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年の瀬旅行(12)


「何だってんだ……。プラントイーターに、コカトリスの群れまでも。というより、この感覚は……」


 耳を澄まし、察知を高める。すると森のそこら中に蠢く何かの気配が漂っていた。加えて、あちこちから戦闘音が響いてるのは、先行した冒険者たちだろう。これだけの強い魔獣たちが揃いも揃えば、どんな経験の浅い冒険者でも飛び起きてしまうに決まってる。


「魔獣の大群が一気にロックタウンに向かってんのか? どういうことだ、これは」


 プラントイーター、巨大コカトリス、そして他の魔獣たちもザワザワと集まってくる。とにかく今は、町に近づけないことだけを考える。

 アロイスは指の骨をボキボキ鳴らして、戦いの姿勢を取る。フィズは一応、アロイスにもう一度だけ、言った。


「アロイスさん、一応訊きますけど、武器は余ってますが本当に要らないですか? 」

「ああ。俺は要らないって……言っただろ! 」


 ナナと祖母の休暇を邪魔されてたまるか。アロイスは全霊の力を持って、プラントイーターに突撃する。それを見たライフが叫ぶ。


「うお、生身で行くんすか、アロイスさん! 」


 フィズは笑って、「いらない心配さ」と返事した。


「うおおォォォッらァッ!! 」


 こだまするアロイスの叫び。その身一つで、頑丈なプラントイーターに突進して弾き飛ばすと、素手を使って、ベリベリと皮を剥がし始めた。他のプラントイーターやコカトリスたちは一斉にアロイスに攻撃を仕掛けたが、アロイスは空高々と飛び上がり、魔獣たちが集合した場所に、気合を込めた拳で殴りつけた。


 ズゴオオォォオンッ!!


 拳一つで、周辺の大地が揺れる。

 アロイスが殴りつけた地面の周囲には、潰れたプラントイーターと、衝撃に気を失った巨大コカトリスたちが倒れていた。


「な、なんつーメチャクチャな。本気でアロイスさんって強いっすね……。本当に冒険者を引退したオッサンかよ。ひぇぇ…………」


 ライフは、格が違うアロイスの実力を再び目の当たりにして言葉を失う。


「やっぱりアロイスさんは強いよなぁ。いつ見ても、戦い方に痺れるぜ。今もあの人は昔のまんまだ」

「全然現役でやれんのに、勿体ねー……」

「全くだ。でもな、今の現役は俺たちなんだ。引退者に負けんじゃねぇぞ、お前ら!! 」


 フィズは片腕を上げて鼓舞する。

 クロイツのメンバーは「おお! 」と声を上げて、一斉に魔獣たちに立ち向かった。


(クックック、フィズのやつ。本当に部隊長らしいぜ。もう団は安泰だな)


 アロイスの思う通り、フィズ自身も十分に世界レベルの実力は持っている。自らが率先し、次々と魔獣たちを倒し、部下に示しをつけていく。


(フィズたちにこの辺は任せて問題ないな)


 アロイスは「フィズ! 」と声を掛ける。


「はい、何でしょうか! 」

「俺は他の場所の援護に回ってくる。一匹たりとも町には魔獣を通さんぞ! 」

「……もちろんです! 」

「では、後で落ち合おう! 」


 アロイスはそう言い残して、孤軍のように森を駆けた。

 

「絶対に全てを倒しきる! 魔獣たちを町に近づけさせるものかァ! 」


 森を駆け、足を止めることなくアロイスは戦い続けた。敵意を持つ魔獣を次々打ち倒し、警衛隊とも合流。情報の共有を行ったり、他の冒険者の救出しつつ、戦闘時間は実に4時間にも及んだ。


 ……やがて、朝5時を回った頃。


 アロイスが、最上位魔獣に匹敵する魔狼ベアウルフを倒したところで、魔獣たちの攻撃的な気配はすっかり無くなったことに気づく。


「……気配が消えた」


 同時にアロイスは戦闘態勢を解く。

 するとそのタイミングでフィズたちが姿を現した。


「どうもー、元気そうで何よりです。おはようございます、アロイスさん」

「おー、フィズ。そっちの被害はどうだ」

「全くありませんよ。ただ、道中にはそれなりの冒険者たちが倒れていましたが……」

「……そうか。あとは警衛隊や治療院に任せよう」

「ええ、処理については自分たちが担当します。ですけど、一体これは何だったんでしょうか」


 突然、ロックタウンを襲った魔獣たち。明らかに、何かが起因しているはずだった。


「分からん。違う種族の魔獣たちが一斉に動き出すなんて、しかも町に侵攻するなんて普通は有り得ない。調査が必要になるだろう……が、待てよ」


 その時アロイスは昨晩の男について思い浮かぶ。


「そういえば、怪しい男を見かけたんだ」

「怪しい男ですか? 」

「うむ。昨晩の魔獣たちが襲ってくる寸前にな……」


 アロイスは昨晩見かけた男について説明をした。


「うーん、確かに怪しいですね。時間的にも丁度魔獣が襲ってきたのと合うし……」


 フィズは少し考えた後で「分かりました」と答える。


「そちらについても、可能な限り調査します」

「今後襲ってくる可能性もあるし、そのほうが良いな。しかし、フィズ……」

「はい、何でしょうか」

「反応から察してはいるが、今回のことは、お前たちの任務に関する事では無いんだな? 」


 アロイスは敢えて訊かないようにしていた事を、今回の事件を受けて尋ねた。


「いえ。自分たちの任務とは関係がない……はずです」

「じゃあ想定外の出来事だったってことか」

「そうなりますね」

「ふむ。それなら分かった。俺はあとコテージに戻る。今日の昼過ぎには自宅に戻るからな」

「そうでしたか。今回は色々と助かりました」

「なーに、気にするな」

「今度、カントリータウンの酒場に足を運ばせてもらいますね」


 アロイスは、おうっ! と返事する。


「ではな、また」

「はい、お疲れ様でした! 」


 アロイスは朝焼けの道を、急ぎ足で自分のコテージに戻っていった。

 そこに残ったフィズとライフ、クロイツのメンバーたち。アロイスがいなくなったあと、彼の戦っただろう跡を見て、各々が言葉を口にした。


「フィズさん、あの人やっぱ半端ねぇっすね……」

「いやー、そうだな。特に、この目の前に広がる光景は竜の巣を思い出すよ」

「生態系変わっちゃったんじゃねっすか、これ」


 アロイスが戦い抜いた道には、そこら中に残る打撃痕と横たわる危険種の魔獣たち。普通、一匹の相手だけでも難しいというのに、フィズたちの視界に映る限り、数え切れないくらいの魔獣が倒れていた。


「まあ警衛隊に説明したらわかってくれるだろ。たぶん」

「大丈夫っすかね。ていうか、アロイスさんは怪我も汗一つかいてなかった気がするんですけど」

「あの人は、全冒険者の憧れの存在だからな。戦いが目の前で見れただけでも凄い事だぞ」

「……追いつけっかなぁ、あの人に」

「追いつかないといけないんだよ。現役である、俺たちが」


 昇り始めた朝日を拝みながら、アロイスに思い馳せるフィズたちだった。

 ……そして、戦いが終わって30分後の5時30分。

 108号室のコテージでは、のそのそと、ナナと祖母が目を覚ます。


「ふぁぁ……。あ、おはようお婆ちゃん……」

「はい、おはようさん……」


 目を擦って、眠そうに体を起こす。すると、隣のベッドにいるはずのアロイスの姿が無く、辺りに香ばしいコーヒーの香りが漂っていることに気づく。


「あっ、もしかして……」



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