箱庭の令嬢と王子殿下の思い違い。
王子殿下目線です。
今回もまた、短い…。
俺には同い年の婚約者がいた。
公爵令嬢で、とても綺麗な。
でもその婚約者は俺に笑いかけてくれなかった。王太子である俺に対して笑わない。俺の思い通りの表情を見せてくれない。
……何故?
最初は『何故?』の一言だけだった。
俺は婚約者に一度も誕生日プレゼントを贈らなかった。プレゼントを贈らなければ嫌な顔の一つでも見られるかと思った。なのに、婚約者は嫌な顔一つしない。
俺も婚約者に一度も笑いかけたことなんてない。初めて会った時も事務的な自己紹介だけ。向こうが笑ってくれれば俺も笑うつもりだった。
俺は以降も冷たい目をして婚約者に接した。
俺に愛想を振りまかない者なんていらない。
俺には同い年の幼馴染もいた。
ソイツは俺から見てもカッコよくてなんでも出来た。勿論俺も見てくれはいい。
俺はある日王宮で婚約者を見かけた。
今日も今日とて輝いて見えた。
まぁ輝いて見えるのは当たり前か。綺麗な銀色の髪をしているのだから。
そんな婚約者が輝く笑顔を浮かべていたのだ。
俺は目を見開いた。
俺が見たことのない笑顔。
その笑顔は俺の幼馴染に向けられていた。
その幼馴染も笑顔で俺の婚約者と話していた。
その時俺は思ったのだ。
婚約者は俺の幼馴染に会うために王宮に来ていたのだと。
俺は婚約者と婚約を結んでからすぐに婚約者の行動範囲を限定した。
綺麗な婚約者を他の者に見せない為に。
俺に愛想を振りまかないのであれば、他者にも振りまけないようにすれば良いと思ったのだ。
プレゼントも贈らない癖に独占欲だけが強かった。
なのに婚約者は幼馴染に笑ってる。
俺は許せなかった。
別に婚約者の事なんて好きではなかった。愛したこともなかった。でも笑顔を見てみたかった。俺自身が笑顔を見せたことが無いのに。
そんな歪んだ心を持ったまま学園に入学した。
そこで出会ったのだ。彼女と。
彼女は可愛かった。俺に笑い掛けてくれた。俺も自然な笑顔になれた。
ある日彼女は言ってくれたのだ。俺が好きだと。
俺は思ったんだ。彼女が手に入るなら、婚約者なんていらないと。笑わない婚約者より、笑ってくれる彼女の方がきっといい国母になると思った。
だから、婚約者との婚約破棄を実行したのだ。婚約破棄が終われば全て上手くいくと思っていた。全て思い通りになると思っていた。
なのに、婚約破棄をしてみればどうだ。
元婚約者は俺に「慕っていた」と言ってから倒れてその後目覚めない。
その時に駆けつけて"元"婚約者を抱きかかえていた幼馴染は俺を殺さんばかりに睨みつけてきた。
仲良く出来ていたと思っていた元婚約者の家にもずっと睨まれている。
父上と母上にもため息をつかれた。
優しくしてくれるのは可愛い彼女だけ。
そんな彼女もトチ狂ったとか言われて幽閉された。
今、俺には何も後ろ盾も、味方も居ない。
そんな時、こんな噂が聞こえてきた。
「国王にはもう一人息子がいる。王太子と同い年で、ものすごく優秀な」
と。
そしてもう一つその時に知った話があった。
俺の元婚約者は「箱庭の令嬢」と呼ばれていたのだ。「馬鹿な王子に閉じ込められた綺麗で可哀想な令嬢…」と。
俺は世間から、「馬鹿王子」、「使えない王子」、「顔だけ王子」と呼ばれていたのだ。
何故。何故そんな事を言われなければならないのかと思った。
だって仕方ないじゃないか。勉強が出来る頭を持って生まれなかったのだから。笑っていれば全て上手くいっていたのだから。
俺が笑わなかったのは元婚約者の前でだけ。
それがいけなかったのだろうか。
ある日父上…王様に呼び出されて謁見の間に行くと、王様の隣に俺の幼馴染がいた。
何で、俺の幼馴染がそこにいるんだ?
何かがおかしい。そう思った。
「久しいな。我が息子よ。私はお前に期待していたのに、実に残念だ。まさか自分から婚約者を切り離すとは思わなかった。…今からお前は王太子ではない。今後は、お前の幼馴染として側にいた、お前の腹違いの兄が王太子だ」
そう告げられた。
「……は?な、何を言っているのですか父上。俺が王太子じゃない…?意味がわかりません。それに腹違いの兄?何の事ですか」
俺は、父上が何を言っているのかわからなかった。王太子じゃない?腹違いの兄?俺はそんなの知らない。
「僕が、本当はお前の兄で現在の王太子。わかったか?」
俺の幼馴染が無表情で見つめてきた。
「あとさ、お前 言ってたよな。『婚約者が俺に対して笑ってくれない』って」
「あぁ。言ったな」
幼馴染は一瞬悲しげな瞳をした。
「笑ってたよ」
「は?」
「彼女は、笑ってたよ。お前と話すときも、お前の話を僕とするときも。お前が彼女を見なかっただけで、笑ってたんだよ」
「……え?」
笑ってた?あの、元婚約者が?
俺に対して笑いかけていた?
…うそだ。
「うそだ。そんな、笑っているわけないじゃないか」
「嘘じゃない。…それで、僕が何度悔しい思いをしたと思う?僕はずっと彼女を見ていたのに。彼女だけを想っていたのに。彼女が想っていたのはお前だったんだよ。なのに、お前は彼女に何をした?お前のせいで自由を取り上げられた彼女は『王子殿下の頼みで、王子殿下の為ですから』と笑って言ったんだぞ。そんな彼女をお前が切り離した。彼女の心が再起不能になるまでお前が傷つけたんだ。…その罪の重さ、わかるか?」
幼馴染はゴミでも見るかのような眼をしていた。
「それにお前は、元婚約者である彼女の名前は分かるのか?覚えているのか?」
俺は、呆然とすることしか出来なかった。
俺は、彼女の名前がわからなかったから。
確かに自己紹介したハズなのに、わからなかった。
俺は間違ってた?何を間違えた?
元婚約者に、彼女に謝ろうと思っても、謝ることも出来ない。公爵家に出入りを禁止されているから。入れたとしても、目覚めていない彼女に、目覚めた彼女に、何を謝罪すればいいのかも、わからない。
きっと、目を覚ました彼女の瞳に映るのは王太子だから。
今、俺の頭の中には彼女の事しかない。惚れ込んでいたハズの可愛い彼女の事なんて忘れていた。
俺の元婚約者…『箱庭の令嬢』は、2年経った今でも、目を覚まさない。
綺麗なまま、眠っている。
また最後まで名前、出て来ませんでした…。
読みづらくてすみません。
箱庭の令嬢さん、目覚めなくて2年。
長いんだか短いんだか…。