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大団円(6)


「罵倒とはひどいわー。 まっ、ええけど。ほなワイは一旦セントラルに戻るで」

「……食材代とか他、今回の代金は全部お前持ちだからな」

「仕方ないわな。食材は前日に、運ぶ食材のリストは帰ってからすぐ送るわ。別途必要なのあったら電信くれや」

「あいよ。お前自身はいつセントラルに戻るんだ? 」

「マイルと一緒に来る予定やから、ワイも今月末、30日頃やな」

「分かった。絶対に来いよ」


 アロイスが言うと、ヘンドラーは「ナハハ」と口を大きく開いて笑う。


「なーに言うとるんや。ワイは約束を破ったことがあったか! 」

「子供の頃からの思い出を、丸一日かけて思い出させてやろうか」

「……おっとそろそろ飛行船が出る時間や。ほな! 」

「あ、おい待てコラッ! 」


 ヘンドラーはニコやかに笑うと、急いで自宅から飛び出していった。

 アロイスは「やれやれ」と苦笑いして、ナナと祖母に言う。


「何か面倒なことになりましたけど、始まったもんは仕方ないんでしっかりやりますよ」

「そうですね。お客さんを喜ばせるために、色々と考えましょうっ! 」

「アタシも手伝えることがあるなら手伝うからね。遠慮なく言って頂戴さね、アロイスさん」


 アロイスは一言「よろしく頼みます」と、二人に頭を下げた。


 ……そして、その明くる日から。


 早朝の畑仕事、夕方の酒場、帰宅後の深夜には1周年記念の計画について、沢山話し合った。


 あーでもない、こーでもない、と。

 

 今回は『 お客様への感謝祭 』であるため、お客様が何より楽しめることが課題である。


 そりゃ、ある程度の料理と酒を振舞えばそれでもお客様は満足するかもしれないが、折角の1周年イベントでシンプル過ぎるものは味気が無い。


 中々決まらない方針に、週始めの休日においても、ブランとの修行がてら、アロイスの頭には1周年の催しがモヤモヤと回ってしまっていた。


「……ってなわけで、食べ放題の1周年記念の催し物を企画してるところなんだ」


 アロイスは、ブランとの修行の休憩中、計画についてを説明した。


「へぇー、1周年記念の催しものですか。俺も是非参加したいんですけど! 」


 ブランは「是非、自分も」と懇願する。当然、ブランは参加者の一人として考えていたため、アロイスは頷いた。


「もちろんだ。でも、詳細な案がまとまらなくて悩んでたところでなあ」

「店の外でビュッフェ形式の食べ放題ってところまでは決まったんですよね」

「そうだな」

「そこまで決まってるなら、あとは何に悩んでるんです? 」

「何の料理を出すかっていうのが一番の悩みどころだ」

「あー……。俺的には王道的なものは欲しいですよね。玉子焼きとか、ハムやソーセージ、煮物とか」

「うむ、それでいて折角だから、もっとウチの店のオリジナリティを出したいんだが」

「アロイスさんがいれば何の料理出てもオリジナリティですよ」

「……褒めてるのかそりゃ」

「褒めてるんです! 」

「はは、何となく参考にはするわ。よし、じゃあ休みは終わりだ。ほれ、剣撃の続きをするぞ」

「あ、はい! 」


 ……結局、そうは言っても何か良い案も浮かぶことはなく。

 そんなこんなで、いたずらに時間だけが過ぎていった。


 4月10日、11日、12日……15日、16日……。


 気づけば、イベントまで半月を切ってしまう。

 アロイスはいよいよ『 いつも通り美味しい料理だけを提供すれば良いのだろうか 』と、妥協が見え隠れする。


 しかし、そんな甘えた考えに転機が訪れたのは4月17日の朝、ナナたちと朝食で宅を囲んだ際のことだった。 


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