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of my mind(29)


「おかあ……さん、おとう……さん……? 」

「カ、カイ! リリーさんまで! そんなことが、あるもんかね……」


 ナナと祖母は、突然帰ってきた二人の姿に愕然とした。

 カイとリリーはその様子を見て、少し照れ臭そうに声を揃えて、一言ばかり。


「ただいま」


 と、言った。


「お……お母さん、お父さぁんっ!!! 」


 ナナはボロボロと大粒の涙を流しながら、両親の胸に飛び込む。

 カイとリリーは三人で抱き合い、その再会を喜び合った。


「お、お母さん、お父さん。本物、本物なんだよね。帰ってきたんだよね! 」

「長いこと待たせちまったな。随分と大人になっちまってよお」

「ナナ、今までごめんなさい。寂しかったよね……」


 失われた家族の時間。

 止まり続けた時計の針。

 全てがようやく動き出す。

 そして、ナナ両親と語り合うさ中。

 アロイスは、玄関で立ち尽くす祖母に近寄り、声をかけた。


「お婆さんは、あの輪に入らないんですか」

「ああいうのは苦手だからね。こうして見守っているほうが、よっぽど良いさね」

「そうだ湿っぽいのは苦手でしたね。でも、もっと驚かれると思いましたが」

「さあてねえ。私は、どこかで生きていると思っていたのさね。だから今さら驚かないさ」


 存外、言葉通り祖母は驚いた様子は無く、しわくちゃの笑顔で、ただ三人の再会を嬉しそうに眺めていた。


「ハハハ、お婆さんらしいです。でもこれで俺の役目は終わったに等しいんですよ」

「どういうことだい? 」

「ようやく再会した家族の時間。この家に俺が居るには狭すぎます」

「まさか、アロイスさん」

「正直言って本望ではありません。出来ることなら、これからも残り続けたいとは思います」

「なら、いつまでも居てくれて良いんだよ。アロイスさんは大事な家族さね」

「ありがとうございます。だけど俺には役割が出来てしまった。だから……」


 アロイスは首を小さく左右に振る。

 ……すると、その時。

 再会に喜んでいたナナが、涙を拭きながらアロイスの元に駆け寄った。


「えへへ、アロイスさん。まだ信じられないですけど、夢じゃないんですよね」

「夢じゃないさ。ちなみに、ご両親はしばらく家に居るって話は聞いたか? 」

「はいっ。お母さんもお父さんも、家に居てくれるって言ってました! 」


 ナナは両手を叩いて、満面の笑みで言った。


「良かったな。しかし、これからが大変だぞ」

「はいっ。こうなったら、お(うち)も賑やかになっちゃいますね♪ 」

「ん。ん……そうだな」

「アロイスさんに、お母さんたちもいるし、お家を広くしないといけないかもしれないですね! 」


 ナナは明日からの事を、あーだこーだと考え、嬉しそうに言う。

 反面、彼女が嬉しがるほどアロイスは内心穏やかでいられなかった。


(ナナ……。本当は俺は一緒に居たいんだ。でも、それは世界が許しちゃくれない。これを、どう伝えたものか)


 アロイスは、そっとカイたちに目を向ける。

 カイとリリーは目線に気づき、小さく頷いた。


「……」


 彼らもアロイスの考えは知っていた。

 遅かれ早かれ伝えねばならないのなら、酷だと分かっていても、言わなければならない。


「……ナナ。ちょっと良いか」


 意を決する。

 それを伝えるべく、口を開いた。


「はい、なんでしょうか」

「その……どう言えば良いのか。ただ、これは大事な話なんだ」

「大事なお話ですか? 」

「ああ。その、俺は口が上手く無いから、ハッキリと伝えさせて貰うよ」


 こんな言葉を口にするのは、あまりにも、彼女にとっても自分にとっても辛過ぎる内容だった。


「……俺は、この家を出て行かないといけなくなった。もう一度、冒険者に戻らないといけない理由が出来てしまったんだ。だから、俺はこの家を……カントリータウンを出て行くつもりだ」


 ―――……えっ?


 その言葉を皮切りに、両親と会えて喜びに笑顔だったナナは打って変わる。


「冗談ですよね。何を言っているんですか……? 」


 ナナは口を半開きにして、薄っすらと瞳から光が消えた。


「今、氷竜と同じように世界中で古代の魔族が眠っていることが分かったんだ。だから……」

「だから……? 」

「戦える戦士が必要だ。俺が自惚(うぬ)ぼれているわけでは無く世界には俺の力は必要なんだよ」

「……それで。それが理由で、アロイスさんはウチを出て行くんですか」

「俺だって家に残りたいと思ってはいるよ。それは本心だ」

「だったら居れば良いじゃないですか。酒場は……酒場はどうするんですか。だ、だって、これからもずっと一緒に! 」


 ナナはアロイスの両腕を掴み、グラグラと揺すった。

 先ほどまで高揚していたナナの気持ちは大きく沈み、まるで地獄の底に突き落とされたように叫ぶ。


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