若き日と斜陽(14)
「んぐっ……!? 」
その瞬間、押し寄せる魔力の渦。
全身が燃えるように発熱する。
「あっつ!? お前、めちゃくちゃ体温上がってるけど大丈夫なのかこれ! 」
「80度くらいまで上がるかもしれないけど、お前なら耐えられるだろ」
「おま……バカか!? ぬぉっ……、ふぐっ!? 」
そして、アロイスが最高の熱気を感じた瞬間。全身を煙か湯気か分からないモヤが包み込み、グングンと肉体が大きくなり始めた。
「おっ、おぉ!? か、身体が……」
「ほーれ、戻ってきた」
「アロイスさん、頑張ってください! 」
16歳、17歳、18歳、19歳……。
数秒毎に、元々の姿へと戻っていく。
(良かった。やっと、今のアロイスさんに戻るんだ……! )
ナナは、アロイスが戻る姿を眺めていたが、しかし。
アロイスがようやく20代の肉体に戻り始めた際、思いもよらない出来事が起こる。
ビリ、ビリビリッ!!
若かった頃のアロイスの衣服が破れ、まさかの全裸を披露してしまう大事故が発生したのだ。
「……ッ!!!? 」
目の前で披露されたアロイスの全裸。
ナナは思わず赤面して、両手で顔を隠しその場にうずくまった。
アロイスは「嘘だろ! 」と、近くにあった布で下半身を隠す。
店長は予想しない事故を前に、アロイスを指差して大爆笑した。
「ぶっ、ぶぁっはっはっはっはっはっは!? 」
「ふ、不覚だ! つーかお前、笑うんじゃない! 」
「だって面白すぎるだろ! くっ、くくく、ははははははっ!! 」
カウンターテーブルをバンバンと叩く店長。アロイスは破れた衣服をかき集めて腰に回す。ナナは床にうずくまったまま、見てません見てません見てません、甲高い声で何度も呟く。
「く、くそぉ! 何てことだ……。だ、だが……」
そうこうしている間に、アロイスの肉体は今の鋼のような巨体を取り戻す。熱気も落ち着き、これでアロイスは元に戻ったというわけだ。
「何とか元に戻れたみたいだな。とりあえず助かったよ」
「おう。それよか、そこで俯いてるのを何とかしてやれって」
「ん……」
店長が指差した方向には、未だうずくまって顔を隠すナナの姿があった。
「あー……。す、すまんナナ。もう大丈夫だって。ほら、見てみろ! 」
両腕を大きく拡げるアロイス。上半身は古代を彩る彫刻のような肉体を露わにしていたが、下半身は破れた衣服を適当に繋ぎ合わせて隠している。ナナは涙目になりながら「はい……」とアロイスを見上げた。
「ほ、ホントに元に戻って……る。だ、大丈夫なんですか……? 」
「ああ大丈夫だ。紆余曲折だったが、もう完全に治ったぞ」
アロイスは笑顔で言うと、ナナも戻ったことに安心して笑う。……ところが、そんないい場面に水を差す男が一人。背後から、ニタニタと笑って、アロイスの下半身を隠す衣服に手を伸ばして……。
「はい、どーん!! 」
その衣服を解き、思い切り下に引っ張った。もちろん、床に座り込んでいたナナの位置からは、その目にアロイスの全てが映ってしまい。
「……きゃあああっ! 」
最早、為す術なし。ナナは叫び声を上げて、再び顔を隠した。
店長は「やりぃ! 」と指を鳴らす。
そしてアロイスは、隠す気なしの素っ裸のまま、笑顔で店長に近づいた。
「なぁー、店長」
「おう、何だ? 」
店長が返事した刹那、ゴツンッ!! と鈍い音が響き渡る。
「がっ……ふ……」
……ドサリ。
アロイスの拳の一撃を受けた店長は、その場に倒れたのだった。
………
…