of my mind(16)
「アロイスさんの言葉も分かります。だけど、少なくとも死んでいった皆を罵倒するような発言は絶対に許せません。いくら貴方でも、そんな態度を取るのなら、改めさせて貰いたいです……。例え、勝てないケンカだって分かっていても、謝らせてみせます! 」
青年は細い銀の剣を抜き、アロイスに構えた。
まさか、アロイスに楯突く者が現れるとは。予想しなかった周りの全員が、固唾を呑む。
「……あァ? テメェ、誰に物を言ってやがる。本気で殺されたいのか」
アロイスは、ギロリ、と威圧感ある睨みを利かせる。
一瞬、青年はビクリ! と身体を震わせたものの、押しつぶされず、矛先を向け続けた。
「ま、負けませんよ。睨んだところで、ボクは退きません! さあ、アロイスさん。望みの通り、ケンカをしましょう。だけど、万に一つ、僕が勝ったなら、土下座して死者を愚弄したことを誤って貰います! 」
あまりにも弱気だが勝ち気な台詞だ。
アロイスは座り込んだまま、暫く沈黙していたが、全員の視線が集まる中で、のっそりと立ち上がると、表情を一変させて真面目な顔つきで、言った。
「……なるほど、お前だけか」
「何がですか」
「いや、その、なんだ。つまり……悪い気分にさせてすまなかった」
「……は? 」
突然アロイスは頭を下げ、青年と、死者を愚弄したことについて謝罪した。
「死者を愚弄するなどもっての外だ。彼らは冒険者である以前に、世界を救うために犠牲になった命。決して罵倒してはならないものだ。それで気分を悪くさせてしまった全員に謝罪したい。申し訳ない」
あまりにも不意打ち過ぎる謝罪に、青年だけでなく、全員が首を傾げる。
その中で、アロイスは青年の左肩に手を乗せて、優しい口調で言った。
「本当に悪かった。俺は本気で死者を愚弄したつもりはないんだ。ただ、この現状で戦える味方が欲しかった。今は一人でも共に深部に潜ってくれる勇気を持つ冒険者が欲しかったんだ。……だが、誰一人として絶望するばかりで未来を見ている冒険者はこの場所に居ないと思った。だから、怒りを買って見定めるしかなかったんだ」
そういうこと……だったのか。
青年は剣を納めて、アロイスと同じく頭を下げて謝罪した。
「そ、そんな気持ちがあるとは露知りませんでした……。け、剣を向けて申し訳ありませんでした! 」
「構わない。それより、キミや死者を愚弄してしまった俺を許してくれるか? 」
「……は、はいっ。こちらこそ、本当にすみませんでした」
和解した二人に、未だリーフはクスクスと顔を隠して笑っていた。
アロイスが傲慢な態度を取っている辺りから、全てを理解していたからだ。
「ところで、キミの名前は? 」
「あっ……、レイ・クラドックと申します! 」
「そうか。レイ。ならば、キミに、いま一度、問いたい」
「は、はい! 」
「俺たちに着いてきて、世界を救う気はあるか。英雄になる気はあるか? 」
―――なんて、魅力的な言い方をするのだろう。
レイは、短い赤髪を靡かせて、大きく、頷いた。
「はい! よ、よろしくお願いいたします! 」
「……んっ。任された。俺と共に世界を救うとするか」
アロイスは、レイは厚く握手を交わした。
すると、その時。
周りで立ち尽くしていた冒険者たちが集まり始めて、アロイスに言った。
「お、俺も行きたいです。俺も一緒に戦いたいです! 」
「弱気だったのが間違いだと気づきました。俺も一緒に行かせて下さい! 」
「俺だって行きたいです! お願いします! 」
「私も戦います! 」
場に居た全員の士気が、火山の爆発のように膨れ上がる。
誰もが熱を失い、諦めかけていた空気が完全に入れ替わり、冒険者としての心に火が点いたのだ。
(……全員、やる気に満ちたか。本気の熱意、この空気が欲しかった)
鼓舞した雰囲気に、アロイスは心の底から笑顔を見せた。
(今、この場に居るのは、例え待機組だとしても『 一流の冒険者 』には相違ない。少しでも、味方は多いほうが良い。正直言って、今回の敵は……俺が予想していた以上の相手のようだからな……)
敵を舐めていたつもりはない。
ただ、氷竜の存在がどれほど強大なものなのか、トロールを始めとする山の魔獣程度で、強者の片りんを見せられた。もしも、本体と相対した時、自分が無事で居られるのか。それすらも、不透明な状況であった。
(このダンジョンに挑んだ先人たちも敗北してしまうハズだ。それでも、俺は生きていると信じている。リンメイ、それとフィズ。みんな、無事でいてくれよ、今すぐ行くぞ! )
全員の気持ちが一致した今。士気が高々と燃える中で、いよいよ、アロイスたちはダンジョン深部に歩みを進めるのであった。
………
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