of my mind(3)
「自分に何が出来るかは分かりませんが、話だけでも聞いて来ようと思います。……で、そういうわけなんだが、ナナ」
アロイスは、ナナの方を向いて言う。
「……はいっ。大丈夫です。ということは、しばらく酒場はお休みになるんですね」
「そうなるな。だけど、今回はナナは自宅で待っていて欲しいんだ」
「えっ! ……あ、も、もちろん分かってます。大丈夫です、そうですよね! 」
ナナは笑顔で答えたが、いつも一緒に行動してきた分、やっぱりどこか寂しそうだった。
アロイスは「すまない」と謝って、断りを入れた。
「今回は、冒険団のトップ層が苦労するくらいの問題が起きているらしいからな……。問題を聞いてから、冒険団だけで解決できるような内容なら俺は直ぐに帰ってくるつもりだ。もちろん、さっき言った通り、問題の本質はリンメイにあるようだし、そこは心配しちゃいない。だけど……」
万が一、とアロイスは付け加える。
「もし、本当にリンメイが危険な目にあっているようなら、話は違う。俺は、リンメイという大事な家族を失うわけにはいかないんだ」
アロイスは、ナナを危険に巻き込まないための行動だった。
無論、ナナはそれを理解し、受け入れる。
「はい、分かってます。大丈夫です。でも、必ず帰ってきてくださいね」
「当たり前だ。今の俺の居場所はココ、この家が俺の自宅なんだぞ」
アロイスは、ナナの額に人差し指でぴんっ、と優しく触れて言った。
「……はいっ。お待ちしております! 」
「ああ。それじゃ、申し訳ないけど今から準備をさせて貰うとしようか」
「今日のうちに出発しちゃうんですね」
「早く行って、早く帰ってきたほうが良いだろうしな。畑仕事も出来ず、すまないが……」
「気にしないで下さい。それより、リンメイさんの事が心配ですし」
「なあに、きっと大丈夫だ。俺も直ぐに帰ってくるさ」
「はい、きっとそうですよね。あと、酒場の方はどうしましょうか」
「酒場か。あー……」
酒場は今日からしばらく『 休店 』ということになる。
また、来週予定していたブランの修行についても当面は中止だ。
「今日、出かける時に酒場に置いてある大剣を持っていくから、そのついでに休店のお知らせを書いた張り紙をしておくよ。あと、悪いんだけど、もしもブランが来たら俺はセントラルに入用で出ているって事にしていてくれるか」
ナナは「分かりました」と頷いた。
「すまないな。じゃあ、朝も早いけど、朝一の飛行船で向かうために出発をするか」
「もう行くんですね。怪我とかはしないように、気を付けて行って来て下さいね」
「ありがとう」
ナナと祖母は「行ってらっしゃい」と声を揃える。
また、アロイスが出て行くのを見送るため、ナナは玄関まで着いて行った。
「ふう。セントラルに顔を出すのは久しぶりだな」
アロイスは、玄関で靴を履きながら呟く。
「ふふっ、皆さん驚かれるんじゃないでしょうか」
「きっと驚くだろうな。俺としては、オヤジに会うことが億劫だよ」
「お父さんって、団長さんの事ですよね? 」
「そっ。今まで勝手したことに、めっちゃ怒られそうだけど、まあしょうがない……」
「あはは、そうかもしれませんね」
「その時はその時だ。さぁーって……」
靴を履き終えたアロイスは、軽く背筋を伸ばしたり運動したりした。その上で、玄関の扉を開き、いよいよセントラルに向かって出発する。
「……じゃ、ちょっくら行って来るよ」
「怪我とかに気を付けて下さいね」
「大丈夫さ。直ぐに戻ってくるつもりだ。何かあったら、連絡はするよ」
「はい。お待ちしています! 」
「おうっ。行ってくるっ」
アロイスは右手を上げ、ナナに背を向けて玄関から出て行った。
……が、ナナはアロイスを見送る際、どうにも、幻覚のように、あの日の思い出が重なった。
(あ、あれ……)
それは6年前、両親を見送ったあの日の幻影。
アロイスの後ろ姿が、父と母の姿に重なって見えたのだ。
「あっ……! 」
ナナはアロイスを呼び止めようとしたが、扉はパタンと閉じられる。
(ど、どうして)
どうして、アロイスが両親と重なったのだろう。
今まで幾度と見送ってきたというのに、今回に限って、妙な違和感があった。
「……アロイスさんっ! 」
ナナは急いでアロイスに声を掛けようと玄関から飛び出した。
しかし、既にアロイスの姿は見えなくなっていた。
「……ッ」
………
…




