐわぁぁぁぁ。
徐々に光が治まり、
彼女が目を開ける。
俺は衣を脱ぎ捨てる。
ちっ。体が持たん。
膝を着く。
「・・・どうだ?
体の調子は・・・はあはあ・・・自信は取り戻せそうか?」
彼女は体のいたるところを触り、
そして最後に顔を鏡に映す。
「おい、おい・・・本当に美人じゃねえか、
これなら・・・どんな男だって・・・。」
バタン。
「お客さん?お客さん?」
わりいな・・・せっかく治ったのに・・・気の利いたことも言えんなんてな・・・。
意識が・・・・・。