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第11話 セレスが暴走しました1

話数の番号を整理しました。第0話→第1話に変更することに伴い修正 2019/9/23。

「先ほどは申し訳ありませんわ。そちらの事情を考えずにこのお馬鹿が口に出したことで心を痛めさせてしまいましたね」

「おまえは本当に……シーディアも含めておまえらは本当にやりたい放題だな」

「あら、神なのですからこれ位がちょうどいいのですのよ」

「言っていろ。それとそろそろ胡散臭い喋り方はどうにか出来ないのか」

「あら……あらあらあらあら」


 俺たちは迎えに来たホテルの従業員に連れられて再度さきほどの部屋を訪れている。

 俺たちの心情とはまるで正反対のようにいきなり痴話喧嘩をはじめ、今なを口元に柔らかな笑みを浮かべつつ目には剣呑な光が宿っていた。


「あの、先ほどの件ですが」


 これでは一向に進まないと感じたのかセレスが声をかければ、ギリムは一度軽く溜息を吐きリフェルは右手を頬にあて少し顔を傾げて困ったような笑みを浮かべる。


「多くの選択肢は示せなかったが、どの道を行くのか決めたのか」

「ですから、もう少し気を遣ってあげなさいと先ほどから言っているではないですか」

「うるさい。言葉で誤魔化そうがそれで何が変わるわけでもない、単純に考えられないから悩むのだ」

「はぁ、それは脳筋の理論ですわ」


 はっきり言ってどうするかを決める、考える時間までは与えて貰えなかった。あとはセレスがどうするか、これはセレスの問題なのだから余計な口は挟むことが出来ない。

 固唾を飲み込む音が隣から聞こえる。俺の右側から細い左手が寄せられると俺の右手の上に重ねられ力が込められる。

 おそらく反対側でも隣に座っているティアの左手を掴んでいるんだろう。まるでセレスの手を通して、セレスの抱いている緊張がや悩み、葛藤が流れ込んでくるように感じた。

 使える物は何でも使え、俺でもティアでもセネラでも。余計な事は考えずに自分のことを考えろ。余計な物を見て目的を、欲しいものを間違うなよ――俺みたいに。


「私は……魔王に会いません」


 悩みに悩み抜いたのか、視線厳しくそれでも強い意志を感じさせて二人を見る、いや睨む。

 魔王に会わないということは、水の神の元へ戻らず俺たちの元へいるという事のはずなんだが、セレスの表情は何故か俺の心に波紋を広げた。


「そうですか、理由をお聞きになってもよろしいですか」


 固まった喉をほぐすように細く呼吸を数回行ったセレスは、ゆっくりとわずかに首肯する。


「私の寿命、状態。あなた方が何を不都合と考えているのか聞く時間と考える時間を与えて下さった事にまずお礼を言わせて下さい」


 セレスからの言葉を聞いた二人は表情を消した顔で、部屋のドアの近くになっているカリンを見つめている。当のカリンは不自然な程首を九十度俺たちとは逆方向に向け我関せずを貫こうとしているが、相も変わらずすごい量の汗を流し始める。


「私達が無理矢理聞き出したんだよ。カリンさんを攻めないで欲しいんだ」

「第二種公務員ですから機密情報はほぼ与えられていないでしょうが、すこし軽率過ぎますわね」

「ふん。褒められた事ではないが既に起こったことだ。これ以上は無駄な時間を取るだけだ」

「ほんっとうに清々しい位の脳筋ですわ。うらやましい」


 原因中の原因のセネラがフォローを入れるが、二人の話を聞く限りあまり責める気は無いようだ。だけど――。

 あれだけの話が機密でもなんでもない?

 とても重要な事だと思うのだが、何も知らない俺はそれ以上考える事ができずにセレスの言葉によって頭の中から押し流されていった。


「どうやっても死ぬなら、最後は皆と一緒に居たいだけです」

「そうか。そちらが決めることだ、好きにしろ。魔王にはまだおまえ達が訪問してきた事は伝えていない。何もなかった事として静かに暮らすんだな」


 体の芯まで響くような轟音と共に部屋が痺れるように揺れた。いつの間にかリフェルはギレムの後ろに立ち、頭上から肘打ちを叩き込んだ姿勢をしていた。


「き、貴様」

「あなたが勝手に決めてしまうからですわ。魔王の了承を得ないどころかそのまま返すなんて。魔素枯れしているのに平然と活動できるなんて異常事態、貴方たちには悪いけれど魔王領で余生を過ごしていただくか最低でも監視も付けさせていただきますわ」

「それはもちろん私だけですよね。皆に迷惑はかけたくないです」

「ちょっとセレスちゃん、ここまで来てそれはないんだよ」

「そうね、もう私達の妹みたいなものだし、このまま本当に妹になってもいいし」

「おいティア、そんな目をしてこっちみんな」


 苦しそうに笑いながらもセレスは「有り難う」と言って、二人に再度気持ちを告げた。




「ねえ」

「どしたのティアちゃん」


 ぐるりと周囲だけでなく頭上も見回し、ティアが小首を傾げてまなじりを少し下げる。


「さっきからね、フーが見当たらないのよ」

「そういや、あの二人と会うときにはもう見た記憶がないな」

「そうだね」


 セレスも俺と同じでフーをしばらく見た記憶が無いようだ。

 セネラと顔を見合わせた俺たちは、このホテルへと来た転送部屋へと向かう道を引き返し、再度部屋に戻ったがそこには誰もおらずもぬけの空だった。

 カリンはあれから二人に連れられてある場所に引き渡されるとの事だったので、申し訳ないが心の中で手を合わせた。どっかの世界のとても強い気持ちを伝える時に行う動作だそうだ。

 案内役がいなくなった事で俺たちはどうすればいいのかという事になったが、基本的に自由にしていいとのことだった。ただ、常に監視はされているので節度を持った行動をということで、俺たちは来る前より緊張感を強いられる状態だった。


「最後はセネラがフーを抱いていたんだったか」

「そうだね」

「そうだっけ。覚えてないけどセレスちゃんが言うならそうなのかな」

「ティアも抱いてなかったか」

「そうだね」

「私は転送部屋の時に……」

「そうだね」

「おい、セレス?」

「そうだね」


 セレスの顔をのぞき込めば穏やかに微笑を浮かべて、眼の前の俺ではなくはるか遠くを見ている感じがした。最後の辛そうな笑顔とは対照的で心が透明になっていくような見る者を優しく包むような笑顔。だがそれがとても不自然で後からじわじわと不気味さが這い寄ってくるようだった。


「セレスちゃん本当にどうしたの」

「セレス、大丈夫

「そうだね」

「おい!」


 あの時はもしかしなくても相当な無理をして、今反動が来たのだろうか。俺は強いかけ声と共にセレスの両肩を掴みおかしくなったセレスを正気に戻そうと肩を揺さぶろうとしたが、俺の手がセレスの肩をすり抜けた。力を込めて動かした手がすり抜けたことで体のバランスを崩し、セレスに少しもたれ掛かりそうになったのだが、肩と同じでセレスとぶつかる事は無く、セレスの体が蜃気楼の様に俺に重なった。


「え、え、おかしいんだよ」

「なによ、これ」


『幻術、幻影、意識の阻害――【隠者】の残滓。娘を探し救え』


 まただ、また【勇者】のメダリオンから声が聞こえる。頭に直接響く声がまるで警鐘の様に響き繰り返される。頭痛にもにた感覚に頭を抑え片膝をついた俺を二人が心配そうにしてくるが、二人の動く口とは裏腹に何も言葉が頭に入ってこない。


『新たな神を作らせるな――新たな神を殺させるな――敵対させるな』


 一体、何を、言って――くそ、頭が!


『【賢者】の力を借りろ、娘を探せ』


 最後に一言、具体的な言葉を残し勇者のメダリオンは沈黙へと戻った。


「ティア!」


 未だに勇者のメダリオンの言葉が反響している頭を大きく左右に振り、無理矢理不快な響きを追い出した俺はティアの名前を叫んだ。

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