表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/358

遠い南の島からの便り(9)

 受け取った赤い羽根は、太陽に照らされる度に炎のように色合いを変え、グラグラと輝く。心なしか、指先に火照りも感じる気がする。

 不思議そうにそれを見つめていると、此方に近づいたリンメイが物珍しそうに言った。


「おー、それは火炎鳥の羽根じゃないか! 」

「リンメイ。火炎鳥の羽根……だって? 」

「うむ。このカトレア諸島の火山に眠る秘鳥だ」

「そいつの羽根ってことか」

「そういうことだ。年に一度目覚める朝、この羽根を島に撒くいて空を飛翔するんだ」


 アロイスが手に持っていた羽根を、リンメイは指先で軽くなぞって言う。


「へぇ、それって結構なレアな品ってことか? 」

「大量に降り注ぐ物だし、価値云々はどうだろう。ただ島民にとって、幸せを呼ぶ羽根と言われてるぞ」

「なるほどねぇ。幸せを呼ぶ羽根、か……」


 確かに、美しく燃ゆる炎の羽根は、幸運をもたらしてくれそうな気がする。

 

「アロイス、つまりケットシーの二人は、お前に幸せになって欲しいって事じゃないか? 」

「ん、何……? 」


 そう言われて、アロイスは二人を見つめた。

 笑顔で此方を見つめるテイルと、恥ずかしそうにモジモジするセルカーク。


「俺に幸せになって欲しいって事なのか? 」


 そう尋ねると、二人は「うんっ」と頷いた。


「……有難う。嬉しい贈り物だよ」

「えへへー。アロイスが喜んでくれたなら、私はもっと嬉しいの! 」

「じゃあ俺も張り切って美味しいジュース作らないと。バーベキューもするし、たっぷり食えよ」

「うんっ! 」


 二人は、もう一度アロイスの頭と肩によじ登ると、すっかり落ち着いた様子で、作りたてのジュースを飲み始めた。

 どうやら、本気で懐かれてしまったらしい。だけど全然悪い気はしない。むしろ、二人の優しさがとても嬉しくて、心地よくて、心が暖かくなるばかりだった。



 ……そして、それが10年前の話。

 アロイスとセルカークの出会いの全て、である。


 ………

 …


「こんな感じだ。こうやって詳しく昔話をするのは初めてかもしれんな」

「……い、色々と凄いお話でした」


 ナナは、話の終えた今なお興味深そうに話に耳を傾け続け、何とも感慨深そうに答えた。


「だから、さっきの客がセルカークってことだ。立派に成長してたようで何よりだよ」

「そうですね、そんな赤ちゃんみたいな子が立派に育って……て、あれっ? 」


 ここで、ナナは不思議な事に気づく。


「あの、セルカークさんは出会った当時は何歳だったんですか? 」

「1歳や2歳にも満たないくらいじゃないか」

「……それって10年前の話ですよね」

「そうだな」

「でも、今日のお客として来たセルカークさんは、かなり年老いてませんでしたか? 」


 セルカーク、彼の年齢はアロイスの話から推測すると12歳のはず。だけど今日の彼は、立派な顎髭を生やした紳士だった。あの姿で12歳だというのか。


「ああ、そうか。ナナ、ケットシーの寿命は何年か知らないよな」

「寿命ですか? 」

「うむ、寿命だ」


 ケットシー族。ナナは彼らと出会ったのも初めてだし、知るはずがない。

 ナナは「はい」と、頷くと、アロイスは少し寂しそうに答えた。


「あのな、ケットシー……特に猫人族は寿命は長くても30年。平均25年に満たないんだよ」


 ナナは「えっ? 」と、耳を疑った。


「そ、そんなに短いんですか? 」

「純粋な人と比べればな。だから彼らは10歳になると、人間でいう半分の寿命を越えた事に等しいんだ」

「そんなことって……」


 紳士セルカークは、既に10から12歳。人間でいえば3,40を優に超えている計算になる。


「それと、ナナが遊んでいたシャムというお嬢さんがいたろ。あれは恐らくテイルの娘だよ」

「えぇっ!!? 」

「セルカークは代々族長のお守り役だからな。シャムは族長の娘だったテイルにそっくりだったし、年齢的にも辻褄が合うだろう」


 当時のテイルが3,4歳だとしたら、10年後の今、彼女の年齢も人間でいえば40歳。娘が生まれていても整不思議ではない。それに、テイルの娘のシャムを、セルカークがお守り役で共に行動している事も一致する。


「今日のセルカークは、別れ際に、俺を『お兄ちゃん』と言ったし間違いない。もっとも、店に来てくれた時に気づけば良かったんだが、互いに顔つきも雰囲気も変わっちまったからな。セルカークが俺のバナナアイスティーを飲んで懐かしい味だって言ってくれて、彼らが羽根を取り出した事で、ようやく思い出したんだ」


 今日、貰った赤く燃える羽根を摘んでクルクルと回す。当時見た、赤く情熱的な輝きは、変わらずに幸せ色に満ちていた。


「全く。なんて嬉しい『遠い南の島からの便り』だったことか」


 アロイスは、とても穏やかな表情で、それはそれは嬉しそうに言った。


「これ以上ない、嬉しい知らせだった。セルカークも、テイルの娘も、元気に幸せそうで。きっと、決して長くない生涯を楽しむよう、世界を旅する事にしたんだろう。願わくば、あの二人の全てが幸せになるように願おうか……」


 幸せが訪れる羽根に、彼らの幸せを願って。


「どうか、幸せな思い出で一杯になれるように……」


 幸せの想いを、込めて……。


 …………

 …


「待って下さい、お嬢様! 走らないで! 」

「こっちこっち! セルカーク、早くーっ! 」


 …

 …………

 …

 …




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ