of my mind(13)
……ドサドサッ!
氷片となって落下したトロールは、さすがにバラけた状態で動きだすことは無く、絶命する。
アロイスは「ふう」と一息入れて大剣を背負い仕舞った。
「……やれやれ。ここまで面倒なトロールは初めてだったよ」
「でも、厄介ってだけで倒せない相手じゃなくて良かったッス 」
「この程度の相手ならな。だけど、ヘタな竜族なみに強いんじゃねえのか、コイツはよ」
久しぶりに手ごたえを感じた相手に、少し口調が現役時代に戻るアロイス。
が、すぐに先ほどトロールが引っ張っていた冒険者を思い出し、急いで冒険者のもとに駆け寄った。
「……このまま放置では可哀想だ。せめて、持っていた剣を墓に見立てて弔ってやろう」
アロイスは片膝を着いて、冒険者の腰に携えた剣を抜き取ろうとする。
……だが、その時。
「むっ……。オイ、アンタ、生きているのか!? 」
血に塗れた冒険者。完全に死んでいるものと思っていたが、身体に触れた時、わずかに生気を感じた。アロイスは冒険者を抱え、目を覚ますように訴える。
「オイ、しっかりしろ! 生きているなら、助かるぞ! リーフ、治癒魔法を頼む! 」
「冒険者サン、生きていたッスか!? 待って下さいッス、いまリーフが助けるッス! 」
リーフは急いで両手をあてがい治癒を施そうとする。
だが、冒険者は目を閉じたまま、凍り付いた唇をパクパクと動かして、か細い声で言った。
「も……無理だ……。俺は……間に合わない……」
「間に合わない事はないッス! 気をしっかり持つッスよ!! 」
「無理……だ……。もう、俺……は……」
最早、喋ることもままならないらしい。
必死にリーフは治癒術を施したが、やはり彼自身が言う通り限界だったらしく、リーフはアロイスを見つめて首を左右に振った。
「そ、そうか。せめて、魔法で痛みだけでも取ってやってくれ」
「分かったッス……」
ダンジョンや危険た土地においては常である。
だから、最期に立ち会うなら精一杯送り出してやることが、看取る者の定めでもあった。
―――だが。
「ま、待って……く……れ……」
それは、死す者も同じであった。
命尽きるからこそ、生きる者に託す言葉があった。
冒険者は命の尽きる寸前、小さく咳き込みながら、アロイスたちに、いう。
「に、逃げ……ろ……。俺……は……もう、いい……」
「最期まで看取るッスよ。それがリーフたちに出来ることッスから」
「ちが……う……。じ、地獄なん……だ……」
冒険者は最後の力を振り絞り、ガクガクと震える手で、自分がトロールに抱えられてきた方向を指差した。
「昨日……より……氷竜が……目を覚ましかけている……。誰も……外に出ること……すら……ッ! 」
―――ガクリ。
言葉の途中で、冒険者はこと切れる。
そして、その刹那。
「ッ!? 」
「なんの気配ッスか!? 」
アロイスとリーフは、ピリリとした悪寒を感じて、咄嗟に顔を上げた。
「グルル……ッ」
「グォッ……! 」
白い雪煙の合間より、赤い目を輝かせて現れる魔獣の集団。
何十という数のトロールに、ライオンの二倍以上の体格を持つ氷気のアイスタイガー、触れるだけで氷と化す氷の精霊ジャックフロスト。
気配を感じる限り、先ほどのトロールクラス、それ以上の力を持つ魔獣の集団が、アロイスたちに押し寄せて来ていた。
「……おいおい、こりゃあ壮観じゃねえか」
「あちゃあ、参ったッスねえ。逃げろってそういうことだったッスか」
「昨日から氷竜の魔力に充てられて、元々凶悪だった魔獣が一気に動き出したんだろう」
「氷竜の目覚めを邪魔する冒険者を撃つために、操られているって感じッスか」
「恐らくな。こりゃー、竜の棲家を退治した時より骨が折れるんじゃねえか? 」
苦笑いするアロイスは大剣を引き抜き、右肩でトン、トンと鳴らした。
「でも、分かり易いッスよ。こいつらを倒して進んだ先に、氷竜の墓があるって事ッスから」
リーフは両手で強く魔槌を握り締めて、蓄積できる魔力の限界値を突破させる。本来のリーフ自身が持つ強力な魔力に完全対応するためのリミッター解除である。
「……その通りだ。しかし、この数。先陣切った奴らは無事なんだろうな」
「冒険者さんが亡くなる前、コイツらに囲まれてダンジョンから出れなくなったみたいな話してたッスよ」
「そうか。じゃあ生きてくれているな。ますますコイツら全てを倒さなくちゃいけないわけだ」
相手は、何十、何百とも居るだろうか。
前も見えない猛烈な吹雪に巻かれながら、竜族に匹敵する魔獣と終わりのない戦いを強いられている。普通なら、絶望にひれ伏してしまうところかもしれない。しかし、この二人は、違った。
「ハハハッ! それじゃ一発獣狩りとでも行くか、リーフ! 死んでも放置しておくぞ! 」
「フフフッ! こっちの台詞ッス。リーフが全部倒しても、文句言っちゃダメッスよ! 」
高々と笑い合い、自ら、過酷な戦況に身を投じるのであった。
「……うおおおおぉぉおおおっ!!! 」
「あぁああああぁあああっ……!!!」
………
…




