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第5話 おかしい? いやこれが普通だろ?

話数の番号を整理しました。第0話→第1話に変更することに伴い修正 2019/9/23。

 日の出と共にベッドから這い出し着替えを済ませる。起きてすぐ、隣にいるセレスの事を忘れていて心底驚いたが、昨日の事を思い出して起さないように注意した。良く分からないが、半日で動ける位には回復したんだから朝起きれば全快してるんじゃないかと楽観的に考える。どっちにしろこいつが我が家に居候するのは変わらないんだから細かいことは気にしない。その内嫌でも分かるだろ。


「ふぁー、おはよー」


 部屋を出るとセネラもちょうど起きてきたところだった。昨日はやっぱりずっと聞き耳をたてていたらしく寝不足のようだ。


「ああ、おはよう。ティアはまだ寝てるのか」


「うん、昨日は私の方が先に眠くなっちゃったから」


 大きく伸びをしながらあくびをかみ殺すセネラ。体付きが良さ過ぎるのはともかく、こうやってると普通の女の子なんだがな。


「ねえ? 結局ヤったの?」


 朝から攻めてくるな。ティアが俺の部屋にいないでそっちで寝てるのが証拠だろ。第一もしそうなってもこれまでの事を考えればティアが寝ているお前を起さないわけが無い。

 最初から答えが分かっていたのか、悪戯が成功したような顔をしてセネラが笑う。


「亡くなったお爺ちゃんはね、天使に惚れたからって罠を張って捕まえてでもモノにしたって言ってたよ。ちょっとは強引になってもいいとおもうんだよね」


 聞き流そう。

 俺は炊事場へ移動するがセネラも付いてくる。この村にいる男も女も全員一通りの家事は出来るように小さい頃から教え込まれていた。別に何でと疑問に思ったことは無い、確かに家で家事をしなくても狩りに行ったり魔王領へ買い物に出かけるときは野営をすることもあるので、出来ると出来ないとじゃ苦労が変わってくる。

 セネラは慣れたものでかまどにさっさと火を入れた。


「なんだ、薪を使わなかったのか」


「んー、だってもったいないでしょ。灰の掃除も面倒だから」


 俺としては灰は肥料になるから薪の方がいいんだが。かまどの中には球状にまるまったような不自然な炎が浮かんでいる。セネラやティアの様に魔法が得意なやつらはこうやって日常でも魔法を使って便利に過ごしている。俺も魔法を使えないことはないが継続して維持するというのはかなり疲れる。そんなことに体力を使うなら薪を作っていた方が遙かに楽だ。


「何作るの?」


「昨日貰った熊肉が残っているから薄味で野菜と一緒に炒めればいいだろ」


「それじゃ私はご飯とスープを作ってるね、むっふっふー新婚みたいだね」


 まあ、確かに新婚に見えなくもないかもな、あと二人の美少女が部屋で寝てなければ。




「さてっと、そんじゃ狩りに行きますか」


 残った熊肉はセネラに預けてイガおじさんのところで燻製にしてもらう。さすがにあれだけの量の熊肉を一日で消費できるわけがないし、イガおじさんもそれは織り込み済みだろう。


「うう、すいませんでした。朝ご飯は私が作るって言ったのに」


 肩をすぼめて落ち込んでいるセレスが朝から申し訳なさそうに声を上げた。朝食を食べるときも謝っていたし、別に誰も気にしてないんだからっていってもまだ落ち込んでいる。


「昨日立つのもやっとだった人が何言ってるのよ。私は朝食よりセレスが元気になってくれたほうが嬉しいわよ」


 まあ、多分ティアなりの励ましなんだろうが俺には口説いてるようにしか見えない。セレスも少し頬を染めて何を言っていいか困っているみたいだった。


「セネラ、俺たちはいつも通り東の森で適当に狩ってるから昼時になったら泉に集合な」


「了解。いってらっしゃーい、気をつけてねー」


 手を振るセネラに軽く挨拶を返し、俺たちは森に向けて歩き出した。




 あー首がくすぐったい。さっきから首にかかる吐息がくすぐったくてしようが無い。背中におぶったセレスの荒い息づかいがさっきから俺のを首筋を撫でている。

 俺の隣では少し羨ましそうにしたティアが肩にマルデュスを乗せて歩いている。

 マルデュスの見た目は狼ほどの大きさの角が三本の兎だ。動きが素早くちょっとした木ならへし折る位の力は持っているがただそれだけだ。夜熊に比べれば一発良い攻撃をたたき込めば倒せるので簡単だったのだが、俺が鉈を首にたたき込んで終わらしたときセレスが腰を抜かしてガタガタ震えてしまっていた。


「な、なんなの、それ殺人兎だよ。攻撃も魔法も避けて避けて角で人の体を二つに裂いてくる夜に会ったら絶望しかない魔物だよ。なんで森に入ってすぐ会うのが上位魔物なのよ、以前私達が一匹倒すのに苦労したのにさっさと倒しちゃうなんて」


 やっと腰が元に戻ったのか、まくし立てるとセレスはもぞもぞとしだして俺の背から降りていった。


「何言ってんだ、あんなの唯の兎だろ?」


「そうよね、兎は子供が一人で狩りが出来るか確認するのにちょうど良い獲物だし。多少は危ないから大人も同伴するけど、その程度でしょ」


「おかしいから、絶対おかしいから」


 声を張り上げて否定するセレスだが、そんなに大声を上げられると獲物に逃げられるので辞めて欲しい。今日はちょっと奥まで行かないと獲物が捕れないかもしれないな。

 そんな俺の気持ちが伝わったのかティアが人差し指をセレスの唇に当て、自身の唇にも反対の手の人差し指を当ててセレスを静かにさせた。

 俺にそんな趣味はないが、こういうのはなんか絵になるな。


「ご、ごめん」


 賢者だったとはいえ、狩りに慣れてるわけでもなさそうなのは分かっていたのでこんなのは想定内だ、謝られるような事じゃない。ティアも別に怒ってないし苛ついてもなさそうだ。


「セレスは賢者だったんだから仕方ないとは思うが、水の勇者ならこれ位できてたろ?」


 俺は同じ勇者の証である神器、メダリオンを腰から外してセレスに見せてやった。


「いくらゼスだってそんなの無理だったよ、同じ勇者だからっておか……ねえ、なんでメダリオンを腰に付けてたの? え? 加護を使って倒したんじゃないの? え? え? え?」


 俺とティアは目を合わせると困ったように笑った。だって俺たちのメダリオンは首からかけて加護を貰うと体の動きが鈍くなって勝手に動くようにもなる。ティアなんてずっと魔法にかんする知識が流れてきて頭が痛くなるって言ってたしな。

 それを呆然とするセレスになんとか伝えてやると「神器が壊れるなんて、でも昨日アーティ様が壊していたし」とぶつぶつ自分の世界に入っていた。

 まあ考えるより実践だ。俺は勇者の加護のメダリオンをセレスの首にかけてやった。不意打ちみたいになってしまってセレスは目をむいてオロオロしだしたが、やがて手を握ったり軽く動いたりして壊れたメダリオンを確認しているようだった。

 ひとしきり確認出来たのか俺にメダリオンを返してくると、ちょっと予想外の事を言ってきた。


「普通、自分が与えられた以外の神器や他の神の神器を使おうとすると神罰が下って大怪我するはずなのに。それにこのメダリオン? って神器は壊れてないよ。私にも勇者の加護が貰えて体がすごく軽かった」


 はて? 俺たち三人はどうにも話がかみ合わず暫く唸っていた。




 森の中心近くにこんこんと湧き出る泉がある。そこでは唯一の水場として魔物は寄れども襲っては来ない。今も水を飲みに昨夜と今朝のご飯となった四天の夜熊、エリティア、ボルビスと俺たちが呼んでいる八本足の猪、ジャジャという人の胴体と同じ太さのヘビが並んで水を飲んでいる。はっきりいってエリティア以外のやつらは中が悪い。互いが互いを食う関係なので、水場から離れれば途端に弱肉強食の世界が始まる。ただこいつらもそれは分かっているのか、水飲み場で出会ったときは必ず時間を置いて個々が泉を離れるようにしている。

 獲物が逃げると思っていたけど杞憂だったみたいだ、これなら奥まで行かなくていいかもな。

 俺の後ろではしきりに「おかしいおかしい」と呪文のようにつぶやいているセレス。エリティアをじっと見て、いまにも弓に手が届きそうなティア。エリティアは基本臆病なのでティアを気にしているようだが逃げるようなことはしない。此処でのルールを理解しているのと、此処で手を出せば一緒に居るあいつらが俺たちに牙を剥くからだ。


「ねえなんなのこの森。ここにいるだけの魔物でヘタをすると小国なら落とせちゃうよ」


 いやそれはないだろ、こいつらはちょっと凶暴なだけの俺たちの獲物だ。俺にしてみればよっぽど火の勇者や剣聖の方が手強かった。最後はちょっと引っかかる所もあったけど、あれに比べればこいつらなんて今日の飯は何が食いたいかで選ぶようなもんだぞ。

 怯えて俺の後ろから出てこないセレスは、隠れるより目を離す方が怖いのか顔を少し覗かせていたが、いきなり短く可愛い悲鳴をあげた。

 やつら全部が俺たちを見ている? 俺は何もしていないしティアも弓に手をかけてはいない。となると――。


「ティア、何か聞こえるか」


 エルフの血を引いているティアは俺たちより少し耳が良い。ティアが耳を澄ますと途端に渋い顔をして俺に訴えてきた。


「あいつか」


 ティアの天敵にして食えない奴、いや本当に食えない。鍛冶をしているバラスじいさんだけが喜ぶあいつだ。

 水を飲んでいたやつらがこぞって逃げていく。あいつらもあれを相手にするのは意味が無いと分かっているんだな。

 やがてその音は俺にも聞こえる位大きくなってきた。

 まるで金属を擦るような音。何か甲高い間延びしたような音。

 草むらをかき分けて出て来たのは金属で出来た狼だった。

 耳障りな音に向けて一瞬でティアが矢を放ち、そいつがこともなげに体の硬さだけで弾き飛ばした。

 あれの体にはいつも同じ言葉が刻まれていた。


『WSX-210』


 全く刃を通すことが出来ず、ティアの弓や俺のように刃物を使う者にとってはやっかい極まりない相手だ。


「な、なにあれ! 動く鎧の狼? ねえ、本当にこの森どうなってるの? ねえってば」


 ちょっとまずったと思った。俺とティアなら逃げられるがセレスを背負ってとなるとあいつの足の方が早いかもしれない。なんか良く分からんがあいつは体のあちこちから火を噴いて速度を上げてくる。

 俺たちがどうしようと逡巡していると、木の上から救世主の声が聞こえた。


「おっまたせー!」


 木の上から勢いよく落下してきたセネラはWSX-210に籠手を纏った右手を思い切り叩き付け、地面を陥没させながら胴体を見るも無惨な姿にひしゃげさせた。

 どんなやつにも天敵はいるもんだ。

 セネラは潰れた胴体を確認し、後ろ足をもって引きずりながら右手を小さく上げた。 まあ、その動作自体は可愛らしいのだが周囲の状況をみると違和感この上ない。壊れたようにおかしいとつぶやくセレスに今は少し共感する。

毎日投稿している猛者を尊敬します。

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