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年の瀬旅行(15)


 ハーメルン?

 聞き覚えのある単語に、アロイスはピクリと反応した。


「聞いた事があるぞ。確か古代戦争時代にあったとされる催眠笛のことじゃないか」


 遠い古代のお話で、何者も従えるという催眠の笛があるのだと聞いたことがあった。


「さすがにご存知でしたか。はい、あの魔笛はこの地域に眠っていたんです」

「何だと……。待てよ、だから昨晩の魔獣たちも……! 」


 昨晩の魔獣たちが襲ってきた理由が、繋がった。


「ええ。魔獣たちを魔笛で操ったんです。恐らくは住民たちも魔笛を用いたんだと」

「人や魔族も集団催眠を可能にする魔笛か。よもや、この区域の古代研究所で造られた魔具だったとはな」


 そうか。大体の答えが見えてきた。全ての解決まで、もはや秒読み段階である。


「それで、確証したのが今朝の戦い後です。地元の錬金術師に協力を頂いて、戦いの痕跡から強力なダンジョンで観測する古い魔力が使われている事も確認しました。それで一連の事件はダンジョン出土品の関連が濃厚となった。この地域に魔笛によるものだと断定して、一応町をパトロールしていたんです」


 仮に昨晩の魔獣襲撃が魔笛ハーメルンの仕業である場合、術者は付近に居るはず。なら町に潜んでいる可能性が高いとみて、一応のため『解除香』を持って町の見回りをしていたところ、アロイスを襲撃したフードの男を発見。功を奏したというわけだ。


「なるほどな。しかし、よく魔笛が事件の鍵となっていることを分かったな」

「部下に色々情報を調べさせていた時、面白いものを見つけましてね。もしかしたら、と思ったんですよ」

「面白いもの? 」

「この町にある時計台にある言い伝えを知っていますか」

「言い伝え? ああ、あの……」


 ついさっき、祖母に読み上げた町の言い伝えのことだ。

 

 『ある日の正午、笛は鳴る』

 『山の麓で、子供たちは踊る』

 『時間も何もかも、全てを忘れたように』


 アロイスは覚えている内容を伝えると、フィズは頷いた。


「はい、ソレです。実はそれは、魔笛ハーメルンのことだったんですよ」

「……何だと? 」

「笛の音は、魔笛のことです。踊るとは催眠、全てを忘れたというのは消えたということ」

「ああ、そういうことだったのか! 」


 そう言われれば、その意味合いで取ることが出来る。


「それも判明したのは今朝早くなんですけどね。石碑の内容は昔から伝わっている事を思い出して、もしかしたらダンジョンと関連があるんじゃないかと。どんな可能性でも知るため、町の歴史を調べました。早朝から役所にも掛け合って、アッサリと古い書物から、この周辺で一斉に姿を消した村があると分かったんですよ」


 一つ物事が判明すれば、二つ三つと連鎖的に判明することは珍しくないのだ。

 

「それでも、あの犯人を捕まえてこそ全てが終わるわけですけどね」


 フィズは彼を追いながら、腰のホルダーから短剣を抜いて両手に構えた。ライフも長剣を抜き、アロイスも拳を握りしめる。いよいよ、敵が近いと気配で察したからだ。


「やれやれ、アイツが犯人だったら昨晩見かけたウチにとっ捕まえれば良かったと思ってるよ」

「ま、さっさと本人をとっ捕まえて終わらせましょう。もう目の前ですからね! 」

「そうしたほうが早そうだ」


 3人はあっという間に、気配を追ってフードの男の側に目前に迫った。

 フードの男はアロイスたちのスピードに驚き、こちらを二度見した。


「おい、止まれ! 」


 フィズが叫ぶ。するとフードの男は、あまりにも早い3人に逃げるのを諦めたのか、適当な場所で曲がり、町から離れた森付近に着地した。アロイスらも合わせて彼の前に降りて、戦闘態勢を取る。


「さて、どうしてこんな事をしたのか教えて貰おうか。ヴェザー集落の住民たちを何処にやった! 」


 フィズが尋ねる。

 フードの男は「ククク」と小さく笑う。


「ヴェザー集落ね。よくもまぁ、僕を犯人だと分かったものだね……」


 男の声は、少し高い。羽織ったフードで顔は見えないが、どうやら若い男のようだ。


「色々と偶然が重なった結果だ。変な動きはするなよ。俺らにはハーメルンの笛は効かん。精神力が違うんだ。痛い目に合いたくなかったら、大人しく捕まれ! 」


 フィズが叫ぶ。男は再び笑い、言う。


「ハーメルンの笛まで知ってるんだ。凄いな。君ら、この町で調査したのは数日前からでしょ」

「お前も、俺らの存在は分かっていたわけか」

「もちろんだよ。君らのような強い冒険者が出て来るってのは、ちょっと予想外だったけどね」


 男は、フード越しに頭をボリボリと掻きながら、言う。


「最初はクロイツのメンバーだけ倒せるかなって思ってコカトリスの群れを町に呼んだのにさ、そこの短剣の人が簡単に倒しちゃうし。アイガーのディナー会場でも、大きいコカトリスを呼び寄せたら大きい男の人……アロイスさんだっけ。その人が一撃で倒しちゃうんだもん。驚いたよ」


 どうやら、一連の流れは全てフードの男が担当し、監視されていたようだ。


「だから夜中に町ごと全滅させてやろうと思って、森中の魔獣を全部使役してやったんだ。なのに、それなのにさぁ! 誰が全部倒しちゃうなんて思うんだよ。頭にクるよね……ッ」


 そう言いながら、男はフードを取った。その姿はやはり声色通りかなり若く、灰の髪色をした青少年。恐らくは十代後半といったところか。


「……何が頭にクるだ。集落の民は、その笛で操ったんだろう。大人しく捕まり、全てを白状するんだ」

「僕が捕まるって? 笑わせないでよ。僕さ、これを手に入れた事は運命だったと思うんだ」

「運命だと」

「だってほら。こんな強い力を手に入れたら、試したくなるじゃない……」


 男の目が怪しく紫色に輝く。その瞬間、辺りに風が舞って、男を中心に小さな竜巻のように回り出した。


「最初は小さな動物だった。次にちょっとした魔獣を。さらに集落の皆。多くの上位魔獣たちも。僕の意のままに操れるなんて、最高な気分に他ならないよ」


 男は懐から紫色に光る横笛を取り出した。そこから具現化した紫色の煌めきは、男の体を包み込み、辺りに強い魔力がバチバチと唸りだす。

 だが、全身を敵意に満ちた魔力で包み込まれる男は、当の本人自体の戦闘力が妙に低いように感じた。強力なのは周囲を覆う魔力だけ。それは、つまり。


「フィズ、あいつは……」

「はい。恐らくあの魔笛に操られているようですね」

「ったく、古代研究所の宝物なんて、基本ろくなもんじゃねえよな」

「全くです」


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