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叡智ノインシュタイン(14)

 

「1,000年前にこの日誌が在ったということは、ノインシュタイン家も1,000年前から存在していたのか。というより、これを記載したエリーの父親は500年近く生きていたと……まさか!? 」


 アロイスは、急いで次のページを捲る。

 そこには黄ばんだページに墨絵で簡単な絵と、膨大な数の細かい文字が羅列していた。


「こ、これは……」


 描かれていたのは、人骨と内蔵が描かれた人の全身図。その横に、杯に垂れる血雫と、それに関する詳細な記載。更には小さく、あの赤き鉱石が描かれていて。


「……ッ!? 」


 そして、アロイスはそれらを見た瞬間、驚愕たる表情を浮かべ、絶句した。


 エリーとナナは、アロイスの様子に、

「どうしたの?」

「どうしたんですか、アロイスさん」

 と尋ねたが、アロイスはどう答えていいものか分からなかった。そのページを見ただけで、ノインシュタインという存在と、エリーに関して全てを理解してしまったからだ。


「アロイスさん、どうしたんですか……? 」

「い、いや。待ってくれ……」


 冗談じゃないだろうか、そう思って何度も本を読み解く。他のページにも目を配らせた。だが、書かれていた全てにおいて、エリーと出会ってから、全てが合致するものだった。


(な、なんてことだ……)


 ナナとエリーは、そっとアロイスの見ていたページに近寄って、内容を伺う。そこには、貴金属の延べ棒がいくつか描いてあって、そのうちの1種に大きく赤色でバッテンがある。これにどんな意味があるというのか。

 その意味を一人理解したアロイスは歯ぎしりして、キョトン顔のエリーを見つめた。


(まさかのまさかってやつだ。何かの魔族であるとは分かっていた……が)


 誰が想像、予想をしただろうか。エリーの正体、ノインシュタインの一族の正体が、まさか。


(かつて存在していたとされた、ヴァンパイア族だったとは……)


 『ヴァンパイア』

 それは、かつて存在したとされる種族の一種である。

 彼らは伝承的な種族として語り継がれているが、世界各地に残されている情報から、実際に存在していただろう、とされている絵空事の存在だった。


(洒落になってないぞ。この本は歴史的な価値を持つどころじゃない。それに、その伝承的な存在が目の前にいるなんて。そ、それにおいても、この本の内容は凄まじいモンだ……)


 この赤き古本の内容によれば、叡智高き種族らしく、考えは人寄りだったらしい。

 自らを『血を求める種』として書き染め、幾つにも連なる業務日誌の頁は研究情報が事細かに書かれ、人間に迷惑を掛けることを脱するため、ノインシュタイン一族で研究を行っていたようだった。


(ヴァンパイアは人の血を求める種。故に枯渇した夜には胎動的に飲血を行う、か)


 赤き本に書かれていたうち、大体の内容を纏めたページを見て、エリーという存在に納得がいった。


 『 Beschäft Däglicher Rericht 300 Peite 』

 我々は、人間とアンデット族の間に生まれた人と魔の混血を持った存在であった可能性が高い。ただ、通常はアンデットと人間の間に生まれてくる赤子は、人寄りか、魔寄りになる筈だ。ところが、長い歴史の中において、アンデットの高い魔力と人間の知性の高さを併せ持つ混血種が生まれることがあったのだろう。その存在が、我々であると推測する。


 『 Beschäft Däglicher Rericht 301 Peite 』

 ヴァンパイアは人の血を求める種である。 故に枯渇した夜には胎動的に飲血を行う。人の血を成す限り、我々の成長は人間の齢25ほどで成長が停止するようだ。ヴラム・V・ノインシュタインは600年の時を経て、尚も若々しい。但し、人の血を取り入れない場合は加速的に加齢が進む。それでいても、魔力を施した銀細工で心の臓を貫かれなくては、身体は冷たく、Mama(ミイラ)となって生き続けるのだが。


(長年ミイラとなっていたが、何らかの影響で血を受けて再び身体が蘇ったんだ。そして出会った夜、俺に血を求めて胎動的に襲い掛かったってワケか)


 そして、もうひとつ。


「ナナ。もしかして、ウチの食卓でエリーが痛がった銀のフォークって、親父が遺したエルフの銀細工じゃなかったか」

「えっ? あっ、言われればそうかもしれないです。お酒の道具の他にもあったので、食器に使ってたのもあって」

「やはりか! 」


 魔力を施した銀細工に、エリーが痛がった理由も分かった。


「……アロイスさん、一体エリーちゃんの何が分かったんですか? 」


 すると、一人だけ理解が進むアロイスにやきもきしたナナが尋ねた。


「あ、うむ。どう言えば良いのか……」


 エリーは自分の存在について知ったアロイスを、ジっと見つめている。この少女に、ヴァンパイア一族であることを伝えていいものだろうか。


(だけど、真実を伝えないことは何よりも辛い。この子は頭が良いんだ、全てを伝えよう)


 アロイスは、自ら知り得た情報を全て話した。エリーはその話に真剣に耳を傾け、その当時、自分が知らなかった両親や親戚たちが何の研究をしていたかを理解した。


「お父さんとお母さんは、血を飲まなくていいようにしようとしてたって……こと? 」

「どうやら、そうらしい。君はヴァンパイアという種族なんだよ」

「そ、そうだったんだ……。でも私は血を飲みたくならないよ。それに、あの不思議なネックレスって何なんだろう? 」


 その質問には、さすがに詰まった。どうやら子供のうちは、血を欲するということを理解し切っていないのかもしれない。だけど、この質問だけは答え兼ねた。


「それは……分からないな。子供のうちは血を欲さないのかもしれない。ネックレスについても、絵には描かれているけど細かい記載がなくて分からないんだ」


 嘘をつくときは、本当の話と嘘を織り交ぜることで効果的になるという。その通り話を信じたエリー。そうなんだ……と、納得して頷いた。


「あとの内容は、当たり障りない感じだが……」


 ペラペラと適当にページを捲ってみた。

 ……と、そのうち、気になる記述を発見する。それは、きちんと書かれた研究記述と比べて乱雑で、大きな余白の真ん中に書き殴ったような短文だった。


(なんだコレは。この書き込みだけちょっと他と違うじゃないか)


 その短文の始まりから目を通してみると、どうやら文言は普通の日誌のようになっている。かなり崩れた文字で書かれていて、指でなぞりなぞり意味だけを抽出して解読したことで理解まで時間を要したが、それは、あまり知りたくない情報だった。


(1579年12月、我々、血、人間、城下町、襲われる……)


 その時点で、あまり、いい記述ではない気がする。


(1580年2月、我々、地下、娘を……守るために……)


 どくん……どくん……。

 ページを捲る毎に心臓が高鳴っていく。


「1580年5月、城を……奪われ……。妻……祖父……銀の槍、殺されて……迎えには、いけぬ……」


 銀の槍。ノインシュタインの銀の槍、だと。

 聞き覚えというより、見覚えがある。いつか見た、号外新聞の内容だ。


 『号外! ノインシュタインの呪いか! 』

 ▼2080年7月28日、またもノインシュタインに関する大事件がおきた。地元に在る(ある)、"銀の槍"が飾られていることが有名な博物館ボーデンで公開が予定されていた、今回の出土品(冒険者の成果物)が行方不明となったようだ▲


(分かったぞ。全てが分かった。城下町の人間たちが、銀の槍を用いてノインシュタイン家を滅ぼし、魔法銀の槍だけが現代に残っていたんだ。そしてノインシュタインの一族は、戦いのさ中にエリーだけは守ろうと両親たちは人の目に触れぬ城の地下に閉じ込めた……。いつか平穏になる日を信じて)


 だが、それは適わなかった。迎えにいくはずだった日は、訪れなかったのだ。地元の住民たちは血を求めたノインシュタインとは相容れぬことなく、城だけを遺して全てを無き歴史とした。故にノインシュタイン一族は伝承しか残らなかった。伝承通り、銀の槍の前に、一夜にして豪族は滅ぼされたに違いない。


(多分だが、入ってきた食堂は元々研究所で、地元の人間がそれを見たくないために増改築を施したのかもしれないな。だけどこれも今のエリーに言えた話じゃないか。あまりに凄惨すぎる……)


 アロイスは本を閉じると、それを片手に持ち、エリーには、こう説明した。


「どうやら、目ぼしい情報は無かったよ。解読が難しいところが多かったし、この本は宿に戻って解読を進めて、分かった情報があったらエリーに教えるとするけど、良いかな」


 アロイスは作り笑顔を言った。エリーは「うん」と笑顔で返し頷いた。


「ありがとう。それでは帰ろうか。その鉱石を壁の窪みに嵌めてみてくれ。きっと、それで戻れると思うんだ」



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