of my mind(8)
「納得がいった。いったよ。大げさでも何でもなく、英雄冒険家ヘルトに発見された氷竜を倒さなければ、世界戦争になり得る事実。確かに、これが世界に知れ渡ったらパニックだ。トップ・シークレットが過ぎる……」
アロイスはソファに戻り、どすんっ、と深く座り込んだ。
リンメイがそんな危険なダンジョンに挑んだ理由は分かったといえば、分かった。
だが、そうは言っても。
「でも、当時のメンバーが勝てなかった相手に一人で挑むのは無謀だろ、リンメイ……」
頭を抱えて、深く溜め息を吐く。
そんなアロイスに、クロイツは「違うぞ」と否定を入れた。
「何名かは仲間を募っていたと聞く。メンバーは知らないが、アイツが集めたメンバーならそうそうなモンだろう。それも、負けてしまった可能性は高いがな……」
「リンメイがメンバーを集う? だったら、俺を誘ってくれても良かったのにな……」
「誘おうとはしたらしいぞ。少し前、お前に会いに行ったと聞いていたが」
「へっ。もしかして、この間の酒場に遊びに来た時か? 」
確かに、彼女の言い方にはいくつか気になる点があった。
……そういうことか。
リンメイは自分を仲間にして氷竜のダンジョンに赴くつもりだったと気づく。
「その様子だと、何かには気づいていたようだな。それに、本来はジンもお前にこの事を伝えるつもりだったらしい。二人とも、酒場で楽しくやってるお前を見て、誘いきれなかったと言っていたがな。だから俺も、お前を巻き込むつもりはなかった。それが、フィズの勝手でお前に連絡をしてしまった。俺が止めて置けよと言ったにも関わらずだ。しかし、伝えた以上は絶対来るだろうと踏んでいた。だからお前が来ても驚きはしなかったんだよ」
アロイスが久しぶりに現れることも、クロイツはすべて予測済みだったということだ。
「俺が楽しそうだったから、か。アイツららしいよ」
「そうだな。だが、今のお前は俺の話を聞いてしまった。そしたら次の行動くらい予測はつく」
「……当然だ。俺は、遺言のダンジョンとやらに行かせて貰う! 」
アロイスは立ち上がり、壁に掛けられた大剣を握り、背中の鞘に仕舞う。
「だろうと思っていた。実のところ、フィズも部隊を率いて先行しているんだ」
「……だからフィズは本部に不在だったのか」
「そういうことだ。しかも、更に言えば向かっているのはフィズだけじゃない」
クロイツはテーブルの引き出しから何枚か紙を取り出して、それを並べた。
「今回、警衛隊本部より、リンメイの行方不明を受けて世界各地の冒険団に要請があった。西のグラン、南のサンドサイド、東のブライトムーン、ジパングのハヤブサ……有名どころばかりにな。……ついでに、お前には要請に伴って渡されたコレを受け取れ。活用してくれ」
クロイツが取り出した紙のうち、最も大きい用紙をアロイスに渡す。
それは氷竜の墓におけるダンジョン地図であった。
詳細はほとんど描かれていないが、それでも無いより有難い。
「本当なら、俺が行きたい所だが、この老体では足を引っ張るだけだ。悔しい話だけどな。だが、お前なら。そう信じてるぞ」
「言われずともそのつもりだ。任せてくれ。オヤジ、色々と有難う。感謝するよ」
「礼なんか要らんさ。それと最後にもう一つ。猛雪山ってことで、頼もしい味方を用意させて貰った」
「頼もしい味方? 」
「そうだ。そろそろ来る頃だと思うが……」
その時、コンコンッと団長室の扉がノックされた。
クロイツの「入れ」という許可と共に、扉が開くと、彼女が立っていた。
「こんにちわッスー! アロイスさん、リーフもご一緒するッスよぉ! 」
それはクロイツ冒険団、現副隊長でお馴染みリーフ・クローバーでだった。
見た目が幼い少女のようでありながら、身の丈ほどあるハンマーを扱って戦う優れた魔法師である。
「リーフ! た、確かに猛雪山の集落がお前の故郷だったか」
「へっへーん、そうッスよ! アロイスさん、リーフが居れば百人力ッス。任せてくれッス! 」
金髪のツインテールを揺らす彼女は、(小さな)胸を叩いて、自信満々に言った。
………
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