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知識の恥(1)


 【2081年2月15日。】

 16時、酒場の開店前。

 仕込みを終えたアロイスとナナは、中央のテーブルに座って雑談を繰り広げていた。


「ブランさん、修行をすごい頑張ってるんですね」

「まだ2回くらいだけど、やる気は伝わってくるぞ」

「ふふっ、そうなんですね。今度、朝食に二人にサンドイッチでも作ってあげよっかな」

「お、ブランのやつ喜ぶぞ~。頼めるかな」

「もちろんですよ♪ 」


 話題は、少し前に始まったブランの修行について。アロイスの指南・修行に文句一つ言わずついてくるし、その時間以外は友人チークの冒険団で鍛錬に参加し始めたことなど、思いの外、努力家だったと称賛する。だが、アロイスは少し表情を曇らせて、言う。


「……ま、調子に乗らないって事だけは祈ってるけどな。そこは俺も注意するけど」

「どういうことですか? 」

「少しの実力を持つと、図に乗る奴が少なくないんだ。生半可な知識を披露したりなあ」

「にわかってことですか? 」

「そうそう。そういう性格になっちまったら、一回失敗して痛い目みるまで分からないんだけどさ」

「あはは、そうかもしれませんね」

「うむ、そうなんだ。痛い目みるまで分からないんだよ本当に……」


 アロイスは両腕を組み、顔をヒキつらせて言う。ナナは彼の態度に、どうやら『何か』あったのだと気づいて、それを尋ねた。


「もしかしてアロイスさん、何か失敗したこと……あるんですね」

「あー……うん。調子に乗ってた時期の失敗は、一度や二度じゃないし」

「一度や二度じゃないんですか。例えば、どんな失敗があったんですか? 」

「うーん」


 十代の頃は自分の強さに過信して様々な失敗をしてきた。

 単純なミスだってあるし、痛々しく半ば言えないような話もある。


「ひかないでくれよ……。後輩に間違った知識を教えて遭難させたり、調子乗って魔獣の群に突っ込んで食われかけたりした事とか……」


 アロイスは苦笑いして言うと、ナナは目が点になった。


「た、食べられかけたって」

「ハハ、そういう事もあったって話だ。てか、そういう話で一番印象に残ってるのは、やっぱりアレかなあ」

「アレって何ですか? 」


 アロイスの昔話に興味津々のナナは、身を乗り出して尋ねる。


「ちょっと毛色が違うんだけど、今の酒場に通ずる話でさ。いつか話をしたかと思うんだけど、俺って冒険者として世界を旅してきて、沢山の料理やお酒の知識を蓄えてきたんだ。だから、若い頃とかってそういう知識を得たら無駄に披露したくなるもんでさ……」


 いつ思い出しても情けなくなる。いや、別に誰かの命を奪いそうになったとか、そういう話じゃないんだけども。


「えーっと、ナナ。キューカンバーって酒を覚えてるか? 」

「もちろんです。お店で初めて出したカクテルですよね! 」

「そうそう。じゃあさ、キューバリバーってのは知ってるかな」

「……いえ、聞いたことないですね」

「うん、実はこの二つのカクテルで大きな間違いをしてさあ」


 アロイスは椅子から立ち上がって、キッチンに向かう。下の棚から何本かの酒瓶を手に、何やら作り始めた。一本は飲み口の軽いホワイトラム、もう一本は真っ黒なボトル。それに、カットしたラムを用意する。


「仕事の前だから、少しだけね」


 氷を入れたU字のコリンズグラス、そこにホワイトラムを少量、真っ黒なボトルの中身を多めに注ぐ。それをステアして、ライムを乗せて完成。ナナに差し出した。


「あっ、黒い! 」

「これがキューバリバーだよ」

「黒いっていうか褐色ですね? 今までにあまり見ないカラーな感じ……」

「ははは、確かにな。少し、飲んでみると良い」

「はい。いただきます」


 ナナはグラスを持って、少量を口に含む。

 舌にピリリとした炭酸の刺激を感じてから、ふわりとした砂糖の甘さが広がる。喉に流し込むとアルコールの余韻が鼻を突くが、ナナは、この味を良く知っていた。


「も、もしかしてこれって、コーラのカクテルですか……? 」

「大正解。コーラとラム酒のカクテルなんだ」


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