ハプニング! 姉妹堂(2)
お前を倒す。そう言ったアロイスは、まさに風の如き速さで、地面を這うようにスレスレまで身を低くしながらプラントイーターに突っ込んだ。全てのツタがアロイスを目掛け振り下ろされるが、それよりも早く、幹の中枢に駆け上っていく。
「凄く早い! 」
「すっごーい! 」
二人は彼を目で追って、息を呑んでそれを見守る。
「……しゃらぁッ!! 」
そして、アロイスが雄叫びを上げて幹の頂上付近、プラントイーター頭部の大口の一角に陣取った時。そこからは消化試合だった。双剣を利用した凄まじい速度の剣技は、幹から伸びる枝状のツタは次々と落とす。僅か十秒足らず、邪魔なツタは全て地面に落とされ、ビチビチと魚のように踊り狂う。
「これで後は、そのデッカイ幹だけだな」
ツタを斬り終え、地面に飛び降りると、両腕に持っていた片手剣をクルッと回して二本とも地面に突き刺す。丸裸になった幹の前に一言「覚悟しろよ」、余裕の笑みを浮かべて言った。
「な、何て人……」
「あのお兄ちゃん、凄く強いよ……」
目を丸くする二人を見て、アロイスは「直ぐ終わらせるよ」と言う。また走り出し、その勢いのまま、幹の半分に刺さりっぱなしだった自分の大剣を握り思い切り押し込んだ。
このままでは斬り殺される。プラントイーターは暴れるが、抵抗出来る手段であったツタは、全て切り落とされている。激しく身体を揺さぶるばかりで、されるがまま、結局はその大剣の前に真っ二つにされてしまうのだった。
「はい、お疲れさんっ」
バキッ……ズズゥン……。
土煙を上げて倒れるプラントイーター。それをバックに、地面に刺していた片手剣を持ち上げ、助けた二人の元に近づいた。
すると、髪の短い元気の良い女の子が、
「すっごーい、お兄ちゃんつよーいっ! 」
声を上げ、両腕を拡げ強く抱きしめてきた。
「うおっ、な……何だっ 」
突然の抱擁にたじろぐアロイス。
それを見たもう一人の髪の長い丁寧な女子が、
「こらぁネイル! 離れなさい! 」
と、怒った様子で声を上げた。
「えー。だってこんな運命的な出会い、きっとこの人が私の運命の人だよ! 」
「何でいきなり運命の人になるの! とにかく早く離れなさい! 」
「嫌っ!」
「こ、こら! す、すみません妹が失礼を……! 」
どうやら、この二人は姉妹らしい。アロイスは「いえいえ」と、苦笑いして、取り敢えず持ちっぱなしだった片手剣を二本とも姉に渡した。
「有難うございます。……そしたらネイル、とにかく離れて。お姉ちゃん、本気で怒るよ」
姉はギロリ、と妹を睨んだ。ネイルと呼ばれる妹は、唇を尖らせ「ちぇっ」と、つまらなそうにアロイスから離れ、渋々と自分の剣を姉から受け取り、鞘に納めた。
「はぁ、妹が申し訳ありません……」
姉も剣を鞘に収めながら、困った表情で言う。また続けて、お礼と自分の名をアロイスに伝えた。
「でも助かりました。有難うございます。私はリリムと言います。宜しければお名前を聞いても宜しいでしょうか」
丁寧な姉、リリムは言った。アロイスも彼女に合わせて低姿勢で返事する。
「自分はアロイスと言います。怪我などはありませんか? 」
「大丈夫です。本当に危ないところを、有難うございました」
リリムは命を救ってくれた恩人に、再三のお礼を口にして微笑む。するとアロイスは、月明かりに照らされた彼女の笑顔を見て、思わず美々しさを感じてしまった。
彼女は赤色のような、濃い桃色の長髪がとても美しかった。大人びた顔立ちと、赤いルージュの唇。妖艶という言葉が良く合う、色気を感じさせる雰囲気。
動きやすい茶色のミニスカートと、その太ももから見え隠れした黒タイツ。腰に巻いた黒ベルトには、ナイフや道具を仕舞う小さな袋を携えている。上着については、やや薄い素材を利用しているようで、防御面より動き易さに特化しているらしい。
(冒険者として良く似合ってるな。だけども……)
だが、アロイスは彼女の上半身に集中してしまう。イーターに攻撃を受けた所為か、彼女の上着が破れ、内側の白い花柄下着と、たゆんと揺れる豊かな胸が、とても魅力的な谷間を作っていたのだ。
「ゴホンッ。あの、それは……」
アロイスは目を背け、胸元を指差す。彼女は指摘されてそれに気付き、「あっ……」と、顔を赤くして、恥ずかしそうに破けた服を片手で隠す。上着を引っ張り、見えないよう覆った。
「す、すみません。はしたない所をお見せしてしまいました」
「とんでもないです。いえいえ……」
二人は照れあって謙遜し合う。すると、背後から「こらーっ! 」と、声を上げた妹がアロイスの腹部を目掛けて抱きついて、面白くなさそうに口を開いた。
「お姉ちゃんとばっか喋らないでよー。お姉ちゃんに惚れたの? 」
彼女の名はネイル。リリムの妹らしい。
姉と同じ、濃い桃色の髪の毛は艶やかだが、姉と違いショートヘアに纏めている。リリムと比べると若干幼さを感じるが、それを含めての可愛らしさがある。
身に纏う衣装も姉と同様のミニスカートに黒タイツでも、ネイルが着用すると色気より元気を象徴する印象が強くなる。一緒にいるだけで、どこか楽しい気持ちにさせてくれる気がした。
「ハハ、お姉さんは綺麗だけど惚れてないよ。それより君も怪我は大丈夫かな」
「きゃーっ、アロイスさん優しい! 」
ネイルは、ぎゅうっとアロイスを抱きしめた。姉リリムは溜息を吐いて、妹を無理やり引き剥がす。
「あーっ、何するのお姉ちゃん! 」
「話が進まないから、貴方はちょっと大人しくしといて。分かった? 」
「むぅ……。つまんないの。はーいっ」
ぷいっ。ネイルはそっぽを向いた。
リリムは「全く」と頭を抱えつつ、改めてアロイスに話しかけた。




