第3話 知名度の低い神
日曜中の更新のつもりが爆睡。
短いし遅くなったしいろいろすいません。
話数の番号を整理しました。第0話→第1話に変更することに伴い修正 2019/9/23。
「私は神の裁きを与えてこいって言ったのです、何で攫ってきたのですか」
あきれ顔のアーティの前には水の神を信仰する賢者セレスが横たわり、僧侶ミーヤが綺麗な姿勢で床に座っていた。目を覚ましたが力尽きたまま倒れているセレス、生き返った反動でいまだに体が思うように動かせないミーヤ。
まるで供物だな。
倒れている二人の前で俺たち三人はアーティがこの二人をどうするのか想像していた。
禍根を残さないようにするのか。
監禁するのか。
水の神の所へ戻すのか。
「あー、貴方たちは『祈りの神シーディア』に敵意はありますか」
ミーヤは喋ることに不都合がないようで、セレスもなんとか声を出すことは出来るようだった。
二人ともそのような恐れ多い感情はありませんと即座に否定した。
「あの、発言をお許し頂けないでしょうか」
アーティが大仰に頷きを、ミーヤに先を促した。
「『祈りの神シーディア』様というのは初めてお聞きしたのですが、新しくご降臨された神様なのでしょうか」
なんとも言えない顔で頬をひくつかせるアーティ。俺は声を大きくだして笑い、ティアは忍び笑いを、セネラは口を押さえているが隙間から勢いよく空気が漏れている。
「貴方たちには信仰心が足りないようですね。これからも勇者、賢者、聖女として経験を積んで貰わないと」
「いやいやいや、なんかこのメダリオン使うと変なんだよ。これ絶対放置されすぎて壊れてるだろ。剣士でいいから用意してくれよ」
ちょっと私達の分もでしょとティアやセネラが乗っかってくるが、肝心のアーティは全く聞いていない振りを決め込んでいる。
聞けよ。
「あの」
やっと体を動かすだけの力は戻ったのか、危なっかしく上半身をおこしてセレスが声をあげた。
「私達はどうなるのでしょうか、捕虜でしょうか。助けて頂いた手前抵抗する気はありませんし、ごらんの状態です。お教え頂けると少しでも気が安らぐのですが」
「別にどうする気も無いですけどね。こちらに敵意が無ければ何をしてもいいですし拘束する気もありません」
「面倒臭いだけだろ」
アーティの言葉についつい本音が出てしまった。ティアとセネラが揃って両側から肘でつついてきた。
目を細めて笑顔で睨み付けるなんて器用なことをするアーティ。とりあえず愛想笑いを浮かべて誤魔化しておく。
なんか、余計に笑顔にすごみが出てねーか?
「ごほん。そうですね、村に滞在している間は神器をこちらで預かります。水の神の元へ戻るときには返却しますからいつでも声を掛けて下さい。あと、村での滞在は常に祈りの神の勇者アズルと行動して下さい」
「ちょっと待ってアーティ、それは困るわ。私の家はまだ広さに余裕があるから私が預かるわ」
「私の所も大丈夫だから、一人づつ預かるのでいいんじゃないかな」
アーティは静かに首をふる。そして二人に小さく手招きをした。
アーティとティアとセネラは最初は真面目に相談していたのだが、時間が経つにつれて意地悪い顔を浮かべてこちらをちらちら見てくる。
家にすげー帰りたいんだが、嫌な予感しかしねー。
「分かったわアーティ、アズルに彼女たちを預けるわ」
「私もそれでいいよ」
何が分かってそれでいいのか分からんが、今日は神殿に泊めて貰おうかな。アーティも夜は神殿にいないだろうし。
「あの、私をずっとこの村において頂くことは出来ないでしょうか」
「ミ、ミーヤ正気なの! それってつまり……」
セレスの問いかけには答えず、ミーヤは懐から短い棒を取り出すと目の前に置いた。その棒は頭の部分に透き通るような青の宝石がはめ込まれていて、とても綺麗だった。
「私は水の神の信仰を捨てます。祈りの神の信徒になれませんでしょうか」
「理由を聞いてもいいでしょうか」
ミーヤによると、水の神の国にもう家族や親戚はおらず天涯孤独なこと。戦に負けた責をとらされ神器を取り上げられてしまえば、新たな加護を授けて貰えるか分からず生活が難しいこと。最後に、水の勇者との子をお腹に宿しているため、先の理由を含めてどんな扱いを受けるか分からないこと。
話を聞いていたアーティは次第に難しい顔になりながら、ミーヤが置いた神器を手に取った。そして両手で端を掴み――。
ギシッ!
体の芯に響く音をたてて宝石のはめ込まれた棒は折れた。
目を見開いて驚くセレスとミーヤ。俺たちは何をしてるのか分からず首を捻っていた。
「あり得ない、神器が壊れるなんて」
折った棒を両手にもってぷらぷらさせ、「壊れたものは壊れたのです」とアーティが微笑む。
神器って普通は壊れない物なのか? 壊れたら交換して貰えるのかな。三人でささやき合ってメダリオンを思いっきり曲げてみた。ティアも弓矢の鏃を押し付けて中央にある模様が外れないか試している。
頭に硬い何かが当たる感触がして振り返ると、今日一番の良い笑顔でアーティがたたずんでいた。
「何をしているのですかね、この罰当たり共は」
さっきまで持っていた棒がないとうことは、投げつけられたのはアーティに壊された神器という事だろう。
おまえも罰当たりじゃね?
隣では「私何もしていないのに」ととばっちりを食らったセネラが額をさすりながらいじけていた。
「これにてミーヤは水の神の信徒である証を失いました。明日『祈りの神シーディア』があなたにメダリオン――あなた方がいう神器を授けます。妊婦という事ですし、ミーアについては村長の下でしばらく過ごしなさい。部屋もあいているでしょうし何より二つ隣に産婆が住んでいます、心配事があるなら頼りなさい」
静かに、優雅に礼をするミーヤ。がさつで礼儀すら知らない村育ちの俺たちから見ても綺麗な仕草だった。
「『祈りの神シーディア』の御慈悲に感謝を」
「セレスについては先程通達したとおり、アズルの元で暫く過ごしなさい。それと神器をこちらへ」
セレスが言うことを聞かない体にムチをうち、体の支えとして利用していた杖をミーヤと同じく目の前に置く。ミーヤの棒と同じく杖の先端に青の宝石が取り付けられている水の賢者の神器だ。
受け取ったアーティは滞在時だけメダリオンを貸し出すので、常に持っていることを念押しした。
これで今日の所はお開きなのだが、俺は気になっていた事をアーティにぶつけた。
「なあ、その気になればメダリオンって本当は一日で出来るのか?」
俺の質問に左右から体を乗り出して返答を待つティアとセネラ。
「返品は受け付けませんよ」
なんでもこうも頑なに欠陥メダリオンを渡そうとするのか。無理矢理交換しようにも相手が何も持っていないなら何も出来ない。
いや、やらないけどな。
「あの、これからよろしくお願いします。それで早速で申し訳ないのですが、動けないのでおぶって貰えませんでしょうか」
「あの、私もいまだに体があまり上手く動きません。肩を貸して頂ければなんとか」
申し訳なさそうに俯いて喋るセレスとミーヤに気をとられている内にアーティの姿は消え、俺は二人からの刺さる視線を感じながらセレスを右肩に担ぎ、ミーヤに左肩を貸して家へと帰った。
肩口から聞こえる「もう少しまともな扱いをお願いしたいのですが」という言葉は俺には聞こえなかった。
というかティアとセネラ、お前ら手伝えよ。