of my mind(19)
「スピカ!? まさか、あのスターダスト事件のですか! 」
レイは慌ててアロイスの傍に近寄り、同じように氷柱を見つめた。
中には、噂に聞いていた通りの星空をイメージしたロングコートを羽織った冒険者が、苦しい表情で凍り付いていた。
「間違いない。そうか、行方不明だったのは、地下深くで氷竜の魔力で凍結させられていた為だったのか……」
また、スピカの他にも、見た事のある有名な冒険団の衣装を羽織った者たちが氷柱に閉じ込められていた。彼らは、間違いなく、ここ最近で深部に向かった冒険者たちである。恐らくは、この場所で何らかの理由により氷竜の魔法を受け、凍結させられてしまったのだろう。
(ま、まさか。リンメイや、フィズたちも、ここの犠牲になったのか。だが、これは……)
アロイスが辺りを見渡していると、少し遠くに行っていたリーフが「アロイスさーん」と、手を振って名前を呼んだ。
「どうした? 」
アロイスとレイは、リーフに近寄る。
すると、リーフは「見て下さいッス」と、目の前の氷柱を指差した。
「ちょっと、気になる人が居たッスよ。この人ッス」
「何が気になるんだ? 」
リーフが指差した氷柱内には、スピカの衣装を身に着けた二人の男女が凍結させられていた。うち、片側は中々の大男で、アロイスに似たような黒い短髪をした屈強な男性。片方は、オレンジ色の髪型をした可愛らしい女性であった。
「この人、アロイスさんに似ているな~と思って」
「ん、そうか? まあ、同じような髪型はしているけども。つーか、どっかで見たことある気がするな」
アロイスは、眉間にしわを寄せて、二人の顔をまじまじと見つめる。
「似ているのもそうッスけど、アロイスさん。確証は無いッスけど、その、二人の、胸元のタグ……」
「タグ? 」
リーフが言うのは、彼らが胸元にぶら下げていたドッグ・タグの事だった。
ドッグ・タグは認識票と呼ばれ、自らの出身や名前などを刻まれ、被災した際、身元を確認するために扱われる。
アロイスは、リーフの言う通り二人の身に着ける胸元の銀色のドッグ・タグを見てみる。
―――そこには、こう、刻まれていた。
|EAST.F.Ctown
Kai Navel
|EAST.F Ctown
Lili Navel
「……馬鹿な」
思わず、溜め息のように放たれた一言だった。
―――いや。
それは、分かっていた事だった。
最初にスピカの衣装を見つけた時から、予測はしていた。
だが、目の前に本物が現れた時、あまりにも、背筋に冷たい稲妻が走った気がした。
(勘違いかとも思う。でも、あの時。ナナとお婆さんの寝室で見た写真は、確かにこの二人だった。だったら、間違いない。この二人は……)
ナナの両親だ。
「カントリータウンって名前と、ネーブルっていう名前を見つけて……もしかしてと思ったッス」
「あ、ああ。間違いない。この二人は、ナナの両親だ……」
「……やっぱりッスか。こんな……地下深くで……」
「なんてことだ……」
アロイスは、身体を震わせて、彼らを見つめる。
それは、あまりにも悲壮に満ちた想いであったが、しかし。
「神様ってやつがいるならば。これは、恨むべきなのか、喜ぶべきなのか、分からなくなっちまうな」
ククク、とアロイスは笑う。
何故ならば、アロイス、そしてリーフもも、氷柱を見た時から、既に有る事に感づいていたからだ。
「そうッスね。この氷は、氷竜の持つ魔力が作り出した永久凍土ッスから……」
「氷竜。俺らの思いつかないレベルに居る存在で作り出した、溶けることの無い氷……」
「推測の域は出ないッスけどね。これが、魔力の塊だというのなら、そういう意味ッス」
「ああ。氷竜を倒しさえすれば……! 」
完璧すぎる、氷竜の魔法。
恐らく、氷竜が生きている限り凍らせ続ける氷柱群。
逆に言えば、氷竜を倒しさえすれば、溶け出すだろうということ。
その時、万に一つ、ある可能性を見出した。
現代では決して成し得ないレベルの『 魔法技術 』だからこその、可能性である。
「氷竜の命と引き換えに、みんなは生き返る……ッ! 」
凍結により、冬眠状態にあると、そう、考えたのだ。
アロイスたちから見ても、この魔法技術は完璧を通り越している。
術者が死なぬ限り維持され続ける魔法は、ある種、単純な凍結よりも、最早、封印術に近いものだった。
「だったら……」
この戦いは、世界を救うため、もとい、彼らを救うためにも、より負けることは許されない。
アロイスは、今一度、気合を入れた。
……そして。
その、僅か先で。
氷竜は、脈々と動く強者を感じ取り、彼もまた、臨戦態勢にあった。
―――来たか。
儂の目覚めの妨げる余計な冒険者どもめ。
何度来ようが無駄な事。
お前を倒し、この世を再び戦乱の場にしてくれる……。
ついに、氷竜とアロイス、世界を二分する存在は相見える―――。
………
…




