君を好きな俺と君の好きな人
シャツにスキニーでシンプルに。
アクセサリーなどはさりげなく。
香水は柔らかに香るように。
「うん、かっこいい」
私・・・俺は男装女子だ。
もともと中性的な顔立ちでありショートカットのため、幼い頃から男の子に間違えられることが多々あった。
昔はそんな自分が嫌いで髪を伸ばしてみたりいろいろ試したが、好きな男の子には振り向いてもらえず、女の子に見れないという理由で振られた。
そんな時に現れたのが転校生の梨花だった。
「つかさちゃんはちゃんと女の子だよ」
そう言って頭を撫で、慰めてくれた。
その瞬間から梨花は私の特別になった。
梨花を守りたい。
守るためには強くならないといけない。
そのためには男の子にも勝てるようにならないといけない。
・・・それなら男の子になればいいのではないか?
これが私が男装に目覚めた理由だ。
俺達は高校生だ。
梨花は俺と同じ学校に行きたいというので、ここらでは有名な進学校へ2人で通うこととなった。
制服はない。
男装ができるように俺は私服で校則が緩い学校を選んだ。
「梨花、おはよう」
「つかさちゃん、おはよう」
「いい加減ちゃん付けで呼ぶのやめて」
「可愛いからいいじゃん」
今朝の梨花はご機嫌だ。可愛い。
教室に入ると友達が駆け寄ってくる。
「梨花またつかさと登校してる!らぶらぶだね」
「たまたま玄関で会っただけだよー」
梨花はニコニコして答える。
「つかさが男だったらお似合いなのにね」
みんなが笑う。
その中でも俺と梨花2人だけ笑えずにいた。
予鈴がなったためみんな席に着く。
俺も席に着こうとしたとき梨花に袖を引っ張られる。
「・・・ごめんね」
「何で梨花が謝るのさ、大丈夫だよ」
そういうと梨花は申し訳なさそうにしながら席に戻って行った。
梨花が俺に謝った理由を考えてみる。
俺が女の子だけれど女の子に見えないことを気にしているため、だろう。
昔は女の子に見えるように頑張っていたが、今はそんな気は全くない。
梨花を守ることができたらそれでいいと思っているのだから。
そのために俺は男装して梨花のそばにいる。
梨花に悪い虫が寄ってこないように。
俺は、梨花のことが好きだ。
梨花にとって俺は女の子で恋愛対象ではないだろうが。
それでも、両思いになりたいとも思っていない。
守ることができればそれでいいのだから。
昼休みになり教室内がざわつき始める。
梨花は俺のところに寄ってきて机をくっつけてお弁当を広げる。
梨花の手作り弁当が絶品なのは俺だけが知っている。
俺はさり気なく梨花に玉子焼きをおねだりし、梨花の手料理を堪能する。
これは俺だからこそできることであって、他の人、特に男子にはできないことなので特権である。
昼休みも終盤に差し掛かった時、梨花が口を開く。
「私、好きな人ができたの」
その言葉に一瞬耳を疑った。
・・・梨花に好きな人ができた?
「えっと・・・まじ?」
「うん」
「どんなやつ?」
「2組の真弓 圭吾くん」
それから梨花は圭吾というやつについて話し始めた。
きっかけは日直のときに荷物を運ぶのを手伝ってくれたこと、野球部のレギュラーであること、誰にでも優しいこと・・・
俺はそれを聞いて少し腹が立った。
梨花のピンチを助けてきたのはいつも俺だったから。
梨花の日直の日はたまたま用事があって早めに帰ったが、それ以外はいつも一緒にいた。
それなのに梨花が圭吾とやらを好きになったことを腹立たしく思う。
俺は心が狭いのだろう。
しかしこんな感情を梨花に見せることはしたくないため、俺は笑顔をつくる。
「応援してるよ」
梨花の表情が途端に明るくなる。
「ありがとう!」
上手くいかなければいいのに・・・
家に帰ってからも梨花のことを考える。
どうして俺じゃないのか。
あんなにもそばにいたのに。
どうして好きになってくれないのか
「・・・俺が女だからか」
いとも簡単な答えに笑えてくる。
俺が本当の男だったら梨花はこっちを向いてくれたかもしれないのに。
性別の壁は分厚い。
俺はこれからどうしたらいい?
誰か答えを教えてくれ。
梨花に告白しようかな・・・
でも梨花の中で俺は女の子なわけで、友達と思われているのだから受け入れてくれるわけがない。
優しい梨花のことだから俺が梨花のことを好きなのは否定しないだろうが、今後どうやって梨花に接したらいいのか俺がわからない。
・・・それなら告白なんてしないほうがいい。
今の距離を保つのであれば、俺はこのまま友達として梨花のそばにいるべきだろう。
梨花に好きな人がいると告白されてから数日が経った。
俺は今でも梨花の隣にいるが、梨花が話す内容は圭吾のことばかりだ。
「それでね、そのとき目が合ってねって聞いてる?」
「聞いてるよ。よかったじゃん」
いつも通り梨花の話を流しながら過ごしていたが、その中に非日常が紛れ込む。
「私、告白しようと思うんだ」
耳を疑った。
梨花が告白・・・?
梨花は可愛くとても女の子らしいためなびかない男などいないだろう。
その梨花が告白しようとしている。
これは完全に上手くいくフラグが立っている。
「・・・なんで」
「え?つかさ何か言った?」
「なんで俺じゃ駄目なの。こんなに近くに居るのにどうして気づいてくれないんだよ」
俺は気づけば梨花に向かって怒鳴っていた。
梨花の驚いた表情で我に返る。
俺はなんてこと言ってるんだ。
俺は梨花のそばにいられなくなり走り出した。
遠くから梨花が呼ぶ声が聞こえた。
家に帰ることもできず、俺は幼い頃よく梨花と遊んだ公園のベンチにいた。
「急に言われても驚くよな。梨花に悪いことした・・・」
しかし今更嘆いたところでもう遅い。
出ていってしまった言葉は返ってこない。
「つかさ、見つけた」
上から声が聞こえたので見上げると、そこには居ないはずの梨花が立っていた。
「なんで・・・」
「つかさって何かあるといつもこの公園にくるよね。バレバレだよ」
沈黙。
子ども達の帰る時間を知らせる音楽だけが流れている。
「さっきの言葉、本当?」
梨花が口を開く。
俺は答えることができずに俯いていた。
「あの言葉嬉しかったよ。ありがとう」
梨花の言葉に顔を上げる。
「やっとこっち見てくれたね。ちゃんと話そう」
俺は自分の気持ちについて梨花に1つずつ丁寧に説明していった。
梨花は俺の言葉ひとつひとつを相槌を打ちながら聞いてくれた。
「・・・俺は梨花のことが好きだよ。女の子同士って言われたらそれまでなんだけど」
「私もね、つかさのことは大切なんだよ。だけどごめんね。つかさの好きには答えられない」
わかっていた。
俺は女の子だけど梨花が好きで、梨花は圭吾が好きなのだから。
「でもさ、好きって自由なんだよ。性別なんて関係ない。」
俺は梨花のことばにハッとする。
「好きは・・・自由」
「別に誰のことが好きでもいいんだよ。自分の感情は自分だけのものなんだから、誰かが口出しできることじゃない」
そっか・・・
俺は梨花のことが好きだけれど否定されることを恐れていたんだ。
梨花はそんなことする子じゃないのに、自分の感情だけで決めつけていたんだ。
「俺は梨花が大切だよ。これからもずっと一緒に笑っていたい」
「私もつかさが大切。だからずっと一緒に笑っていよう」
結果的に俺は失恋した。
それでも自分を認めてくれる人に出会えた。
これはとても幸福なことだろう。
もし今後俺のように悩んでいる人がいたら、そばにいて支えてあげたい。
あなたは1人じゃないよって言ってあげたい。
それだけで救われるのだから。
俺が梨花に救われたように。
読んでくださりありがとうございました。
私は好きに性別など関係ないと思っています。
その人のことを好きならばそれはあなたの大切な気持ちです。
みなさまはどうですか?