表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/358

笑顔の思い出(4)


 ジンは威圧的な態度を続ける。

 しかし、アロイスは威圧に負けず首を横に振った。


「俺も何度も言うが、警衛隊に入るつもりはない。絶対にそんな事は有り得ない」

「お前の実績と実力を考えても、お前以上に俺の後釜に相応しいヤツはいない」


 アロイスは1万人の部下を従えた上、世界有数の実力を持つ。また、彼の名は世界的にも通じるところもあり、模範的にも警衛隊トップに立つには最適の人材という他ならない。つまり、警衛隊からすれば喉から手が出るほど欲しい存在だった。


「それはどーも。だけど断る」

「お前が何度断ろうと、俺は諦めん。冒険者を引退したというのなら、尚更だ」

「俺はお前が何度誘おうと、断ることを諦めない。平和な生活を望む酒場主人なんだから、尚更だ」


 互いが、互いに譲る気がない。アロイスとジンの睨み合いは続いた。


「どうして警衛隊を嫌う。お前にとっても最良の場所のはずだ」

「勘違いすんな、正義に戦う警衛隊は嫌いなワケじゃない。働くのが嫌だっつってんの」

「適材適所という言葉を知らないのか」

「それも含めて気持ちの問題だろ。俺の気持ちが無けりゃ適所とはならんよ」


 アロイスは深い溜息を吐いて、言う。


「そもそも、ジンの下に就くってのは、警衛隊の幹部……政界入りするということだろ。俺はそんな面倒な事に巻き込まれたくないし、やる気がないんだ」


 警衛隊は、基本的にセントラルの防衛省に属する。その内側で大将候補官となれば、世界の中心であるセントラルにおける政界入りしたと同じ。世界を動かす歯車の一部となってしまう。そしたら最期、アロイスが望む平穏な日々など遠くに過ぎ去る。第一、どれだけ魅力的な条件でも今の生活を辞めるつもりも無いのだが。


「政界が面倒か。それは良いが、お前は、自分の手で悪党を捕まえ世界平和に貢献する気は無いのか」

「無いと言ったら嘘になる。けど、警衛隊に俺の求めるものも無い」

「悪党を見て見ぬ振り出来ぬお前が、よく言う」

「それは……」


 そこは否定しない。否定など出来るはずがなかった。根っからの正義感は自分自身で認識していたからだ。


「お前には正義感があるのだろう。だからこそウチに入るべきだ。お前ほど相応しい奴はいないんだ」

「そりゃ有難う。だけど誘うなら俺じゃなくてフィズやリーフ、他にも候補は沢山いるし、そっちにしてくれ」


 どれだけ懇願しようとも、動かないアロイス。ジンは、チッ、と舌打ちした。


「分からん奴だ。政界入りするということが、どういう意味か分からんとは」

「ただの面倒に巻き込まれるってことだろ」

「フン、果たしてそれだけだと思うか」

「どういう意味だ」

「……お前の望む情報が、そこにあるとしたら」

「何? 」


 ジンは、一瞬だけ瞳を動かしてナナを見て、すぐにアロイスに目線を戻した。


「! 」


 その瞬間アロイスの額にヒヤリと冷や汗が流れ出る。ジンに対し、カウンターに両手をついて身を乗り出した。


「まさか……! 」

「そこには在るぞ。お前の望む、すべての真実が」


 ナナとブランは首を傾げる。ただ、アロイスだけがそれを理解していた。


「そ、それは本当なのか。それに……真実があるというのか」

「あるとしたら」

「ジンたちしか知り得ない情報が、あるというのか! 」

「さあ、どうだろうな。これ以上は守秘義務に反する」

「ッ!! 」


 正直、ジンの一言はアロイスの脳裏を大きく揺さぶった。ジンが言う『あの情報』について、もしも真実があるとするのならば、それを知り得たのならば、きっと、アロイスの人生を再び大きく変えるかもしれないと、直感したからだ。


(くっ……。その情報は欲しくないといえば、嘘になる。だけどな……)


 それでも、アロイスは首を横に振る。

「あり得ない話だ、断る」

 ……と。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ