大団円(14)
それぞれ料理を摘み始めたり、酒を片手に見知らぬ面々と雑談を始めたりするお客さんたち。
アロイスはそれを「ありがとう、ありがとう」と返事をしつつ笑顔で答えつつ、追加の料理やお酒の補充の準備を黙々と進める。と、そこにナナが近づいた。
「アロイスさん、ちょっといいですか」
「おっ、何かな? まだ手伝わなくても大丈夫だぞ。みんなと楽しんでおいで」
「それは、お言葉に甘えるんですけど……あの、ちょっと聞きたいことが」
「何だ? 」
「その、お金の徴収ってどうするんでしょう……か」
「……あっ」
そういえば、パーティの前に回収するべきお金を誰からも貰っていない。
しかし、乾杯をして始まったばかりの状態で、再び声を張って「お金を下さい」なんて言える雰囲気でもないし。
「ま、まあ良いか。一周年はお客さんたちに還元する日だと思ってたから、こうなったら参加費無料でも何でもいい! 」
「かなり大赤字になりますけど、大丈夫でしょうか……」
「この一年で稼がせてもらった分だし、そもそも儲けのために酒場をやってるわけじゃないからね」
「……そうでしたっ。皆さんの笑顔が見れれば、それで十分ですよね」
「そういうことだ。さ、ナナも今はみんなと話を楽しんでおいで。……ほら、お婆さんも見てみなよ」
お客さんたちに囲まれるのは、アロイスだけではない。
自宅でお世話になったことのあるシロ王子、エリー、レアはもちろん、顔見知りのスカーレット姉妹やブラン、間接的な関わりのあるリーフにまでワイワイと歓談していた。
「あははっ、お婆ちゃんってば大人気ですね! 」
ナナは、慌てる祖母にクスクスと笑った。
そこに錬金術師のアルクが姿を見せて、アロイスに乾杯する。
「おう、アロイス。何だかんだで、ちゃんと酒場の主やってたんだなオメー」
「だからしっかりやってるって言ってただろ」
「よくここまで客が集まるもんだ。俺が同じように店のパーティ開いても誰もこねえぞ」
「……だろうな」
「おい」
二人が雑談をしていると、そこに現れるヘンドラー。
アルクに肩を組み、酒を押し付けて喋りかける。
「飲んでるか、アルク。久しぶりやん、元気やったか」
「うるせえ奴が来たな……」
「ひどいこと言うなや~。ところで、お前の腕を買った儲け話があるんやけど付き合わへんか」
「断る」
「いやいや、話だけでも聞いてくれや! 」
「聞かん」
「頑固やな! じゃあ無理にでも話を聞いて貰うわ! 」
ヘンドラーとアルク、騒ぐ二人。
今度は、そこに警衛大将のジンが現れて「相変わらずな奴らだ」とため息がてら言った。
「おおっ、ジンさん! アンタも久しぶりやなあ。相変わらず、堅苦しい格好や」
「お前も相変わらずだな。アルクも然り、だが」
「ジン、俺をヘンドラーとひとくくりにすんな! 」
癖のある顔見知りが三人の会話は、もはや古く懐かしさすら感じる。
アロイスは「ククク……」と、笑いを抑えながら、三人にしゃべり掛けた。
「はいはい、分かったよお前ら。とりあえず他のみんなとも話して来いって。俺は料理の補充とかしないといけないから、忙しいんだよ! 」
「ツレないやっちゃな。へーい、ほんじゃ、あとでまたくるで」
「またあとで何か摘みにくるわ。んじゃなー、アロイス」
「俺はこいつらが下手なことをしないように見張っておこう」
ヘンドラーは、アルクとジンの肩に手を乗せて、そのままどこかへと消えていった。
また、彼らと入れ替わるようにして、今度はエリーがアロイスの傍に寄る。




