表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
318/358

of my mind(7)


「もしかして兄貴も、そうだったのか!? レグルス兄貴も、そのダンジョンに挑戦していたってのか! 」


 アロイスが声を荒げると、クロイツは頷き、答える。


「そうだ。レグルスはスピカの事件よりもいち早くダンジョンの存在に気づいていた」

「どうして黙ってたんだよ。知っていたら、俺が攻略をしていただろうに! 」

「そう簡単な話じゃなかった。あの当時から、そのダンジョンは情報規制が敷かれていたんだ」

「情報規制……? 」


 一体、そこまで重要視されるダンジョンとは、どういうものなのか。

 アロイスが声を荒げて尋ねると、クロイツはもう一本の煙草に火を灯しながら、言った。


「……氷竜(ひりゅう)の墓」

「なんだ、それ……」

「古代戦争時代、魔族の王において右腕と呼ばれた氷竜。その墓場とされた古代遺跡(ダンジョン)だ」

「何だって? そんな話、聞いたことが……」

「あるわけがないだろう。これは機密中の機密事項。ヘルトの遺言書から発見されたモンだからな」

「ヘ、ヘルトって……あの『 英雄冒険家 』のヘルトか!? 」


 再びアロイスは声を荒げた。驚くことが、あまりにも多すぎる。

 そんなアロイスに相反するクロイツは煙草深く吸い込み落ち着いたように、天井に向け細く長い煙を吐きつつ、説明を続ける。


「このダンジョンの存在が確認されたのは約十五年前。英雄冒険家ヘルトが病気で亡くなった際、書き残した遺言から発見したんだ。冒険王と呼ばれたヘルトの遺言書自体がトップシークレットものだったわけで、当然、知るのも数少ない内容だ。そんな中、お前も知っての通りだが、俺らは世界各地で色々やってたワケだし、その伝手で俺もヘルトの遺言書を知ることになった」


 アロイスは、クロイツの話生唾を呑み、真剣に耳を傾ける。


「氷竜の墓は、北方大地(ノースフィールズ)の猛雪山に在るらしい。ヘルトの遺言書によれば『 攻略対象とするには早すぎる 』と一文があったともいう。だが、遺言書を知った者たちは、当時の実力者たちを集めた選抜メンバーを組んで攻略することにしたんだ」


 それが、アロイスとリンメイの兄であるレグルスだったというわけだ。


「お前たちはまだ幼かったから話はしなかった。まあ、レグルスは強かったからな。俺は楽観視もしていたさ。……でも、アイツが戻ってくることは無かった」


 言葉は落ち着いていたが、クロイツは拳を強く握り締めた。


「……そして、それから数年後だ。遺言書を知るメンバーだった一人が名乗りを上げる。それが当時のスピカの冒険団長だった。だが、結果はお前の知っての通りだ。スピカは攻略を失敗して解散に追い込まれちまった。しかしな、スピカの敗北は無意味じゃなかったんだ」


 クロイツは燃え盛る煙草の火先を見つめて言った。


「スピカのメンバーのうち、ダンジョンから逃げおおせたヤツがいた。そいつによれば、ダンジョンの深部で、魔族の王の右腕である氷竜が生きているという可能性を示したらしい」


 それを聞いたアロイスは、驚き、テーブルに両手をバンッ! と叩く。


「生きている? 氷竜の墓で、氷竜が生きているって、どういう……! 」

「俺も実際に行ったわけじゃないし分かるわけがねーだろ」

「もしも本当なら、当時の戦争時代の生き残りってことだろ。とんでもない話じゃないか! 」

「だろうな。しかし、生きていると見解が示された理由については、面白い話ばかりだけではないんだよ」

「なにがだ? 」

「氷竜の魔力が年々と強まっているらしく、墓の周辺に現れる魔獣が狂暴化する事例が報告されている」

「狂暴化……」

「ああ。恐らくは、氷竜の魔力に魔獣が惑わされているんじゃないかという話だ」

「……待ってくれ。ノースフィールズの猛雪山で、変な魔力……どこかで聞いたことが」


 あっ……!

 アロイスはアイツ(・・・)|の言葉を思い出して、右手で口元を押さえた。


(アルクのやつが、行方不明になった店員を探すうちに、あの辺の魔力は特異な磁場が発生していることに気づいたって話をしていたな)


……………

「それで、どうしても見つからなかった俺は、一つの仮説を立てた。あの辺には、魔力の特異点というべき変異した魔力磁場が発生していたんだ。ちょっと歪んでるっていうのかな。だからもしかすると浮遊する魔力が何かしらの魔法を発現させて、それに巻き込まれたんじゃないかって思ったんだ。要は、瞬間移動みたいなもんさ」

……………


(それが氷竜の魔力であるというなら辻褄が合う。ただでさえ、あの周辺は危険地域として入山規制が敷かれている部分もあるが、もしかして、その理由は……氷竜ダンジョンがあったからだ! それに、ジンのやつもウチに飲みに来た時に言っていた。6年前の事件には、別の真実があると。つまりは、こういうコトだったんだ……)


 今まで、遠からずヒントがあった。今まで謎としていたパズルのピースが繋がった気がして、何とも言えない表情を浮かべてしまう。

 その様子に、クロイツは言う。


「色々と繋がった部分があるだろう。だが、納得して終わるのは早い。実は、狂暴化する氷竜は特に問題視されている。年々強くなる氷竜の魔力により、一般の魔族にすら影響が懸念されているんだ。今は入山規制をかけてはいても、いずれ氷竜が完全に復活したとすれば、世界規模の事象に発展するかもしれない、と」


 つまり、世界中に共存している魔族たちが氷竜の幻惑に惑わされて、人間たちに牙を剥く可能性がある、ということだ。


「冗談だろ? そんな事になったら、古代戦争時代の再来じゃないか! 」

「だから重要視されているし、トップ・シークレットとなっているんだ」

「そ、そういうことか」

「だから、どこから情報を仕入れたかは知らんが、リンメイはダンジョンに向かったのさ」


 兄レグルスの恨みを晴らし、その氷竜を止めて世界を救うために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ