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第10話 第一回セレスちゃんを救う会議

話数の番号を整理しました。第0話→第1話に変更することに伴い修正 2019/9/23。

 セネラがテーブルの上に身を乗り出し、普段見ないような真剣な表情で告げる。


「これより第一回、セレスちゃんを助ける会議を行うんだよ」

「え?」

「ティア、おまえもグルか」

「ち、違うわよ。私も初耳よ」


 ギリムとリフェルとの話をいったん区切らせて貰った俺たちは、行きと同じくカリンに案内され今の控えめに言っても部屋とはいえない空間に居る。

 広さは先ほどあの二人と話し合った場所のおよそ倍だろうか。しかも広さが倍ではなく縦と横の長さが倍なので広さで言えば四倍か。広間と言って差し支えがない場所に通され、高い天井から圧倒的な存在感をもって俺たちを出迎えたシャンデリア。四隅にはこれは巨大な柱ではといえるような大きな張り出しが緻密な細工を施されて鎮座していた。調度品や家具なども言わずもがな、そんな広間としかいえない馬鹿広い部屋のこれまた巨大な十人以上は座れそうなテーブルの端に、俺たちは身を寄せ合い今の状況となっている。


「あのー、私帰って良いですか」


 セネラとティアに挟まれるように座っているのは案内人の公務員であるカリンだ。先ほどから逃げられないように両手をティアとセネラに捕まれている。俺は知っている、あれは絶対に逃げられない、もし逃げられたとしても今後一切あの手は役目を果たす事はないだろう。


「カリンさんには聞きたいことがあるからゲストとしてこの場にお呼びしたんだよ」

「何が何だが分からないけれど、セレスの為みたいだから大人しく付き合ってほしいわね」

「皆お願いだからなるべくコルトラ語で喋って」

「お願い帰らせくーだーさーいー」

「ベッドは六つもあるから大丈夫なんだよ」


 おまえらいつ以上にまとまりねーな。


「さっさと話を進めようぜ。無理言って話を区切らせてもらったんだ、いつまでも二人が待ってくれるわけ無いだろ」


 神妙な顔になるのはセネラだけ。あとはキョトンとしたりオロオロしたり何考えてるか分からなかったり、俺は少し不安を感じてイライラしてみたり。

 テーブルの上に肘をついて両手を眼の前に組んだセネラは真剣な表情で視線を俺たち全員に巡らせた。


「まずは魔素狂いと魔素枯れ。魔素枯れについては認識が合ってればアズルとティアちゃん、私は知ってるけどセレスちゃんは知らないといけないと思うんだよ。セレスちゃん、私達がなんで焦っているか分からないと思うんだ」

「それは……良くない事というのは感覚でわかる気がするけど」

「カリンさん!」


 突然のセネラの強い呼びかけにオロオロしていたカリンは飛び上がりそうな勢いで背筋を伸ばし、思いっきり裏返った声を広間に響かせた。


「私が無理矢理カリンさんに来て貰ってのは、私達に魔素狂いと魔素枯れについて教えて欲しいからなんだよ。それに何故不都合が生じるのか」

「いえ、その、私は第二種公務員ですのでこういった事に権限がないというか、魔素狂いと魔素枯れは問題ないですがその後の事はまずいといいますか、第一種特級案件の段階で私が出しゃばる事が出来ないというか」


 あっちへこっちへ視線を泳がし、汗がにじみ始めたカリンは若干言葉が怪しくなりながらもこの場を逃れようとするが、本当に二人が待ってくれるリミットまでの時間を無駄にしたくない。俺だってセレスの事は妹のように心配だから。


「カリン、さっさと言った方がいいと思うぞ。セネラは天使の血を、ティアはエルフの血を引いているからな、どうなっても俺は止めないぞ」

「ひゃぃ! て、天使とえ、え、え、エルフ?」


 両手をとたんに大きく振りだしカリンが逃げようとするが無駄な努力だな。


「そうなんだよ、私は天使の血を引いているんだよ。そういえばカリンさんは可愛い顔をしているね」

「私から見ればどっちかというと綺麗な感じじゃないかしら。まあ、嫌いじゃないわね」

「ま、まって下さい! 私は普通です、普通ですから」

「私も普通なんだよ」

「私も普通ね」

(ねえアズルさん、カリンさんは何を困ってるの。さっきの話せないことについて困っている感じじゃないけど)


 そういや天使と悪魔、エルフの集落があるのは魔王領だけか。ちょうど良い機会だし俺がいないときの為に警告しておくか。


(セネラとティアとは絶対に密室で一緒になるな。理由は見てれば分かる)


 眉根を寄せると言うより渋い顔で納得できないようだが時間を置かずに理解出来るだろう、あの二人が危険人物だって事が。

 さっそくティアがカリンの太ももに手を這わして徐々にスカートの暗がりへと滑り込んでいく。セネラは息が掛かりそうな程にカリンに近づき、少しずつもたれ掛かるように体を反らして逃げようとするカリンを追い詰めていく。


「こ、こんな所で無節操天使と無差別エルフに襲われるなんてーーーーー。二人とも見てないで助けて下さいよーーーーー」

「えっと」

「まあ、なんだ。相手を好きと感じれば一生を通して愛を注ぐのが天使で、愛する相手を差別しないのがエルフだ」

「言動と状況が一致してないんだけど」


 半眼になってセレスが俺を見てくるが別に嘘じゃない、重要な事を言わなかっただけだ。


「分かりやすく言うとな、相手がじじばばだろうが、人妻だろうが、赤子だろうが気に入ったら死ぬまで愛をもってつきまとうのが天使だ。エルフはエルフでなんというか、相手を選ばないんだ。相手がエルフだろうが人間だろうが魔物だろうが動物だろうが、果てには大木に一生を捧げたって奴もいたらしい」

「……」

「「視線が痛い」」

「助けて助けて助けて助けて助けて喋りますから助けてーーーーー」


 言質もとったしもう十分だろ。


「脅かして悪かったなセレス、それにカリンも。安心しろそいつらは筋金入りの変態だから」




 部屋に響き渡る絶叫を吐き出したカリンと、一時は部屋の扉に手をかけ逃げだそうとしたセレスは今は落ち着いて先ほどと同じ椅子に座り直した。

 あの後カリンとセレスの誤解を解くのに苦労した。時間が無いなかでちょっと軽率だったが二人がド変態なのは本当の事だ。

 セネラの祖母はたった一人の人間しか愛せなかった天使としては変態で、セネラにもそれは受け継がれている。

 ティアも同じく人間、しかも同世代しか愛せないという変態だった祖母の血を色濃く受け継いでいる。

 詳しく説明するまでは今にも喰われそうと思っていたであろうカリンは泣き叫び、セレスは全力で外へ向かって駆けだした。

 カリンとセレスに向こう脛をしこたま蹴られたが、ノリノリだったセネラとティアにも蹴られたのは納得できない。セレスに避けられるのが嫌だったら手加減すりゃいいのに。

 とにかく、言質をとったことを弱みに他言無用ということで目的の内容を聞き出した。


 世界を構成する魔素、それは人の体も同様で全ては魔素で何が形作られるかで無機物や有機物、生命の種類が決定するそうだ。

 魔素狂いも魔素枯れはその魔素で形作られたものが保てなくなる、保てなくなった状態であるという。魔素狂いはともかく、魔素枯れについては俺たちの認識とほぼほぼあっている――と思っていたが、俺たちは中途半端にしか知らなかった。

 魔素狂いは何らかの理由でそのものを構成する魔素が少なくなり、理性を抑えられ本能であらゆる物から魔素を奪おうと狂うこと。

 魔素枯れは同じく何らかの理由で魔素が少なくなり、魔素により構成されていたものが崩壊を始めるということ。

 俺たちの知っている魔素枯れというのは、魔素が減り体に致命的に近い変調を来すものだと思っていたが、カリンの話を聞けばそれは魔素狂いの前兆で二人の話が本当なら既にセレスは魔素枯れまで進んでおりそれでも尚、体を維持し続けている異常な状態だという。

 そして二人が不都合と言った意味。それは魔素枯れを起こして崩れた体から一握りの魔素は方向性を失い、根源と言われる魔素の海へ戻らなくなるという事だ。これがどういう事か最初重大性が分からなかったが、この為に禁忌の森の西側では絶え間なく戦争が起こっているという事だった。


 シーディアと違い、セレスの話を聞けば適性があればいかな年齢でも関係なく、西側に属する神は神器を与えるそうだ。それが示す事は、神の手駒となった人々を戦わせ、消耗させ、魔素枯れを起こさせ、行き場のなくなった魔素を回収する。それがなんの為なのかは第二種公務員では知らさせていないそうだが、今の異常なセレスの体が崩れ去れば行き場を失った魔素が残されるだけで済むのか、それがどんなことになるのか……おそらく二人が不都合といったのはこのことだろうとカリンは語る。

 カリンの話が本当かどうか、身近な話で何故西と東でゴブリンの生態が違うのかが証拠だと思う。魔素狂い、魔素枯れを起こしていないゴブリンのゴルヤ。セレスが人類の敵だとまで言った西のゴブリンはおそらく魔素狂いで理性がないのではないか。どんな手法かしらないが人だけでなく魔物にも影響がもたらされているのならこれほど巫山戯た茶番はない。


「禁忌の森の西側で常に争っている神々は方向性のない魔素を作る為に争い、魔王様は神々を止める為にこの領土をつくり、この世界と異世界を繋げて様々な種族や知識の助けを借りています。西の神々の目的や、魔王様の深いお考えは分かりませんが、これがこの件で私が知っている全てです」


 カリンの話を元にして考えるなら、二人が言っていた魔王に会わせるのに是非はないとういうのは嘘か? セレスに負荷が掛かり魔素枯れが進行するのと、水の神の元へ帰り遠からず同じ状態になるのは同じ事のはず。結果がどちらも望まない事にしか繋がらないなら魔王に会わせるのは嫌がるはず。なら何故あんな嘘をついた? 何で俺たちに時間をくれた?

 誰も考えを纏めることができず言葉を発する事が出来ない状況のなか、部屋のドアを叩く音が鳴り響いた。

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