of my mind(10)
【 2081年5月26日。 】
アロイスとリーフを乗せた飛行船は、首都フリーズシティにあるノースフィールズ国際空港に到着する。
海を隔てて巨大な大陸を成している北方部は、一年を通して平均気温がマイナス20度、天候は雪日が多く、万年雪といわれる永久凍土の地である。
特に、山沿い止むことの無い吹雪が荒れ狂い、危険地帯として知られ、その中で最も標高のある9,000メートル級の山岳を文字通り『 猛雪山 』として呼称している。
なお、ノースフィールズの玄関口であるフリーズシティだが、そのような過酷な環境のために飛行船の往来は長年不可能であった。
しかし、最近の錬金術の発展により、ようやく国際空港が建設された。従来、1ヵ月に往復する数本の大型船が唯一の交通手段であったため、国際空港の完成に伴い、冒険者や観光客は年々増えつつある。
「着いたッスー! いやあ、久しぶりッスねえ! 」
「……寒っ」
飛行船を下りた二人を待ち構えていたのは、降りしきる雪による真っ白な雪景色。
現在の気温はマイナス26度。
それは、大気中の水分が凍結して細氷化してしまう低さである。
アロイスは魔法により耐寒性能を底上げした黒い防寒具を身に着けているが、リーフは薄いジャケットを羽織っているだけで、見ているこっちが寒くなりそうな恰好だった。
「お前、相変わらず寒いは平気なのな。一応、俺自身で耐寒魔法を出しててもそれなりに寒いっつーのに」
「リーフはどんな天候でも大体大丈夫ッスからね~」
もともと彼女の出身地であるということもあるが、ドワーフ族は長けた魔力により屈強な肉体を持つ。夏場や冬場、どのような環境下でも適した体温や健康状態を保つことが可能であった。
「まあ、体温維持は魔力を消費するから、ダンジョンに潜るときは素直に防寒具を着用するッスよ! 」
そう言って、空港内にある雑貨店に向かうリーフ。
防寒具の販売店で値段も気にせず適当に見繕い、黄色で揃った上下の防寒着を着用した。
「えへへー、ふわふわッス」
ふわふわとした暖かそうな生地のジャンパーやマフラー、手袋など、防寒具を揃えたリーフの姿は、やはりノースフィールズ出身者として雪ん子らしく良く似合っていた。
「おー、可愛いぞリーフ」
「本当ッスか! 抱き締めても良いッスよ? 」
「……さ、ダンジョンに行くぞー」
「ああっ、冷たいッス! 昔は撫でてくれたりしたのにぃっ! 」
先に歩いて行ってしまったアロイスを、リーフは涙目で追った。
「もー、冷たいッスよアロイスさんっ」
「知らん知らん。それより、このままダンジョンに向かうが問題は無いな」
「ちぇっ。問題ないッス。必要なものは揃えてあるッスからね」
二人は大剣とハンマー、それぞれの武器を背負う。
ポシェットやショルダーバッグには食料や治療器具などの必需品は詰めてあるし、準備に問題は無い。
「それじゃ、このまま登山道を登っちまうか。確か、五合目から禁止区域に入るんだったよな」
「えーと、そのはずッス。五合目の山小屋から先が進入制限区域ッスねえ」
「じゃ、そこからか」
首都フリーズシティを抜けて、正面から山頂に伸びる登山道。
基本的には五合目までしか登山は許可されておらず、その先は警衛隊や冒険連合により監視所を設けており、侵入制限区域としている。恐らく、そこまで登れば何か分かるはずだ。
「よっし。では、出発だ」
「行くッスよお! 」
二人は、勢いよく、都市部から猛雪山に入山する。
そのまま険しい道にも臆することなく、ドンドンと山を登って行った。
やがて、アロイスが予想していた標高6,000メートル地点、五合目付近にて。
身体の芯から凍りつきそうなひどい吹雪が吹き荒れる中で、二人は山小屋に辿り着く。
「あった、山小屋だぞ。だけど、ここは一般の登山客用だったな」
「そうッスね。リーフたちは、制限区域から先に行かないとダメッス。だから、あっちッスね」
リーフが指差した方向には、山頂に向かって伸びる急こう配の道と、それを遮るように置かれた鉄のゲート、近くには監視所と警衛隊員がこの寒い中で番兵していた。
「うひっ、こんな場所でもしっかり警備してるとはご苦労さんだな」
「あそこに許可を貰って進まないとダメッスよ」
「だな。とりあえず、通して貰うようにお願いしに行くか」
二人は監視所に近づいて、立っている警衛隊員に話しかけようとする。
……と、その時。
監視所の扉がガチャリと開き、複数の隊員を率いたまさかの人物が姿を現した。
「今日の0時以降、猛雪山の全ての登山道入口を閉鎖しろ。危険な魔獣が現れたとでも適当に公表しておけ。特に冒険者が忍び込まないように注視しろ。良いな」
周りの部下にクドクドと命令を下すのは、アロイスとリーフが良く知る人物。
警衛隊セントラル本部大将ジンであった。
「……ジン! 」




