罪深き偽り(3)
その台詞に、「えっ」と三人は顔を見合わせた。
今までは『クロイツ冒険団』であると言っただけで幅を利かせる事が出来ていた分、アロイスの反応は新鮮で、どう反応すれば良いか迷ってしまったようだった。
「ど、どこのだと……」
「そりゃ、お前……」
「お前、そりゃあそこだよ。なぁ、リーダーが答えろよ……」
ボソボソと小声でやり取りする三人組。
アロイスは彼らの反応を見つつ、「ああ、そうか」と手を叩いた。
「お前らもしかして、サウスフィールズの面子か。そこで見た事がある気がするぞ!」
笑顔を見せて言ったアロイスに、三人は声を揃えて「あ、あぁ!」と頷いた。
「何だ、それならそう言ってくれれば良かったのに。だったら座ってくれ。丁度、旨い肉と美味しい酒を用意してたんだ。奢るからよ、待っててくれるか!」
アロイスの勢いに、三人は促されるまま腰を下ろす。
また、三人の視点からは、彼が『クロイツ冒険団の関係者なのでは』という疑念が生まれた瞬間でもあった。
アロイスは、
「直ぐに料理と酒を出すよ」
と、キッチン側に向かうが、三人には悟られないよう、ナナにウィンクして合図した。
(あっ……。アロイスさん、もしかして……)
アイコンタクトを見たナナは、それを理解して小さく頷く。アロイスはキッチンに立つと、先ほどまで作っていたチリ・ソースと幾つかの材料を使いながら、何かを作り始めた。
その傍ら、彼らには聞こえないよう小声でナナに話かけた。
「ナナ、大丈夫か。すまなかった。怖い思いをさせたな」
「い、いえ。すぐ助けて貰いましたし平気です。それに……」
「うん」
「……あっ、何でもないです」
それに、アロイスさんに抱き締めてもらったから、気持ちが和らぎました。とは、何だか恥ずかしくて言えなかった。
「そうか。でも恐怖は拭い切れるもんじゃない。何かあったら俺が力になるから言ってくれな」
「……はいっ。ありがとうございます」
本当に優しい人だ。
その優しさが、堪らなく嬉しくなる。
と、そんな優しさを振り撒くアロイスが何かを作っている最中、椅子に腰を下ろした三人も、コソコソと何か話をしていた。
「おい、あの店主の言い草、もしかして本当にクロイツの知り合いなんじゃないか」
「馬鹿言え、こんな田舎の酒場にクロイツを知る奴がいると思うか」
槌と槍はアロイスを疑うが、長剣は「待て……」と、その疑念を確信とする体験をした事を伝える。
「割と本当かもしれないぞ。これを見てくれ……」
さっき握られた腕を見せると、そこには真っ赤に晴れ上がった手形が付いていた。未だブルブルと震え、痛みに発汗した雫は引いていない。
「な、何だそれ……!」
「たかが握られただけでコレだ。料理人でこんな腕力が有り得ると思うか……」
「じゃあ本当にクロイツの知り合いなのか」
「可能性はある。だけどアイツは自分から俺らを仲間だと思ってるようだし、上手く取り繕うんだ」
槌と槍は「分かった」とそれに合意する。
と、そのタイミングでアロイスが「出来た!」と調理を終えたようで、三人の注目はアロイスに集まった。
「出来たぞ、みんな!」
手を振って此方に笑顔を振り向くアロイスに、三人も薄ら笑いして答えた。
ナナは何を作ったんだろうと手元を覗いてみると、そこには、真っ赤でドロリとした怪しい液体が、小さいU字グラスに注がれていた。
「な、何ですかそれ……」
「んー、何でしょうか。フッフッフ……」
ベロリ、と長い舌で上唇をするアロイス。絶対に良くない事を考えている顔だ。
「そこで待っていてくれ。クククッ……」
アロイスは4つのグラスを、お盆に乗せ、それらを三人の待つテーブルに運ぶ。
そして、1人ずつ手元に真っ赤なグラスを置いて言った。
「お待たせして申し訳ない。いやー、最初からクロイツのメンバーだと言ってくれれば最高の持て成しをしていたのに。さっ、仲間同士でいつものように、ウェルカムドリンクを四人で乾杯して飲もう」
彼らの前では、屈託ない笑顔を浮かべるアロイス。
まず長剣が「いつものように……そうだな」と分かっている風にグラスを手に取り、あとの二人も続いた。酷い仕打ちが待っているとも知らずに。
「おっ、分かってるね君たち!」
やつ等を、乗せるだけ乗せる。三人はこの行動が間違っていなそうだと安心して、歓声を上げた。
「の、飲むぞ。昔みたく乾杯しような、店主!」
「そ……そうだな。飲もう、楽しく飲もう!」
「い、いつでも飲めるぜ!」
三人がグラスを手に取った後、アロイスも自分に用意したグラスを取る。
「乾杯しよう。準備はいいかい」
三人は「ああ」と頷く。
アロイスは「乾杯」と言って高々と腕を上げと、三人も声を揃え、乾杯とグラスをかち合わせた。
「……飲み干すぞっ!」
そう言って、まずアロイスが小さなグラス一杯を直ぐに飲み干す。
長剣、槌、槍も合わせてグイッと一気にそれを流し込んだが、それが起きたのは、次の瞬間だった。
「……うおっ!?」
「ぬがっ!?」
「ぐぉっ!?」
これまた三人合わせて一気に喉を押さえ、声にならない悲鳴を上げた。その後、顔を真っ赤にして叫んだ。
「かっ……辛ぁぁぁっ!」
「熱ぅぅぅうっ!!」
「痛ぁぁぁあっ!」




