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of my mind(32)


 竜を殴り飛ばすというパワーワード。

 カイは苦笑いする。


「竜を殴り飛ばす……ですか。ハハ、全く本当に規格外な人ですよ。でも、これでナナも分かってくれたみたいですね」


 カイは、ナナに目を向けた。


「ナナ。アロイスさんが世界を救うと言った理由、この場所を去る理由、納得がいったのか」

「……うん。でもね、アロイスさんが居なくなっても、私は」

「フフッ。二年間も待っているって話か」

「えっ!? なんで、お父さんが知って……」

「知ってるさ。帰ってくる飛行船の中でその話を聞いたんだ」

「そ、そうだったんだ……」

「ああ。もう一つ、お前は話も聞かずに走って行っちまうから話しそびれたけど、残された酒場の話だ」

「酒場のお話? 」

「そうだ。アロイスさんの残していく酒場は無駄にはしないのさ」


 カイは、リリーとナナ指差して言う。


「俺らが家に居るって話をしただろ。あれはアロイスさんの酒場を俺らが引き継ぐって話になったからさ。家族としてナナ(お前)との時間を取り戻すために、しばらく三人で酒場を経営したいと思ってる。俺も負けじと酒の知識はあるし、リリーだって料理の腕は立つ。どうだ、三人で酒場をやってくれないか」


 元々、酒場の酒の地下倉庫はカイが趣味で造ったものである。

 冒険者として料理の腕は二人とも確かだし、長くスタッフとして働いているナナも合わせれば、充分に酒場を引き継ぎ経営することは可能だった。


「お母さんとお父さんと、酒場を……? 」

「そうだ。二年後まで、しっかりと。どうだ、やっぱり気は進まないか? 」

「え……えっと」


 その問いに対して、ナナの心は、直ぐに決まっていた。


「気が進まないわけない。アロイスさんが私を守るために戦ってくれるなら、私も、アロイスさんの酒場を守るために一緒に働く! 」


 めいっぱいの笑顔で叫んだナナ。

 その言葉にアロイスも笑顔で「そう来たか」と、人差し指で鼻頭を(こす)った。


「そうか。……と、いうわけですアロイスさん。貴方の酒場は、私たちが守らせて貰います」

「突然のことでも受け入れてくれて有難うございます。二人……いえ三人なら、必ず上手くいくと思います」


 アロイスとカイは、改めて、ガッチリと厚く握手を交わした。


「……それでアロイスさんは、いつから出発を? 」

「あまり長居すると別れが辛くなるだけですからね。出来る限り早い方が良いとは思います」

「冒険者はタンポポの種のようなもの、ですか」

「そうですね。可能なら、今日…………」


 アロイスは「今日」と言い掛けた時、ビクリと肩を震わせたナナに気づき、言い換えた。


「いや、明日には出発します。今日だけは、皆さんと一緒に居て良いでしょうか」

「返事など不必要。最高のご馳走と共に、お見送りしますよ。……それで良いだろう、ナナ」


 ナナは、無言で、小さく頷いた。


 ………

 …



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