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叡智ノインシュタイン(9)


 そして飛行船は、途中の魔石燃料の経由を行いつつ約1日。

 いよいよイーストフィールズ東西区に位置する

『ノインシュタイン空港』

 に辿り着いた。

 三人が下船した午前10時、飛行場には沢山の飛行船と、既に大勢の観光客や冒険者たちの姿で混雑していた。


「す、すごい人ですね! 」

「沢山の人がいる……」

「相変わらずの混雑具合だな」


 行き交う人々や魔族の姿は様々な格好で、一般客のようであったり、冒険者のようであったり。

 普段、カントリータウンでも似たような光景を見ているナナだが、これほど大規模に賑わいでごった返すものは初めて体験するもので、思わず「ふわぁ」と感嘆した。


「人も凄いけど、景色も凄いですね。カントリータウンに似てるようで、少し違う……」


 地元カントリータウンは、険しい山々を切り抜かれて出来た小さな町で、故に大自然の厳しさを目の当たりに感じることが出来る。対してノインシュタインは、遠くに低めの緑の山岳が望める風景。同じ自然に囲まれた土地なのに、どこか違う。


「この国は、周りを山々に囲まれた平坦な土地に作られた町で、いわゆる盆地に出来てるんだ。カントリータウンは山々を直接切り崩して作った町だから、似てるようで違うわけだな」


 アロイスの説明に、ナナは「なるほどですねぇ」と納得した。


「では、町中にいこうか。そこが城下町に位置する場所だ」

「分かりました」


 アロイスが歩き出す。と、エリーは震えながら、その手を強く握り締めた。

 大丈夫か、そう尋ねようとしたが、エリーの瞳は涙を流しそうにあっても、強く決意に満ちていた。


(この空港も、エリーにとっては『時間の流れ』を感じる材料だ。きっと、この光景を見てもう……)


 エリーはアロイスを見上げ、下唇をキュッと噛みながら無言で頷いた。アロイスは、彼女の覚悟を重んじて頷き返し、その足を動かした。


「適当な宿を探そう。まずは荷物を置かなくっちゃな」

「そうですね、向かいましょう」

「うん……」


 三人は空港を出て、早速、町中に足を運んだ。


 ノインシュタイン町中は、足場が茶色のレンガ造りで、馬車が通る車道と歩道に分けられた巨大な中央路が城まで一直線に伸びている。そこから路地裏などに繋がる細かく狭い道が迷路状に伸びていて、地元に住む人間にしか分からない町字(区間)で構成されていた。


 建物のほとんどは木造レンガ造りで、3から4階程度の建物に纏まっていて高層建造物は存在しない。ノインシュタインの行政が、当時そのままの建物を残すよう規制を敷いているためだ。そのお陰で、城下町のどこからでも周囲の山々を望めるようになっている。


 エリーは、町を見渡しながら口を開く。


「町は見た目は大きく変わってない……けど」

「けど? 」

「ちょっとずつ違う……。お店が知らないのになってる……。人も多い……」


 そこも、そっちも、あそこも、あっちもだ。それに、全ての建物が小綺麗に纏まってる。自分が知ってる町はもっと乱雑で、こんなに賑わいもなかった。


「そうか。やはり町も色々と変わっていたんだな」

「う、うん。なんか、違う町みたい……」

「……」


 500年という膨大な時間。エリーにとって、見慣れていたハズの町並みは、似てるようで違う町になってしまっていた。


「その辺の宿に入ろうか」


 中央路を暫く歩いていると、それなりの大きさがある宿を見つけ、適当に入ってみる。予約に埋まってる事も少なからずあるが、ほとんどは予約制を取っていない。冒険者たちのように放浪者がフラフラと足を運ぶことも多いため、少しでも宿泊の回転を上げるので不確実な予約ではなく、実際に赴いて前金を支払うシステムがほとんどなのだ。


「お、綺麗な宿だな」


 入った宿は、赤絨毯の広いロビーに中々高級感に溢れている。値段も相応だろうが、こういう場所なら冒険者たちのような、その日暮らしの面子は少ないはずだし、きっと部屋も空いている。

 大理石で象られたカウンターに、整った黒の制服を身に纏う女性スタッフが「いらっしゃいませ」と出迎えた。


「どうも。2週間滞在したいんですが、部屋空いてます? 」

「1部屋でよろしいでしょうか」

「……っと」


 ナナを見て、「ナナは一人部屋にしようか」と尋ねた。


「え、いえ。三人一緒で大丈夫です」

「あーそうか。別に気にする必要もなかったか……宿となると、どうも気にしちゃうな」

「ふふっ、そうですね」


 もう一つ屋根の下で暮らしているのに、今さら気にする事などなかった。


「一部屋でお願いします」

「承知致しました。お煙草はお吸いになりますか」

「喫煙禁煙どちらでも。あと部屋は大きめのありますか」

「少々お待ちください」


 女性スタッフは、カウンター下から何かの名簿を取り出して何かを調べる。それらを指で追うと、数秒ほどで名簿をパタンと閉じてアロイスに言った。


「一般客室の他でございますと、スウィート・ルームのみとなります」

「じゃあスウィートルームでお願いします」

「有難うございます。スウィート・ルームの場合ですと支払いは銀行支払いのみとなりますが問題ございませんか」

「大丈夫です。セントラルバンクから支払います」

「承知しました」


 ナナは、それを聞いて少しドキドキした。スウィート・ルームは一泊何十万とする、と聞いたことがある。それを簡単に承諾するアロイス、やはり格好良く見える。

 慣れた様子のアロイスは用意された紙にサラサラと何かサインすると、スタッフに手渡した。


「有難うございます。それでは、ご確認するのでお待ちください」


 受け取った用紙に記載された機会番号を、近くにあったタイプライター機で打ち込む。数秒後、チリン♪ と軽快なベル音が響くと、スタッフはアロイスに近寄って頭を下げた。


「ご確認が取れました。有難うございます」


 そう言って、カウンター下から黄金色の301と書かれた鍵を取り出し、手渡す。


「お食事は部屋の中央にありますテーブルにメニューがございますので、電信機でロビーまでご連絡下さい。なお毎朝10時にスタッフがお掃除に参りますが、必要の無い場合は、お部屋のドアノブに掛けてありますプレートを青色から赤色にまわして置いて下さい」


 アロイスは「分かりました」と言って、ナナとエリーに、行こうか、と階段を指差した。

 奥の階段を上り3階に足を運ぶと、最深部の両開き扉に金色の文字で『301号室』と書いてあるのが見えた。


 鍵を回して中に入ると、豪華なシャンデリアに輝く広い部屋、絢爛なテーブルとチェアが出迎えた。壁には高そうな古物の絵が連なり、寝室と思わしき部屋も別に確保され、2人分の大きさがある柔らかそうなベッドが4つも並んでいる。どうやら書斎らしく個室も見えるし、バス・ルームも同じように豪華に違いない。


 アロイスは荷物をその辺に置いて、テーブルに置いてある食事のメニューに目を通す。ナナも覗くと、そこには桁を間違えているんじゃないかと思うメニューが長々と書いてあった。


「ひ、ひ~っ! アロイスさん、薄々感じてましたが、この部屋、凄い高いんじゃないですか」

「本来はあまり贅をしないほうが良いんだろうけどな、今回は事情が事情だから特別ってことで」


 チラッとエリーを見る。彼女は広い部屋を見ても微動だにせず、むしろ少し安心しているように見える。元々ノインシュタインの城住まいだったし、こういう部屋のほうが落ち着くのかもしれない。


「ち、ちなみに2週間でお幾ら……」

「聞かないほうが良いと思うぞ。包み込んで言うと、俺ら1ヶ月の生活費が10万として、約1年分くらいだ」

「えっ。えぇぇっ! ひゃ、ひゃくま……」


 ナナは頭を抱え、フラフラとソファに倒れた。



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