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ハプニング! 姉妹堂(3)


「先ほどからネイルがご迷惑を掛けてすみません……」


 リリムは両手を下腹部で組み、深々と頭を下げる。

 アロイスは、気にしないで下さい、と笑って答えた。


「そう言って頂けると気が休まります。。しかし、アロイスさんは凄くお強いですね」

「元冒険者として少しばかり戦えるだけです。ところで、お二人はどうしてこんな森の中に? 」


 美しく可愛らしい女性二人が、こんな時間に森の中で襲われているなんて考えもしなかった。どちらも格好などから冒険者の類だと思えるが。質問に対しリリムは、簡単に、かつ分かり易く答えてくれた。


「あっ、私たちはハンター業を生業として生活しております。冒険者の傍らとしてではなく、魔獣討伐だけで生計を立てているんです。小さいですが、カントリータウンの端っこに姉妹堂というお店をお店を妹と二人で経営しているんですよ」


 『ハンター業』

 世界に蔓延る魔獣を討伐することで、素材などを収集して市場に流したり、害獣指定された相手を討伐して依頼された機関から報奨を受け取る事を生業とする者たちの事だ。普通は冒険だけでは食べていけない冒険者が副業で成すものだが、彼女たちはハンターを軸に生活をしているらしい。


「なるほど、お店を持つハンターさんでしたか」


 まだまだカントリータウンについて、知らない事が多いようだ。同じ町に住む同士だったとは、思いもしなかった。まぁ、ハンター業を営んでいるのなら、こんな魔獣たちが活発な深夜に、二人が活動している事も取り敢えず頷ける。


「私たちは今回、依頼を受けて月夜にしか咲かない月光草を探しに来たのですが……」


 リリムは両手で顔を隠し、本気で恥ずかしそうに説明した。


「本来なら正面切って戦えば、プラントイーターは火炎魔法で燃やせました。ですけど、言い訳にしかならないのが恐縮ですが、その……妹が……」


 彼女は言った。夜道を長い時間歩き回り、ようやく見つけた薬草に目を奪われたネイルが、プラントイーターの存在に気づけずに攻撃を許してしまったのだ、と。


「私も妹が捕まったのに動揺してしまい、あんな情けない姿に……」

「お、お姉ちゃん!! そんな恥ずかしい話しなくていいじゃんっ!! 」


 自身の情けない話をされて妹は憤慨し、姉はその様子を見ながら溜息を吐いた。


「はは、そういうことですね。事情は分かりましたが、とにかく無事で良かったですよ」


 アロイスが言うと、リリムは「お礼を言っても尽くせませんね」と答える。そして、今度は逆に、どうしてアロイスがこんな場所に訪れているのかと質問を飛ばした。


「おっと、自分も言わないとですね。自分は酒場の経営をやっているんですが……」


 自分は元冒険者で、今は酒場経営者。この森を抜けた先にあるダンジョン『魔窟壕』に、岩塩を採りに行く途中だったことを伝えた。


「それは、とんだ邪魔をしてしまいました。すみません」

「邪魔とは思いませんよ。でも、これから夜道は気をつけて下さいね」

「はい。お言葉をしっかりと胸に刻んでおきます」


 頭を下げて言ったリリムだが、アロイスの『酒場』という言葉で、ある事を思い出す。

 

「……あれっ。もしかしてアロイスさんの酒場は、東部に最近出来たっていうお店ですか? 」

「おや、ご存知でしたか」

「やっぱりですか。犯罪者の逮捕にも一躍買う、凄腕の元冒険者が開いた酒場のお話、聞いていたんですよ! 」


 アロイスが噂の酒場の店主だと知って、リリムは羨望の眼差しを向けた。


「そのうち妹と一緒に遊びに行ってみようと話してたんです」

「おー、是非いらして下さい。週始めは休日ですが、それ以外は開いてますから」

「はい、必ずお店に行きますね♪」


 リリムは旨の前で両手を合わせ、ハート混じりに言った。


「お店でお待ちしてます。二人とも、気軽に遊びにいらっしゃって下さい」


 アロイスの言葉に、ネイルもハートを浮かべ、

「絶対いきまーす! 」

 と、手を上げて元気よく答えた。


「それでは、またお会いしましょう」


 今度こそアロイスは魔窟壕に足を向け、走り出す。とんでもなく時間を取られてしまったが、誰かを助けられたのなら、それで結果オーライだ。


(ちゃっちゃと岩塩採って、店に置いて家に帰ろう)


 夜道を駆け、ようやくダンジョンに辿り着いたアロイスは、猛スピードで採掘場まで赴き、さっさと岩塩を回収する。そのまま酒場に向かって岩塩を置いたのち、自宅に戻った時刻は朝6時を過ぎていた。


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