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of my mind(18)


「ぬうっ! まさか、氷竜が罠を仕掛けてくるとは! 」


 アロイスが道を戻るために戦い、リーフは味方を助けようと抗う。

 その間、既に味方の大半が魔獣の前に倒れて行った。


「な、何だよ……。何が起きているんだよ……」


 そして、レイは死んでいく仲間たちを見て、カタカタと震える。

 先ほどまで高く士気を持った仲間が息絶えて行く姿に、心の底から恐怖していた。


(お、おお、俺も死ぬのかな。こんな雪の底で、誰にも知られずに……ッ! )


 でも。

 ―――そんなのは、嫌だ。


(……ッ!! )


 俺は、アロイスに認められた男だから。

 こんな時に、動けないでどうするんだ。


(俺に出来ることは……戦うことは出来なくても、何かあるはずだ。リーフさんの手伝いに回るか、アロイスさんを早く戻ってこれるように援護するか……!ど、どれも簡単な話じゃない! だけど―――…………あっ! )


 アロイスの言っていた、レイの持つ判断力。

 それが、こんなにも早く活かせる瞬間が訪れた。


「リーフさぁん! 足元です! 足場は、氷の壁で出来ているだけで、深い竪穴になっています! もしかしたら、深層部まで一気に辿り着けるかもしれません! このままやられてしまうくらいなら、イチかバチか、崩壊させてしまいましょう! 」


 リーフは、その言葉に足元に目を向ける。

 確かに、今のフロアは、厚い氷の壁で形成されたばかりで、それを割れば底の見えぬ深層に落ちる竪穴が拡がっていた。


「……アロイスさん、リーフは出来るッスよ! 」

「足場を崩壊させる……!? 俺やリーフは大丈夫かもしれないが……! 」


 一気に深層部を狙える可能性も高いが、レイや他の仲間たちが助かる保証もない。

 しかし、このままでは雪崩れ込む魔獣に、味方が殺されてしまうのも事実だった。


「賭けるしかない、か……」


 アロイスは、リーフと、生きている仲間たち叫ぶ。


「リーフ! 五秒後、俺に合わせて地面を崩壊させるように叩くんだ! それと、生きているメンバーに告ぐっ! 落下に耐えれないと思ったヤツらは魔法か装備で壁に張り付けて回避しろ!! ここから先は、俺たちで行くッ!! 」


 叫ぶうち、五秒はあっという間に経過する。

 アロイスとリーフはタイミングを合わせ、地面を目いっぱいの力で叩き割った。

 あまりにも早い展開だが、そこは、やはり冒険者たちの代表者の集団だけあって、己が体力を限界だと思う者たちは、咄嗟に壁に張り付いて落下を回避。それ以外の自信を持つ者や、魔獣などは、奈落の底に落ちて行った。


「……くうっ、かなり深いな! リーフ、無事か! 」


 暗闇の中、感覚を研ぎ澄まし、落下しながら迫りくる壁や氷を器用に避けて行く。

 リーフは当然「大丈夫ッスよお! 」と返事をしたが、上部では避け切れなかったり、空中で魔獣の餌食になってしまった冒険者たちの悲鳴が木霊していた。


「くっ……! 」


 全員を助けたいと願っていたが、現実的には無謀すぎる話だった。


(しかし、これは……ッ)

 

 落下しながら、アロイスの身体がピリピリと痛み始める。

 どうやら、目論み通り、地面を叩いたことで、一気に氷竜の眠る深層へと向かっていると分かった。

 やがて落下を始めて二十秒ほど、落下距離は一キロ程、感覚的に、足場が近い事を察知する。


「アロイスさん、地面が近いッス! 明かりを点けるッスよお! 」


 リーフは、片腕に炎魔法を纏わせて落下方向に射出する。

 一本の炎の柱は、少し遠くの地面で衝突すると、花火のように四散した。

 その一瞬でそれぞれが安全な着地地点を確認し、アロイスとリーフはそれぞれ着地した。

 だが、一緒に落下してきた冒険者の大半は落下途中に、魔獣や氷柱などに犠牲となり、同じく着地出来たのはレイ、ただ一人であった。


「……ふうっ。何とか無事に着地出来たか」

「ぬ~、な、何とか生きてるッスねえ」

「お、俺も生きてますよ。本気で死ぬかと思いました……」

 

 三人は集まり、態勢を整える。


「やれやれ、かなり落ちてしまったがショートカットは出来たようだ。ちょっと消えた明かりを点けるから待ってくれ」


 アロイスは、いつの間にか壊されていたランプの代わりに、ポシェットから予備用ランプを取り出す。火魔石を目いっぱい出力すると、辺りは眩い輝きで満たされた。……が、落ち着くことが出来る場面でありながら、今自分たちが立った深層部を見渡した時、レイはもちろん、リーフ、アロイスですら目を丸くする光景が飛び込んできた。


「なっ……!? 」


 そこは、先ほど自分たちが戦ったドーム状のフロアと似たような場所。そこに、(おびただ)しい数の、巨大な氷柱が地面から突き出していた。だが、異様だったのは、その氷柱が大きさではない。その氷柱からは、あまりにも強すぎる魔力が放たれていた上、その一つ一つに、苦痛の表情を浮かべた冒険者たちが閉じ込められていたのだ。


「こ、これは一体、何事ッスか!? 」

「何ですか、これは! 」


 リーフとレイは驚き、叫ぶ。

 アロイスは、一番近い氷柱に近づくと、凍結状態にある冒険者を見ながら、言った。


「この氷柱から放たれている魔力は、今までに感じた事が無い種類だ。恐らく、氷竜のモノだろう……。それに、信じがたい……こと……だが」


 額に、冷や汗を流す。


「コイツら……いや、この方たちの恰好は……まさか……」


 彼が羽織っているのは、膝までの長さがあるロングコート。黒をベースに、左胸に青白く光る一点の星が刺繍され、右胸には小さく北斗七星を彷彿とさせる七つの星が浮かび上がる。星空をイメージした、その衣装の主は、間違いなく。


「スピカか……! 」


 氷竜の攻略集団のうち、最初の犠牲者たちであり、ナナの両親が在籍してきた『 冒険団スピカ 』。紛れもなく、彼らのものであった。


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