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若き日と斜陽(7)


「ぐぇっ! な、何をする! 」

「手伝うのは構わん。しかし、何をどういう理由で集めるかくらい聞かせてくれ」

「べ、別に説明する必要はなくねぇか! 」

「そもそも、本当にこの手伝いをして俺を戻してくれるのか、その保障はあるのか」


 アロイスはグイグイと襟を引っ張る。首を締め付けられる店長は、分かった分かった! と叫んだ。


「分かった分かった、色々と説明すっから離せ! 」

「……仕方ない」


 アロイスは掴んでいた襟を離す。店長は「乱暴なやつめ」と、よれたローブを直す。


「しっかたねぇなぁ。説明してやるよ」

「頼むぞ。どういう理由で100種類以上の魔獣の血を集めて来いというんだ」

「あー……簡単な話だ。俺は今、様々な魔力のパターンを調べてんだけどもさ」

「うむ」

「魔獣に含まれる魔力のパターンを分析することは、お前を元に戻す意味にも繋がるわけなんだよ」

「その俺を戻すっていうのは、100種類の研究と何が関わるんだ」

「あのなぁ……」


 店長は、これでもかというくらい面倒そうな表情で、それはダルそうに説明した。


「魔獣は、その種類だけ所持する魔力パターンも異なる。俺は、その数多くの魔獣の魔力の性質を調査したいってわけ。新鮮な血液や体液に含まれる魔力は、活きが良いし研究し甲斐があるんだよ。んで、様々な魔獣の持つ魔力性質を調べるついでに、お前の若返り魔法を解除できるための性質も合わせて調べてやっから、フィフティフィフティだろ」


 店長の言葉に、アロイスは納得する。も、一つばかり気になることが。


「何だか時間が掛かりそうだな。お前、さっき俺の解除するの簡単だって言ってなかったか」

「え? そりゃオメー、俺に掛かったら簡単だっていう話よ」

「100種類にも及ぶ魔力の調査を、そんな簡単に出来るのか。……いや、店長なら出来なくは無いのか」

「そういうこと。俺を誰だと思ってる。あー、それとだな」


 店長は、アロイスに近寄ると、髪の毛を数本プチッ、と毟った。


「あいたっ! 」

「髪の毛貰うぞ。お前の掛かってる魔力パターンを割り出させて貰う」

「いきなり引っ張るなよ。でも分かった、とりあえず100種類の魔獣の血を採取してくりゃ良いんだな」

「おう、そういうこと」

「把握した。100種類くらいなら難しいこともねーしな」


 緑のナイフをクルクルと空中で回しながら、余裕綽々という表情を見せる。


「余裕そうな表情してんな。ってか、お前なら余裕だべ。……あ、そうだ。もう一つ」

「まだ何かあんのか」

「うんむ。ついでに、彼女を貸してくれないか」


 店長はニヒッ、と笑みを浮かべ、ナナを指差した。


「えっ、私ですか!? 」


 ナナはびくっと反応する。


「おう、俺は君が欲しい。えへへ、おいたんの研究の実験材料に……」

「ええぇぇッ!? 」


 ナナは目を丸くして、涙を浮かべる。

 アロイスは「殴ろうか」と一言、拳を握り締めて、店長にゆらゆらと近づいた。


「ちょちょちょーい! 待って、嘘!冗談、タンマ! 暴力反対! 」

「命まで奪うつもりはない。その腐った性根を叩き直してやる。ビンタ一発くらいだ」

「お前のビンタは、俺の首取れちゃうだろうが! そうじゃなくて、話を聞けってば! 」


 店長は本気で命の危険を感じ、呼吸と声を荒らげる。


「話を聞いてくれって本当に! 良いか、俺が彼女……ナナだっけ!? ナナを貸してほしいって言ったのは、本当は俺の手伝いをして欲しいってことだけだよ! 」


 必死に命乞いして懇願する様子と、手伝いという単語に、アロイスは拳を引っ込める。


「……手伝いだ? 」

「か、簡単な助手だよ。お前が戦う間に、助手として借りたいんだ」

「お前は凄腕錬金術師なんだから、錬金術で助手なんざ必要ないだろ」


 アロイスが言うと、店長は首を横に振った。


「おう、そりゃまあ凄腕に不可能はねぇよ? だけど、腕はあっても俺の魔力が追いつかないわけ。今言ったけど、お前が戦って集める間に俺も錬金道具揃えないといけないし、力仕事やら何やら手伝ってほしいんだよ。あと紅茶淹れてほしい。……てわけで、俺の体力と魔力の無さはお前が一番知ってるべ」


 なんだか余計な言葉が入った気がするが、確かに店長の体力の無さはアロイス自身よく知っていた。そう言われると、手伝ってやったほうが良いのかもしれない。


「うーん、だけどな。ナナ……」


 アロイスはナナを見つめる。

 ナナは「や、やります」と少し怯えて噛みつつも、やる気満々の姿勢を見せた。


「……心配は尽きんけども。まあ、そういうことらしい店長」


 アロイスは店長に目を戻す。


「おおっ、助かるぞ。じゃあ、早速倉庫の裏に行こうかナナちゃん。ほら、えへへ」

「えっ! は、はい……あわわっ! 」


 嫌に笑う店長は、ナナの手を引っ張り、裏の倉庫に消えようとする。寸前、アロイスは店長の襟首を再び引っ張って、一応忠告した。


「店長、変なことはすんなよ……」

「イデデッ、分かってるわ! そんくらい分別ついてるっちゅーの! 」

「なら良いんだがな」

「大丈夫だって。ていうか、お前も早く魔獣100匹分の血液を採取してこいよ」

「……分かったよ」


 心配は尽きないが、今は店長に従う他はない。一応、どれだけ面倒くさがり屋でも実力は確かで約束は守ってくれる男だし、そこだけは信用してやっても良い。


「……変なコトすんなよ」


 店の玄関から出て行く前に、もう一度注意する。店長は邪魔なハエを扱うように、しっしっ、と手で払った。


「くそ、行ってきます! 」

「い、いってらっしゃいですー……」


 バタンッ!

 アロイスは勢いよく扉を閉め、魔獣の血液採取に消えた。


 彼が出て行ったのを見計らうと、店長は「はぁーあ」と大きくため息吐いて、背伸びする。


「やーっと行ったか。ま、面倒な血液採取を手伝って貰えるだけヨシとすんべ。……さて、と」


 店長はナナに目を向ける。ナナはびくっとした。


「ナナ、俺はアルク・レン・ミスト。改めてよろしく」

「あっ……は、はい。よろしくお願いします」

「うん、よろしく」


 何か変なことを指示されるのかと思ったら、それは意外にも普通の挨拶だった。もしかすると、仲の良い友人には適当であっても、それ以外には丁寧な方なのかもしれない。


 ……と、思えたのも、一瞬だった。


「んじゃー、早速だけど服を脱いで貰うから」

「えっ」


 店長はナナに向かって、両手をワキワキと意味ありげに動かす。


「あ、あの! 服を脱いでってどういう……!? 」

「そのまんまの意味。今着てる服、脱いで貰うんだよ。ほら、早く」

「えっ、えぇぇっ!? 」

「えっへっへ……」


 狭い店内で逃げるスペースも無く、端っこに追いやられるナナは、生まれたての子犬のように震え、涙を浮かべた。


(えぇぇぇっ! ア、アロイスさん、助けてぇっ!! )


 ………

 …



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