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of my mind(23)


「アロイスさん! き、来てくれたんですね……」


 フィズは、アロイスを見て心底安心したように言った。


「良かった、生きていてくれたか」

「は、はいっ。俺とライフだけが辿り着いたのですが、凍らされてしまい……」

「大丈夫だ。分かっている。それより、今は目の前の敵に集中しろ」

「はいっ! 」


 フィズは長い髪をバンダナで纏めなおし、両手にそれぞれ短剣を握り、戦いの姿勢を取った。


「くっ、ガキどもがぁ……ゴホゴホッ! 」


 氷竜は咳き込み続け、ひどく吐血する。明らかに弱っている状態に、アロイスは「行くぞ! 」とフィズ、リーフに命令を下し、三人は氷竜に突撃した。


「氷竜、お前はこの時代にいるべき魔族ではないッ! 」

「リーフたちが、世界を守るッスよぉ! 」

「また三人で戦える日が来るとは思いませんでしたよ! 」


 かつての三人のように、文字通り三位一体となった一撃が氷竜を襲う。

 氷竜の肉体は潰されるように叩き付けられ、瞬間、身を包むウロコは次々と剥がれ落ち、ぐあああ! と悲鳴を上げて周囲に血を撒き散らした。また、リンメイとライフの氷柱が砕け散ることで、彼女たちも無事に解放される。


「おっと。わ、私は……! 」

「危ねぇっ! って、あ……あれっ? 」


 呆けるリンメイとライフだったが、フィズのように辺りを見渡すことで、状況をすぐさま理解する。


「ア、アロイス! お前、来てくれたのか……」

「アロイスさん! 」


 そして、リンメイは肉体術を得意とするナックル武器を、ライフは銀の長剣を抜いて構えた。


「リンメイ……。リーフ、フィズ、ライフ……。なんだなんだ、クロイツのメンバーが勢揃いじゃねえか」


 アロイスは笑う。氷竜の隣に未だに浮かぶレグルス兄を残し、旧世代、新世代の部隊長が揃い、氷竜に剣先を突きつける。誰一人として口を開かなかったが、それぞれが笑みを浮かべ、心の奥底では通じ合っているようだった。

 一方、氷竜は三位一体の一撃を受け、もだえ苦しんでいたが、未だその闘志は衰えていなかった。


「き、きき、貴様……貴様ら……。この儂を、儂をなんだと思っている……。儂は、魔王バルバトス様の右腕……ヴァヴェルであるぞッ!!! 」


 刹那、氷竜(ヴァヴェル)は肉体を丸めて、氷気を全身に纏う。

 辺りに漂っていた彼の魔力は肉体一つに濃縮され、何が起きるのかとアロイスたちは身構えた。

 しかし、彼の取った行動は、全員の予想の範疇を越えるものだった。


「貴様らだけは許さんッ!! 儂の命を削ってでも、本気で殺してやるわあっ!! 」


 周囲に満ちる魔力が、ヴァヴェルに吸収されるように集まり、一極化していく。彼の魔力の動きで、アロイスとリンメイが先に察する。


「リンメイ、あれを見ろっ! 」

「……分かっている。ヤツめ、命を削ってまで一帯を吹き飛ばすつもりだ! 」

「こんな地下深くで爆発されたら、いくら俺らでも不味いぞ! 」

「アロイス、止めるぞ! 」

「言われずとも! 」


 アロイス、リンメイは素早く武器を構え、ヴァヴェルに突撃した。

 大剣の振り下ろし、ナックルによる気合いの一撃、二人の強烈な攻撃がヴァヴェルの肉体を直撃する。


「ぐお……ぐおおおッ!! 」


 ヴァヴェルは悲鳴を上げた。

 蒼いウロコが次々と剥がれ落ち、高貴だった氷竜の姿が、おどろおどろしい姿へと変貌していく。

 ……しかし、それでもヴァヴェルの戦意は未だ失われず。

 その身に満ちた魔力の暴走を止めることは無く、自爆の姿勢は崩さない。


「これしきで、儂を止められると思うなァッ!! 」


 不味い。ヴァヴェルの攻撃が炸裂する。

 アロイスとリンメイは覚悟を決めて、舌打ちしたが、その時。

 二人に続いて、後方からリーフ、フィズ、ライフが連携を取ってヴァヴェルに追撃した。


「そろそろ倒れるッスよぉ、氷竜ッ!! 」

「アロイスさんの前で格好悪いところは見せられない。そろそろ死んでおけ……! 」

「この人らの前で、情けない姿は見せられねぇよなあ! 」


 アロイスリンメイの攻撃に耐え忍んだヴァヴェルだったが、三人の追撃には堪らず大きく仰け反った。更に、アロイスとリンメイは気を逃さず、二度、三度と全力の攻撃を加える。


 そして、ヴァヴェルが吐血して頭部をピンッ、と伸ばした瞬間。

 アロイスは両手に大剣の柄を握り締め、高々と飛び上がった。


「氷竜、ヴァヴェル。所詮、お前は古代遺物(レガシー)に過ぎない。取り残された遺物は、この時代から去れっ!! 」


 空中から、全身全霊の叩き付けを脳天に一発。

 ガゴォンッ!!

 打撃にも似た、激しい斬撃音。

 ヴァヴェルは「ガッ! 」と吐息のように漏らしたあとで、打ち付けられた頭部から、蒼い光が放たれた。

 

 光は、ヴァヴェルに蓄えられていた魔力の帯。


 ついにヴァヴェル自身が持つ魔力は、その身に保つことが出来なくなり、頭部から輝く光と共に、魔力がヴァヴェルの肉体から抜けていく。


「グオォォオッ!! ま、待て……。儂は、儂は、儂はあああぁぁッッ! 」


 やがて、眩く放たれた魔力の光が、か細く、弱々しくなった後で。

 ヴァヴェルは瞳を白く濁らせ、ズズン……と地面に轟音と轟かせ、横たわったのだった。


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