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第14話 いざ異世界へ

すいません、ちょっとグダグダかも。

話数の番号を整理しました。第0話→第1話に変更することに伴い修正(2019/9/23)

「この度、魔王様から許可が下りて異世界への渡航および調査の為の旅団が再結成される事となった。調査内容の報告はもとより今回も異世界で採取したものは一部貴様らの物となる。だからって危険物の持ち帰りや現地の住民に不利益な事が無いようにしろ! もし非道な行為等が発覚した場合、極刑もあり得る!」


 六人までを限度に魔王の神殿の広大な敷地に数えるのも億劫になるほどの人たちがチームを作って異世界への渡航を今か今かと待ちわびている。

 昨日、私が姿を消して二人を尾行してきた魔王が住まうと言うことにされている館。シーディアの――アーティさんの神殿の数倍はあろうかという荘厳な白い巨塔が聳えている。

 あの神殿の裏側に姿を隠された本物の魔王が……いた。

 この集まりは異世界へ行き調査する為と言うけれど実際は忽然と消え去った魔王――継統樹の捜索となっている。その真実をしるのは私達と神殿の前を陣取り鉄の棒をくみ上げた櫓の様な壇上で演説をしている旅団の総隊長のみだとギリムから聞いている。

 アーディさんが今朝息咳きって私達の部屋に来たあとにギリムも訪れ、今回の調査という名の捜査に参加して欲しいと言われた。


 【賢者の】の探索能力、【隠者】の隠蔽能力。魔王を刺激せずに探し出せると期待されての事だった。

 頭の中を何かがすごい速度で通り過ぎたような痛みが走る。見ればアズルさんやティアさん、セネラさんも時折顔を歪めているので私と同じだと思う。

 アーティさんが異世界でも言葉が通じるようにと『心理』の術式で無理矢理頭の中に異世界の数え切れないほどの言語を叩き込んできたのだ。逃げようにも私の意思を体が聞いてくれず逆にアーティさんに向かって歩を進めていったのだから最上位の神と言われる意味をひしひしと床の上を呻き転がりながらも理解した。

 ちなみに皆も床を転げ回り苦悶の声がまるで呪いのように広間に響き、フーが今までの恨みとばかりにティアさんの額を何でもつついていた。


「よう、見ない顔だけど今回が初めての調査かい」


 頭の中でここ数日の出来事を反芻していて知らない男の人が近づいてきたのに気付くことが出来なく、少し背中が跳ねるように体が動いてしまった。


「わりぃわりぃ、いきなり過ぎたな。俺はリゼルっていうんだぜ、これでも異世界調査のベテランさ」


 人なつっこいような胡散臭いような何を考えているのか分かりかねる笑顔を自身の右手の親指で指し示し上半身を反らしてくる。


「どうしたのセレスちゃん害虫が寄ってきたのかな、気を許したら駄目だからね私の計画が壊れちゃうんだよ」

「変な男と関わるとお腹が大きくなったり碌な事にならないわよ。それとセネラ欲望に忠実すぎよ、またセレスに引かれても知らないわよ」

「うっ」


 こないだの夜の出来事で男の人が女をどんな風に見てどんな風に扱うかを知ったから簡単に気を許す気は無いけれど、さすがに二人の言い草は酷いんじゃないかな。


「あー、悪いなこの二人はちょっと変わってるから」


 アズルさんがすかさずフォローを入れるが二人が拗ねたような顔でアズルさんの向こう脛を何回も蹴り出した。

 ティアさんはともかくセネラさんの蹴りは明らかに重く響く音でたまらずアズルさんがセネラさんの頭にグーを叩き込んで大人しくさせていた。


「おいおい、俺を気遣ってくれたんだろうが女性に暴力はだめだろ」


 頬が断続的に動いているリゼルが困ったような嬉しいようなそれでいた諫めるような不思議な顔で声を発した。


「気にすんないつものことだ、それにこの二人以外には暴力振るわんから」

「おまえ、それで良いのかよ」

「あはは、アズルの愛が重いんだよ。だけどこの愛を受け止めてこそ計画へまた一歩近づくんだよ」

「ちょっとセネラ抜け駆けは良くないわよ。あなたの計画には私も組み込まれているんだからあまり勝手な事をするならセネラも私の対象にするわよ。出来ない訳じゃないんだから」

「どんとこいだよティアちゃん。ティアちゃんだったら私の愛を広げられると思うんだよ」


 暴走している二人の言葉が私の背筋をくすぐってじんわりと背中を湿らせていく。気付けばアーティさんにされたように勝手に脚が動いており二人の姿は小さくなっていった。それでもその声は耳に絡むようにして頭の中の常識を揺さぶってくる。


「まあ気にすんな。半分冗談だ」


 無理! 半分でも十分!


「おまえら、誤解が誤解じゃなくなったぞ。フォローしねえからな」


 気付いた時には隣にアズルさんが位置どっていた。私より背の高いアズルさんをそれとなく見上げると、周囲をゆっくり見回すように視線を動かしさっきから感じている私への視線とぶつかっている様だった。

 なんとなく言葉にしづらく、心の中でありがとうと呟いた。

 呆然と立ちすくんでいるリゼルと名乗った男の人、頭を抱えて座り込んでいるセネラさんとティアさん。ティアさんの足先をつついているフーと傍観している私達。

 良くも悪くも……いや悪い意味ですごく私達は目立っていた。




「あはははは、おまえらマジで面白いな。よし決めた! 今回はおまえらについて行くぜ。幸い俺が参加しても六人を超えないしな」


 リゼルの後ろでは仲間と思しき五人の男性達が勝手に決めるな、勝手に抜けるなと騒いでいるが本人はまってく動じず取り付く島もない。


「あんたらの名前はさっきの馬鹿騒ぎで聞いたけどさアズル、ティア、セネラ、セレスでいいんだよな。それじゃ俺の名前を追加して」

「なにしてるの」

「パーティーの申請は俺がやっといてやるよ。初めてなら分からないだろ」


 申請?

 私の疑問にリゼルは気にすんなと行ってそのままさっきの演説があった壇上の方へ向かっていった。


『あの野郎マジで裏切りやがった』

『いくらコブ付きだからって三人ともってわけじゃねーだろうし』

『あいつ持ち帰ってきたらちょっと話し合わないとな』

『リゼル入れて五人だよな。わりっちょっとトイレ行ってくるわ』

『奇遇だな俺もちょうど今行きたくなったんだわ』

『トイレは確かあっちだぞ。ここで一人で待ってるから全員行ってこい』

『なんだ知らねーのかよ、こっちにもトイレはあるんだぜ』

『おいおい何で誰もお互いから目線を逸らさないんだ。俺たちは信頼で出来た長年のパーティーだろ』

『お、そうだな。それじゃ誠に遺憾だがリゼルがお世話になるって俺が代表して挨拶してくるわ。少し時間掛かるかもしれないけど気にすんな』

『緊張してらしくもない難しい言葉がでたんだな。わかるわかる、俺も行ってサポートしてやるぜ』

『しゃーねぇ、俺が留守番してるか。にしてもリゼル遅いな、一言くらい文句言わせろっての。場所は分かるし会いにいくか』

『てめぇそんなんで俺たちを誤魔化せると思ってんのか。大方リゼルの申請用紙に自分の名前を追加する気だろ』

『仲間が信じられないのかよ』

『女が絡めば友情なんて壊れるんだよ、常識だろ』

『あ、あいつまじであの子達の所へ行ってるぞ』

『ほっとけ。将を射んと欲すればまず城ごと燃やせだ』

『それ一緒に燃やしてないか』

『細けぇ事はいいんだよ。あいつ戻ってきたぞ』

『リゼルは馬鹿で女好きだが女の嫌がることや同意無しでの乱暴はしないって伝えてきたぞ。ある程度は安心してくれたみたいだな。あとはリゼルの努力しだいだ』

『おまえお人好しすぎるだろ。弱肉強食……いや、戦争なんだぞ』

『なんか欲望丸出しの俺たちが恥ずかしくなってきたわ』

『いやまて、さっきまで一緒に争ってたのにこの変わりよう。さてはリゼルだけじゃなく自分の株も上げてきたのか。リゼルが失敗すると踏んで漁夫の利か』

『おいおい深読みのしすぎだぜ。俺の普段の行いを思い出して見ろよ、どこに下心を挟む余地があるんだよ』

『『『『……』』』』


 ああもストレートに本能をぶつけ合えるのは見ていて恥ずかしいというか少しだけうらやましいというか。

 ティアさんとセネラさんみたいな程じゃなくても少しは私も見習わないといけないと思う。


「どっかの火の勇者と違っていっそ清々しいわね。あそこまで下心がオープンだと逆に警戒心が薄れそうね」

「あの人たちに教えを請えばアズルが本能のままに私達を求めてくる方法が分かるのかな」

「セネラ、少しは抑えないとまたセレスに距離を取られるわよ。私だって頑張って抑えてるのに」

「この程度たいしたことないんだよ。ねえセレスちゃん――が居ない?」


 前言撤回。誰も参考になる人が居ないのがよく分かった。

 徐々に視界の中で皆が小さくなっていく。まるで遠い世界の人たちの様に私との距離が離れていく気分だった。


「そう邪険にしてやるなよ。少々変わってるけど俺の幼なじみなんだしさ」


 少々?

 意識の隙間をついて私の腰に腕が回されるとひょぃっと肩まで担がれて、まるで干物の様な態勢で皆の所へ連れ戻された。


「いや悪いって。抱っこやおんぶするとあいつらはいつも襲ってくるからつい癖で」


 前回はともかく今回までも女の子扱いされなかった事に不満を感じながらも、横目でこちらを伺うティアさんとセネラさんに気後れして脚が下がってしまった。


「悪気はないしセレスの嫌がることはしないから慣れてやれ」


 簡単そうに見えてとても難しそうに聞こえたなと思っていると、私がこれ以上逃げられないようにアズルさんが肩に腕を回してきた。


「やはりセレスちゃんは恐ろしいんだよ。エビで龍を釣るってこういうことなんだろうね」

「セネラ。私達には逆立ちしても真似は出来ないんだから私達なりにやればいいのよ。最近になって無理しても良い結果にならないって気付いたわ」

「そっか、なら私達は銛で龍を突くがらしいんだよ」

「良いわねそれ」


 全く話の流れについて行けずにぽやっと頭の中が白くなりかけた頃、リゼルと名乗った男の人は帰ってきた。そういえば初めて声を交わしたときから振り回されてよく見ていなかったけど、服装はラフなズボンにシャツの上から急所の部分だけ皮鎧を着込んでいる。皮鎧も縁を見ると金属の小さい輪が見える部分があり、裏地にチェーンメイルが組み合わされ打撃と斬撃に対応出来る様にしているのかもしれない。今までの戦場でも金属鎧と皮鎧を無理に繋ぎ合わせたような武具もあったから正解だと思う。

 はじめに武具に目が行くのもどうかなという感じだけど、顔の造形の方もリゼルはかなり整っている方だと思う。鼻は高すぎず低すぎず彫りが深くなりすぎないような絶妙な大きさで、実年齢に対して大分若く見えているのではと予想できる。髪は金色で眼は碧色と平均ながら、眉は太く眼は少し切れ長で意思の強さと感じると共に身に纏う雰囲気を引き締めていた。


「あんたらまだやってたのかよ申請は終わったぞ。俺たち五人で『アルフォルス』が担当になった」

「アルフォルスって言われてもな、全く分からないぞ」


 アルフォルスってどこかで聞いたような。つい最近聞いたような気がして記憶の海の浅いところを探っている間にリゼルの仲間達は武運を祈るといってそそくさと人混みの中へ消えていった。


「アルフォルスはな天使と悪魔が住まう異世界だ。要約するとエロの聖地なんだが、元の世界へ帰る気がない場合だけだな。下手に手を出してこの世界へ帰ろうとすれば何をされるか全くわからん。禄でもないことは確かだがな」


 引きつる顔の私とアズルさん。全く動じていないティアさんとセネラさん。諦めたような顔のリゼル。

 逃げ出したい私はさっきからアズルさんの腕に抱かれて逃げられないでいた。

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