of my mind(27)
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「……未だに信じられない。でも、世間を見て、嫌でも時間が経ったことを思い知らされる。俺とリリーの中では、娘はまだ15にも満たない幼いままだというのに。大事な時期に、6年もほったらかしにしておいて、今さら合わせる顔があるのかと不安にもなってしまう……」
飛行船の席で、アロイスの隣に座るカイは悲壮に満ちて言った。更に隣に座るリリーは、その手のひらに手を重ねて、ナナのように優しい表情を浮かべる。
「大丈夫ですよ。アロイスさんから色々お話を聞いて、どれだけあの子が立派に生きていてくれたのかを知ったじゃないですか」
その口調は穏やかで、ナナらしい。やはり彼女がナナの母親なんだと理解させられる。
「俺たちの中では、ナナと離れたのは二週間ほど前なんだ。でも、ナナにとっては……」
「今は成長したナナの姿を楽しみにしましょう。あの子が私たちを許してくれることも願って」
「……そうだな。いま俺たちがウダウダ言っても仕方ないことか」
リリーに促されたカイは、静かに落ち着く。
だが、ナナの話題に尽きないカイは、アロイスに話しかける。
「ところでアロイスさん、ナナは本当に酒場の手伝いを……? 」
「ええ。カイさんが残したお酒がきっかけで、酒場の経営が始まりました」
「確か、あのボロ家を改築したんでしたか」
「そうですね……。勝手に申し訳ありませんでした」
「ああっ、そんなことは。どうせ自分たち死んでいた身です。むしろナナの面倒を見て頂いて有難うございました」
「そう言って貰えると嬉しいですよ」
ハハハ、と二人の大男は笑い合う。
……すると、アロイスは「ふう」と一呼吸入れる。
不意に、神妙な面持ちを見せた。
「どうかしましたか? 」
アロイスの言い知れぬ表情に、カイが尋ねる。
と、アロイスは窓の外の流れる雲を見つめながら、言った。
「いえ。こちらの話ですが……頃合い的には今なのかな、と思ったことがあって」
「頃合いですか? 」
「はい。貴方たち二人が戻ってきて、自分の役目はここまでなのかなと考えていたんです」
「……役目とは」
「自分は失った時間を取り戻すのに、不必要な存在です」
「まさか……。アロイスさん、あなたは」
カイが何かを言い掛けるが、アロイスはそれを遮った。
「どうやら、世界ってやつは自分に新しい運命ばかりを求めているみたいで。ですが……」
こんな事を言ったら、彼女になんて怒鳴られるか分からないな。
自分にとっても、あの土地に根を下ろしたつもりだった分、どうにも感情を上手く表せない。
(冒険者に戻りたいとは思っちゃいない。それは本心だ。出来ることなら、ずっと酒場をやりたいと考えているのは変わらない。だけどな……)
アロイスは、そんなことを思いながら、静かに目を閉じたのだった。
………
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