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シュガー・バター・アップル(1)

 【2080年1月23日。】

 今日は週初め、お店が休みの日。

 少し遅めに目覚めたアロイスが洗面所で顔を洗ってリビングに向かうと、ナナがアロイスに駆け寄って、笑顔でリボン結びの箱を手渡した。


「おめでとうございます、アロイスさん! 」

「……ん? 」


 一体なんだろう。アロイスは何を渡すつもりなのだろうと首を傾げる。と、ナナは不安そうな表情になって、言った。


「あ、あれっ。今日じゃなかったでしたっけ、お誕生日……」

「……あっ! 」


 ナナに言われて思い出した。今日は、自分の誕生日だったってこと。


「そ、そうだ。今日は俺の誕生日か! 」

「あっ、やっぱりそうでしたよね! 良かったー……」

「結構前に少し話をしただけだったよーな気がするんだけど、覚えててくれたのか」

「当然です! 」

「てことは、これは俺にプレゼントか……」

「はいっ♪ 」


 アロイスはナナからのプレゼントを受取った。小さめの箱だが、それなりの重さがある。


「……中身が気になるな。開けていいか? 」

「勿論です! 喜んで貰えると嬉しいんですけど……」

「気持ちが篭ってるのは全部が嬉しいよ。どれどれ」


 箱をテーブルに置き、リボンや装飾を剥がして長方形状の箱を開いてみる。そこには、深紅色の『Cherry』と書かれた小型の瓶が入っていた。


「これはチェリーのリキュールかな? 」

「はい。えっと、少しお酒のことを勉強して、誕生日のお酒があるって事を知ったんですけど……」

「おー、そういうことか。でも、このリキュールを選んだってことは、きちんとカクテルも調べてくれたってことか」

「それは、はい! えっと、カクテルの名前は確か……」

「うん。カクテルの名前は……」


 アロイスは、ナナと同時に声を揃えた。


「キングピーターだな! 」

「キングピーターです! 」


 二人は人差し指を立て、顔を近づけ合って笑みを浮かべながら言った。


「大正解! しっかり調べてくれたんだなぁ、ナナ」


 アロイスは感心した。キングピーターは、甘酸っぱいチェリーを使ったカクテルの一種。甘いチェリーリキュールとレモントニックを使うことで、甘い香りに余韻は締まった味わいとなる。お好みでレモンスライスを添えたり、アルコール5から7度と比較的低く、飲みやすいカクテルだ。


「本当はカクテルを作りたかったんです。けど、私は作れないから……。せめて誕生酒に関連するお酒を贈りたいなって思ったんです」


 ナナは照れながら言うと、アロイスは笑顔で答えた。


「いやー、誕生酒なんて貰ったことがないよ。気持ちだけで十分に嬉しいのに、わざわざ調べて凄く考えてくれたんだろうなと思うと、ずっとずっと嬉しくなる。最高の朝になったな、こりゃ」


 アロイスが喜ぶと、ナナも喜び、それは嬉しそうにした。


「良かった……。そんなに喜んでくれるとは思いませんでした。私も嬉しいです」

「さすがに早朝からお酒ってわけにはいかないから、お昼にでもカクテルを作って一緒に飲もうか」

「はい、是非♪ 」

「おうっ。……あっ、でも、そうだ。折角だしナナがカクテルを作ってみるか? 」


 それはナナにとって予期せぬ提案。驚いて、肩をぴょんと動かした。


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