甘い誕生日(2)
「とはいっても、地下蔵から持ってきた一品なんだけどな。本当は自分で用意したかったんだけど、町の酒屋に売ってなかったから蔵から拝借して。だから……」
説明する途中。ナナは、目をうるうるさせて、嬉しいです……と、アロイスを見つめて言った。
「お、おう。そんなに喜んでくれると嬉しいよ」
「当然です。とっても嬉しいです。私の誕生日、覚えててくれたんですね……」
「ナナだって俺の誕生日を覚えててくれたじゃないか。俺だって覚えてるに決まってるさ」
アロイスは腕を組んで笑う。ナナは少し照れたように顔を赤くした。
「それで、このワインなんだけどな。一応、ナナにぴったりだと思って選んだんだ」
「私にぴったりですか? 」
「ああ、このラベルを見てくれるか」
ワインを持ち上げて、ナナの見えるようにラベルを表向きに、『アイス』と書かれた名称を指差す。
「これはアイスワインっていう、甘いワインなんだ」
「アイスワイン! 何だか、本当に甘そうな響きです! 」
「……はは、確かにね。だけど、アイスクリームのアイスじゃない。凍結のアイスって意味なんだ」
「あ、そっちの意味なんですか」
「そう。だけど、アイスクリームって思って貰っても良いかもなあ」
アロイスはワインに描かれたブドウのイラストを見つめる。
「これはさ、凍結したブドウを使ったワインなんだ。誕生には面白い秘話があって、ワイン農家たちが住む国を大寒波が襲った影響で、その年のブドウがほとんど凍結しちゃったらしいんだ。そこで普通は捨てるコトになるブドウたちだけど、当時のワイン農家は貧乏だったために『ワインにしてみよう』って話で、作ったワインなんだよ」
説明を終えたアロイスは、トン、とテーブルにワインを置いた。ナナは「へぇ! 」と関心して、面白そうに、それを眺めた。
「そうなんですね。お酒って、カクテルもですけど面白いなって思えるのが多いですよね」
「知れば知るほど、興味深くなる話は多いんだぞ」
「本当にそう思います。そんなワインが、甘口だから私にピッタリってワケなんですよね」
「そういうコト。だけど、覚悟しとけよぉ? 」
アロイスはニタリと笑う。
「な、何でそんな不適な笑みをするんですか」
「フッフッフ。それは昼時にでも、お婆さんと一緒に飲む時に分かるよ」
「気になるっ! 」
「まあまあ、お待ち。時間が来たら、その味を確かめると良いさ」
アロイスの言い振りに、そのワインがどれほどの物なんだろうと気になるナナ。
そんな話をするうちに、祖母も目を覚まして来て、ナナに誕生日の祝いの言葉を伝えた。
それから、三人はコーヒーを嗜み朝食を摂ったり、雑談をして時間は過ぎた。
―――やがて、午後12時。
ナナは今朝のワインが出てくるんだと期待をしたが、テーブルには、パンとソーセージの切り身、ポテトフライが少量並んだだけで、その姿は無かった。
てっきり昼食と一緒に飲むと思っていたが、そうじゃないのだろうか。ナナが訊くと、アロイスは、うん、と返事した。
「あー、まだかな。あれは食事と一緒に飲むのには少し向いてないんだ」
「じゃあ、食後ってことですね」
「そういうこと。デザート代わりに飲めるから、楽しみにしててくれ」
「分かりました♪ 」
楽しみは取っておくものだ。
アロイス、ナナ、祖母の3人で軽く昼食を済ませる。
そして、いよいよアロイスがワインを取り出そうとするが、その時。
「二人とも。私からナナに誕生日プレゼントに用意したデザートを食べてくれるかい」
祖母が立ち上がって、ナナに言った。
「え、私にデザートのプレゼント? 」
「待っててくれるかい。今、もって来るさねえ」
「やった、嬉しい! お婆ちゃん、有難う! 何を買ってきてくれたの? 」
「珍しいものだよ。町に来てた行商から買っておいたんだよ」
そう言って、キッチンに向かった祖母が持ってきたのは、少し大きめの青色で正方形状の箱。テーブルに置くと、冷蔵保存されていたのか、ひんやりと冷たかった。
「大きい箱……! 」
「開けてみてくれるかい」
「うんっ」
何が入ってるんだろう。ナナは、ワクワクしながら箱を開く。すると、その中身を見たナナは思わず、すごい! 叫んだ。それは、世界各国様々な産地をからと寄せられた、多彩なチーズの詰め合わせだった。
「わあ、チーズの詰め合わせだ! 」




