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素直な気持ち(3)


「ひっさしぶりじゃない、ナナ。元気してたー!? 」

「うん。凄い元気だよ。ランも元気そうだね! 」


 親友同士、心を許せる時間。久々に会って緊張気味ではあったが、旧友同士、多少の雑談を交わした所で、すぐ昔のような二人に戻ることが出来た。


「えーと、そろそろ18時だけど……まだ始まらないね」


 ふと、ナナが店にかけられた時計を見ながら言った。ランは同じく時計を見ながら答えた。


「18時からだったはずだね」

「あと5分くらいかな」

「もう皆もいるし、本当は始めちゃって良いと思うけどねぇ」

「そうだね。でもさ、みんな5年もすると色々変わっちゃってて驚いたよ」


 酒場の個室に集まった友人たちは、髪を染めたり、太ったり、痩せていたり、だいぶ昔と変わってしまっていた。それでも懐かしい面々を見ると、やっぱり嬉しくなる。


「あれ……ちょっとナナ! あそこに座ってるキリクの奴、見てよ! めっちゃ太ってるよ! 」

「わっ、本当だ。キリク君、体育祭で凄く足早かったよね」

「見る影もないなー。男って年齢重ねると、すぐ太るイメージのまんまだなー」


 ランは、くすくすと笑う。ナナも旧友らの変わりように驚いたりしながら、ランと歓談した。それから18時を回るとすぐ、全員が揃ったのを見計らい、同級生のうち一人が「そろそろ始めましょう! 」と立ち上がって、音頭を取った。


「とりまビール何人頼むー。つーか、生以外の人いるー? 」


 最初の乾杯の注文。複数名が「ワイン」や「お茶でー」など各々の注文が飛び交う中、ナナは特別に頼む事はなく黙っていた。


「あれっ。ナナってばビール飲むの? 無理しないほうが良いよ」


 意外だと思ったのか、ランが一応訊いてきた。ナナは優しさに嬉しくなりながら、「うん。飲めるよ」と答えた。


「へぇー、あまり飲まないと思ってた。結構イケるの? 」

「イケるかどうかは分からないけど、そんなに強いのじゃなかったら大丈夫かな? 」

「そうなんだ。私は逆に、飲みそうな見た目って良く言われるけど全然駄目だったりするんだよねー」


 それでも彼女は周りに合わせ、ビールは飲むらしい。

 やがて、全員の注文が終わると店員はイソイソと両手に何本もビールジョッキを抱えて次々とテーブルに運んできた。それを見たナナは「ああいう持ち方もあるのか……」と、呟いた。


「えっ。ああいう持ち方って? 」

「あの店員さん、大量にビールジョッキを運んでて凄いなって。あれなら沢山のジョッキを一気に運べるんだ……」

「あはは、そうだね。だけど、何でそんな勉強っぽく見てるのさ。そんな運ぶ機会なんて早々ないかでしょ」

「あ……えっとね」


 ナナが自分の事について説明しようとした時、先ほどの「始めましょう」と挨拶した一人が簡単な挨拶を始めて言葉は遮られた。そして、短めの話を終わらせると、挨拶をした彼はビールジョッキを高々と持ち上げて「カンパーイ! 」と叫んだ。合わせて、一斉に乾杯の声が上がる。そこら中からガシャガシャと、ガラス音が響き渡った。


「ナナ、カンパーイ! 」

「あっ、乾杯ー! 」


 まずはナナとラン、続いて隣に座っていた友人と、対面の友人たち。更には、向こう側からわざわざテーブルの垣根を超えた数名が、ジョッキを持って乾杯しに来てくれた。


(色々お話するのは後でいっか。それより、みんなで集まった飲み会の席から見た景色って、こんな感じなんだ。楽しいー♪)


 店員としての立場から大勢の飲み会を観覧する立場にあっても、こうして開幕から自分が参加するのは初めての体験だった。

 ナナは早速、一口ビールを飲み、直ぐにジョッキを置いて手を合わせて拍手する。……が、誰も手を叩く者はおらず、一人拍手したナナに視線が集まってしまった。


「あ、あれ……? 」


 ポケッ、とするナナ。

 自分の酒場では、いつもなら大勢の飲み会では乾杯をしたら一口飲んでグラスを置き、全員で拍手する、というのがワンセットだった。


「ナナ、どうして拍手したの……? 」


 ランが、小声で尋ねる。


「ふ、普通は一口飲んだら拍手するんじゃないかなって……」

「それはどっかの会社の飲み会とか、もっと年上の集まりでだよ、たぶん! 」

「そ、そうなの!? 」


 ハッとして、ナナは顔を真っ赤にした。すると、誰かが「ナナちゃん、物知りだよ! 」と、声が上がって、全員がグラスを置いて拍手してくれた。


「うぅ……。すみません……」


 恥ずかしくて小じんまりとしてしまったナナ。しかし、ランも合わせて一生懸命に拍手してくれたことや、周りがフォローしてくれたお陰で元気を取り戻すことが出来た。


(有難う、ランちゃん……)

(ナナってば、昔からこういう所、変わってないんだから! )


 やっぱりランは親友だったと、心底嬉しくなる。

 そして数分後。旧友らと話をしていた所、ナナの隣に男子が一人、腰を下ろした。


「ナナ、久しぶりじゃーん」

「あっ、イヴァン君」


 彼の事は、よく覚えていた。彼は、学生時代に自分に対し「好きだ」と告白をしてきたからだ。断った後も執拗に追い掛け回され、ランが仲裁に入ってくれるまで結構迷惑した記憶が強い。

 だから、隣に座ったイヴァンを見たランはしかめ面で、シッシッ、あっち行けと煽った。


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