表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/358

悠久王国のシロき王子(5)


「それは……? 」

「悠久王国の伝承を元にしたエンブレムだ。これは、王室の証なんだ」

「伝承……それが王室の証なんですか」

「うむ。世界に幾つか残ってる五大伝承のうちの一つだな」


 かつて古代戦争時代。英雄が礎を築いたとされる悠久王国。

 白き竜の力を持つ剣士が、血に濡れた悠久王国を救ったという昔話。

 今なお伝承としても語り継がれており、それを描いたエンブレムは、王室に関わる者だけが持つのを許される王族の証でもあった。


「輝きから見る限り、特級純石の類で造られている。感じる魔力は本物だ。つまり、ここにいる男は本物の王室に関わる人間だということは分かった……が」


 それでもなお、傲慢な態度を取る彼を王室の人間とは信じ切れない。

 アロイスに対して王子は「本物の王子だ!」と憤慨する。


「あのな、空から落ちてきて男が王子だなんて、いきなり信用出来るものか」


 そう言いつつ、エンブレムだけそのままにしておくわけにはいかないと、無理やり剥がして自分のポケットに仕舞う。彼が本物の王室関係者だと分かったら改めて渡せば良い。

 ……と、王子だと信じようとしないアロイスの態度に王子は攻め込んで言った。


「貴様、どうして信用しない。余は悠久王国の王子だ。その態度、死刑にも値するぞ!」

「じゃあ何故、王子様が空から落ちてきたんだ。まさか亡命じゃないだろうな」


 パラシュートを身に纏っていたということは、少なくとも何らかの目的があって落ちてきたということだ。この町やナナを何か面倒事に巻き込むわけにはいかない。

 すると、その質問に王子はギリギリと歯ぎしりしながら、悔しそうに答えた。


「亡命だと。侮辱するのもいい加減にしろ! 余は世界一周するはずだった飛行船の中で反乱にあったんだ。仕えていた兵士が急に暴れだし、余を王国の為に殺そうとしてな……!」


 本気の口調でシロは言った。

 どうやら嘘を吐いているわけではなさそうだ。しかし、それが逆に頭痛の種となる。


(……じょ、冗談じゃないぞ)


 謀反を起こされた王子が逃げてきたというのか。

 あまり聞きたくなかった話だ。

 いや……まだだ。それが真実だと決まったわけじゃない。落ち着いて質問をしよう。


「ということは、シロ王子は飛行船から逃げて空から落ちてきたのか?」

「ロメスに窓から放り出された。余を助ける為だとか言ってな。ふざけている。あんなヤツ、王国に戻ったらクビにしてやる!」


 今度は地団駄を踏みながら叫ぶ王子。

 ロメスが誰か分からないが、彼が王子だというなら側近か誰かに違いない。飛行船という狭い場所で襲われたのなら、みすみす殺されるより、逃がすために窓から放り出すことは間違いではないではない。辻褄が合う話だ。


「ロメスめ、死刑でも生ぬるい。家族ともども、地獄を見せてくれる。父上にお願いして、一生の地獄を味あわせてやる……」


 本人は、それが最良の選択だったと認識してないようだったが。

 

「……取り敢えず事情は分かった。まず、君は王室の人間だとして扱わせてもらう」

「だから余は王子だ! 何度言えば分かる! 」

「シロ、そうそう全てを容易に信じたりは出来ないんだよ」

「な、なんだと……! 」


 呼び捨てにするな! と、また叫んでいるようだったが、構うだけ疲れると無視をして、アロイスはナナに話しかけた。

 

「ナナ。一度、彼を自宅に連れて行こう」

「自宅で休ませてあげるんですか? 」

「それもあるが、電信機で悠久王国に繋いで本人かどうか確かめる」

「なるほどですね、良いと思います」


 とはいえ、王室に直接連絡出来るとは思っていない。悠久王国の自治体か何かに連絡をして、シロ王子が本当に飛行船旅行に出ているかを確認した上で、彼が本当に王子なのかどうかを見極める。

 ただ、アロイスの心の奥底では、彼が偽者であってくれと願っていた。


(……本当は王子であって欲しくはないんだがな)


 もし彼が本当に王子だったとしたら、謀反の話もあるし、ひと悶着ありそうな一件だ。出来ることなら、偽者であって欲しいと思う。


(とにかく、まず電信機で悠久王国の出向しているはずの警衛隊に連絡しよう)


 ぶつぶつと文句を言う仮の王子を連れて、三人は一旦自宅に戻った。

 そして、電信機で交換センターにて警衛隊の出向支部に連絡をしたのだが、その回答は、まさに願いを裏切るものであった。


「はい、こちら悠久王国、警衛隊支部です!」


 通話に出た相手は、妙に慌しいような気配だった。通話の裏側では絶えずプルル、プルルと、電信機が鳴り響き、他の隊員らが対応に追われている様子だ。アロイスは、この時点で嫌な予感をしてしまった。


「あー、こちらイーストフィールズのカントリータウン、アロイスと言います」

「イーストフィールズですって……?」


 通話口の相手は、それを聞いて声色を変えた。


「はい。あの、シロ王子についてなんですが……」

「シロ王子ですか。イーストフィールズにて、何か情報をお持ちですか!?」

「あ……えっ?」


 未だ何も話をしていないのに、どうして向こう側からソレを聞いてくるのか。すると呆気に取られるアロイスの反応を受け、相手は「間違えました!」と大声で謝罪し、言い直した。


「す、すみません。ただいま少し立て込んでおりまして、余計な言葉を発してしまいました。それで、シロ王子について、何をお尋ねでしょうか」


 相手は落ち着いたように言い直すが、恐らくシロ王子の身に何かが起きたであろう事はハッキリと分かった。彼の反応で全てが真実である可能性が近づいて、アロイスは「嘘だろ」と頭を抱えながら、相手が興奮しないように少しずつ喋りかけた。


「えーとですね、王子について質問したいんですが、今、旅行か何か行ってませんか」

「……も、申し訳ありませんが、王室内の情報はお答え出来かねます」


 うむ。そこは至極真っ当な答えが返ってきた。


「では、イーストフィールズと王子は関係がありませんか」

「……お、お答え出来かねます。むしろ、どうして関係があるとお思いになりましたか」

「何となくです。しかし王子は飛行船で旅行していると聞きまして」

「どうしてそれを! ……あっ 」


 電話口の警衛隊員は、情報操作員として向いていなさそうだ。

 というか、彼の回答から察すると、やはり……。


「落ち着いて聞いて下さい。実は空からシロ王子と名乗る男がパラシュートで降下してきた為、うちで保護をしています。彼が本人かどうか分かりますか」


 それを伝えた途端、会話をしていた隊員は声にならない叫びを上げたあげ、慌てたあまりガタガタンッ!と、電信機を落下させた物音が響いた。

 アロイスが「うるさっ」と、耳から電信機を離した所で、向こう側から、

「そのお話、本当ですか!」

 と、大声で返事が返ってきた。


「本当です。なんなら、彼が本人かどうか確かめるよう電信を代わりましょうか」

「少々お待ち下さい! 王城にお繋ぎするよう連絡を致します!」


 隊員がそう言うと、ツーッ……と、電信機の接続先を変更する電子音が流れた。

待機する間、居間の椅子に座る王子に目を向けると、彼は「してやったり」という上から目線の表情で、どやどやと、アロイスを見下ろしていた。


(こんなマナーの欠片もないような王子が本当に……)


 アロイスは顔を引きつらせる。

 と、そう思ったところで電子音がプツッと切れ、今度は、電信口から渋めな低い声で「もしもし」と聴こえた。


「……もしもし、聞こえますかな」

「あ、はいはい。聞こえます」

 

 アロイスは慌てて返事する。

 電信口の相手は「良かった、聞こえましたな」と、ほっとしたように言った。


「初めまして。ただいま、警衛隊支部からシロ王子が見つかったという事で連絡を受けましてな」

「はい、確かにシロという男性を保護をしています。ところで、私はアロイスと言いますが、貴方は? 」


 王城の人間ということは隊員の連絡で知っているが、名前を聞いておきたいと質問する。

 その問いに相手は、

「おお失礼しました」

 と、咳払いして言った。


「ルイサ・デ・ジョアンと申します。シロ・デ・ジョアンの実父です」


 それを聞いたアロイスと、漏れる声を聞いていたナナは「えっ」と小さく言った。


「ジョアンさん……ですか。名前もそうですが、実父と仰いましたが、まさか悠久王国の王では…… 」

「一応、しがない王としてやらせて貰ってます。息子が見つかったと聞き、いてもたってもいられず……」

「や、やはり……」


 まさか、当代王に直接電信機を繋いだというのか。

 さっきの隊員の男、興奮してたとはいえ、とんでもない事をしてくれたものだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ