シュガー・バター・アップル(4)
「少し洒落た感のあるパンケーキになりましたね」
「いやー、さすが大したもんさねぇ。お家なのに、お店のご飯みたいだよ」
「ははっ、嬉しい言葉です。さて、出来上がったばかりで申し訳ないんですが、後1分くらいだけお待ち頂けます? 」
「どうしたんだい? 」
「あと一品だけ作りたいんですけど、その準備が1分ほどで終わるので。ナナも来てくれるかな」
ナナは「もちろんです」と言って、再びキッチンに立つ。
そこでアロイスは、丸々としたリンゴを手に持ち、慣れた手つきでリンゴの中心部分(芯)を円錐状にくり抜いた。リンゴのてっぺんから中心辺りまで、底は貫通しない厚さでぽっかりとした穴が開く。また、ナイフで穴を中心に軽く何箇所か外側に向かって薄い切れ目を走らせた。
「ナナ。リンゴの穴にバターは多めと砂糖を少しだけ詰めてくれるかな」
「わかりました」
ナナが砂糖と詰める間に、もう一個のリンゴをくり抜き、切れ目を入れる。もう一個のリンゴにも同じように穴に砂糖とバターを詰めた。
「有難う。あとはオーブンで焼くだけだよ」
予熱で180度。熱したオーブンにリンゴを入れて、20分後にセットした。
「あとはパンケーキを食べてる間に待つだけだよ」
「え、は……はい。何だか見たことない料理っぽくなりそうです。でも……」
単純に言えば、リンゴに砂糖とバターを入れて焼いたもの。どう考えても、美味いに決まってる。
「食後のデザートってことで。さ、パンケーキが暑いうちに食べよう」
「はい。何だか色々と楽しみです」
二人がリビングに戻ると、早速、祖母と共にパンケーキを口にする。
それは想像通り、ふっくらした黄色いパンケーキに、ほろ苦くも果実の甘みが存分に生かされたカラメルソースが絡みつき、何ともジューシーな味わいが舌を満足させてくれる。
「うわぁー、美味しい! 」
「リンゴが新鮮だから、甘みが存分に出てるなぁ」
「こりゃー絶品さね! 」
三人はあっという間にパンケーキを平らげて、心地よい表情を浮かべた。
……すると、アロイスがそのタイミングで時計を見ると食事を始めて丁度20分が経過していた。
アロイスは「あれも出来たな」と言って、キッチンに駆け込んでから、白皿にリンゴを2つ乗せてリビングに戻ってきた。
「あ、それがさっきのですか?」
「焼きリンゴっていうのかな。砂糖バターを使ったあまーいお菓子なんだ」
「うん、いい香りがします……」
表面の皮は熱せられてシナシナと柔らかめになっている。アロイスはナイフを用いて最初に入れた切れ目から縦にリンゴを切ってみる。と、その瞬間。
「わぁっ! 」
「んー、美味しそうさねぇ……! 」
二人は、食べる以前に喜びの声を上げた。
縦に切ったリンゴから、溶けたバターがいっぱいにお皿に溢れ出したのだ。溶けた砂糖とバターは、芳醇であまーい香りがリンゴから立ち昇る湯気に乗って、これでもかというくらい食欲を刺激してくる。見たまんま味の想像がついていても、手を伸ばさずにはいられない。
「ごくっ……」
ナナは、あまりの魅力さに涎を飲んだ。それほどまでに悪魔的で、魅惑の一品だった。
「これを食べたかったんだよなー。今、切り分けるから」
切り分けたリンゴは、溶けたバターと砂糖に浸して取り皿に盛り付け、ナナと祖母、自分の前にそれぞれ置く。
「どれ、食べてみるか」
と、早速、三人は口に運んでみた。
「……んーっ、あまーい! 」
「滑らかな味がするねぇ! 」
「やっぱ美味いなこれは……」
絶賛の嵐が飛び交った。
果実の酸味を程よく残したまま、バターの濃厚さと砂糖の甘さと深い味わいを演出する。リンゴ、バター、砂糖。こんなシンプルな材料だけで、これほどまでに幸せな気分になれるなんて。




