of my mind(14)
―――【 アロイスたちが激突して一時間後。 】
氷竜の墓、一層。
ダンジョン入口から直ぐに広がるエリアは、通常『 一層 』と呼称されている。
外には荒れ狂う吹雪が舞っているものの、氷竜のダンジョン一層においては、洞窟のような形状になっているため、影響は少ない。
また、深部に向かうにつれて洞窟は縦横に拡がることで、ダンジョンを訪れた冒険者たちのベース・キャンプとなっていた。それに伴い、現在はベースで各冒険者群が至る箇所で暖を取っていたが、どうやら、顔色や会話の内容は明るいものではなかった。
「まだ、先陣隊は帰ってこないのか……」
「早く応援を呼ばないと、このままじゃ……」
全員が、沈んだ顔色で虚ろな瞳のまま火を眺め続けている。
今、この場所に居る全員が『 選ばれた冒険者 』でありながら、あまりにも弱気過ぎる発言だと思われるかもしれない。だが、それも仕方ない事だった。
「いつになったら、深層部に向かった連中は帰ってくるんだ? 警衛隊に応援を求めに外へ出て行った連絡隊は? 一体、どうなっているんだよぉっ! 」
地下に向けば氷竜の餌食となり、外に出れば操られた魔獣の餌食となる。極寒という極限の大地で、食糧は確実に減っていく。どれほどの実力者であろうとも、正気を保っていることが限界に近い状況であった。
「三層に向かったクロイツのメンバーですら帰ってこないんだぞ。俺らじゃ、どうしようもないだろう! 」
確かに、残された面子でも外に蔓延るトロールやアイスタイガーを討伐することは可能だろう。しかし、それも長くは続かない。どれだけの相手が外をうろついているか熟知しているのだ。
「もう、世界の終わりだ。英雄冒険家ヘルトが遺したダンジョンを下手に突くべきじゃなかったんだ。俺たちがイタズラに刺激した所為で、氷竜の目覚めを早くしたんじゃないのか? いっその事、氷竜なんか見つけなければ良かったのに―――! 」
冒険者の悲愴な声がダンジョン内に木霊する。
―――だが、その声に反して、ある声が、辺りに響き渡った。
……それでも冒険者か、お前たちは。弱気な冒険者も居たものだなぁ……ッ!
「な、何……!? 」
「誰だ! 」
罵倒の声に、冒険者たちは怒りを覚えて立ち上がり、声の方向に振り向いた。
ところが、声の主を見た冒険者たちは、目を点にして、言葉を失う。
何故ならば、洞窟の入り口には、世界の最後の希望が、立っていたからだ。
「なんだ、怒れる力はあるじゃないか。なら、諦めるな。お前たちは、最期まで戦う覚悟を持ってこの場所に来たんだろう! 」
全身に返り血に浴びて、真っ赤に染まった防寒具を身に着けた大男。
元世界一の部隊長アロイス・ミュール、本人であった。
「……あ、あの方は」
「まさか!? 」
冒険者ならば、誰もが知っているアロイス・ミュール。しかし、反応は思ったほど大きいものでは無かった。
「ア、アロイス……さん……? ほ、本物なのか……」
「いや、アロイスって男は引退して田舎暮らしだって聞いたぞ……? 」
「じゃあ偽者か!? 」
「それは無いと思うが……。この場所に辿り着く実力があるというのなら、やっぱり本人じゃないのか」
この場所に、本物のアロイスが現れる筈がないと、そう思われていたのだ。
それでも、ザワつく冒険者たち。
すると、そのタイミングで、アロイスの背後から同じく全身を血に赤く染めた小柄なツインテールの戦士リーフがひょっこりと顔を出して、叫んだ。
「アロイスさんを偽者だって疑うとは良い度胸してるッスねえ! リーフも偽者っていうッスか? 疑うなら、外に倒れている魔獣でも見てくると良いッスよ! 逃げたいヤツは、逃げれるように魔獣をぜ~んぶ倒してきたッスから!! 」
リーフは鼻息をフンフンと荒げて叫ぶ。
冒険者の一人は苦笑いして「冗談だろう」と、リーフの言う通りダンジョンの外に顔を出した。
……と、冒険者は、口をあんぐりと開き、叫んだ。
「う……うそ。ホントに?…… み、みんな。外に……魔獣が……全部、倒れているぞ……。こ、この人、本気でアロイスさんだぞ。本物じゃないのか!? 」
その反応を見た他の冒険者は、同じように急いでダンジョン入口に立って、外の様子を伺う。
そこには、自分たちがあれほど手を焼いたトロール、アイスタイガー、ジャックフロストなどの遺体があちこちに散らばり、近くに一切の魔獣の気配が消失しているあたり、アロイスとナナが本人であると裏付けるには十分過ぎる証拠であった。
「……う、うおっ!? じゃあ、やっぱりこの二人は本物のアロイスさんとリーフさんだろぉっ!! 」




