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エピソード4「褐色肌の元気少女と白銀のモフモフと」

―――ヒュオオオオーーー





 俺の耳に風切り音が反響する。





 髪の毛は押し寄せる風圧に翻り、たなびく。





 ちょっと気を抜くと振り落とされそうになってしまうため、高速で走る白銀の獣を操る少女の腰に巻き付けた両腕に力をいれる。





 すると





「キャハハハハッ。ちょっとトウマ。くすぐったいからそんな変な触り方しないでよ~。トウマの変態~」





 褐色肌の少女―リルが俺の方を振り返って無垢な笑い声を投げかけてきた。





「なっ、別にそんな変な触り方してないだろ。それにリルなんて俺からみたら子供だから性的な対象になんかみえないっての」





 俺がリルに対して抗議の弁を述べると同時に俺らが今乗っている白銀のモフモフが




「グオォオォオーーーッッ!!」




 と吠えた。




 するとその雄叫びに呼応し、草原だった大地が一瞬で氷原へと姿を変える。




「ほらトウマが私のことを魅力ないなんていうからシルバが怒ってるよ。ありがとシルバ。でも大丈夫だよ。私を抱きしめたときのトウマの目は完全にエロおやじのソレだったから。あれは絶対にやましいことを考えてたね」



「いや、考えてねーし! ていうか、お前はずっと前を向いてたんだから俺の顔なんて見れなかっただろうが」



「私の腰に巻いた手が少しモゾついたからチラッとみたんだよ。チラッと。そしたらトウマの鼻の下が物凄く伸びてて、目なんかは『THE エロス!』って目になってたね~」



「そんなわけねぇだろ……たぶん」



「そんなことあったよね~シルバ♪」



「ウォンッ♪」





 俺が言葉尻小さく、声を絞るとリルはシルバの頭を軽く撫でながら、優しく話かけた。





 するとこの伝説の幻獣は肯定するようにご機嫌に声を上げる。





 俺はこのやり取りを聞いて恐らく冤罪だと思われる己の罪に頭を悩ませながら、現状を整理した。




   ♦

 

 俺が目を覚ました時、既に太陽は沈みかけ、空はフレイムオレンジに染まっていた。




―――ヤバい! 完全に遅刻だ!!





 俺は覚醒一秒足らずで現実を知り、絶望した。





 てか、会議の主催者が遅刻とか絶対にしちゃいけないやつだろ。





 なんとか言い訳を考えないと、とりあえず体調不良ってことにするか。





 いや、でも俺魔族だし、そこそこ強いし、魔王軍幹部になるくらいだし、並の体調不良じゃ会議なんて欠席できないぞ。





 魔界に単身乗り込んできた伝説のはぐれ勇者に遭遇してしまったことにするか? それなら遅刻しても怒られないんじゃないか? 





 いやでもダメだ。宿儺は昨日俺と飲んでるから俺が二日酔いで死んでいるってのはわかっているだろうし、フラムにいたっては今日俺と会ってるわけだし、そもそも俺を気絶させた張本人だから嘘が速攻でバレる。





 宿儺の奴は良いヤツだから昨日飲みすぎたことを黙っててくれるだろうけど、今朝の感じじゃフラムが俺の味方になってくれる可能性は低い。





 つまり俺は遅刻した時点で、今後の魔王城再生会議における求心力はゼロになってしまい、大事な会議に主催者なのに遅刻した奴っていうレッテルを貼られてしまう。





 魔族は寿命が長い分、そう言ったレッテルを張られると剥がれるまでに相当長い時間いろんな奴から弄られ倒されなきゃいけなくなってしまう。

 




―――くっ、やはり絶対に遅刻は出来ない。





 ならばどうするか。





「あいつに頼むか。ご近所さんだしな」





 というわけで、俺が呼び出したのは伝説の幻獣ブリザード・フェンリルを完璧に従える褐色肌に八重歯と笑顔が特徴の少女、魔王軍幹部のリルであるというわけだ。





 リルと俺は家が近く、リルは毎回会議には時間ギリギリ(たまに遅刻)で登場する。





 ただリルと俺が違うのは魔王城に着くまでの時間に圧倒的なまでの差があることだ。





 リルが従えるブリザード・フェンリルのスピードは途轍もなく早い。そしてスタミナもかなりある。つまりは魔王城までの道のりをかなりのハイスピードを維持しながら進めるのだ。





 ようは俺もブリザード・フェンリルに乗せてもらえば遅刻を回避できるというわけだ。





 そこまで回想し、俺は現状を再び見つめなおした。





  ♦


「ところでトーマ、今日は幹部全員が集まるのー?」




 ブリザード・フェンリルの背でリルが快活に叫ぶ。




「いや、全員じゃないな。長期遠征にいってるやつとか、結界から動けない奴とか、捕まってるやつとかそこら辺のやつらは呼んでない」



「あーそうなんだ。じゃあユマちゃんも長期遠征中だから来ないんだ。トーマからの呼び出しって知ったら長期遠征だろうがなんだろうが駆けつけると思うよ~」




 そう言ってからかうようにケラケラ笑う。





 その横で俺は頬をひくひくと痙攣させ、引きつった笑みを浮かべる。





「あいつが来たら会議どころじゃなくなる。というよりも俺のプライベートが色んな意味で崩壊する」



「あっはは~。相変わらず愛されてるね~」





 あいつのは単純な愛という言葉では表されないぞ。無理やり愛という言葉を使うならば狂愛とか死愛とかの主に犯罪者に付けられるであろう言葉が付く。





「まあ、ユマのことは置いといてとにかく助かったぜ。おかげでなんとか遅刻せずに済みそうだ」



「ご近所さん同士だからね~。困った時は助け合いだよ。ほら、魔王城が見えてきたよ♪」





 リルに促され視線をやるとそこには俺の職場でもある魔王城が霞みを纏って顔を出していた。





 俺は懐から昨日飲む前に作った今日のレジュメを取り出し目を通した。



次回「ダークマスターはくじけない」


物語が動き出します。

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