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年の瀬旅行(11)


 ベッドから飛び起き、再び窓の外を伺う。すると、幾つかのコテージでは明かりが点き始めていた。恐らく、同じような冒険者の何人かが異変に気づいたらしい。 


(他のコテージに居る冒険者たちも、どうやら気づいたらしいな。俺も外に行ったほうが良さそうだ! )


 アロイスは寝静まる二人を起こさないようにして、厚着に着替え、外に飛び出す。すると、既に武器などを持った冒険者たちの姿がチラホラと外に出て、ザワついていた。


「やはり何か……。フィズのコテージは201号室と言っていたな」


 201号は、ここから然程遠くは無い。アロイスは駆け足で、フィズのコテージに走った。


「……フィズ! 」


 部屋に辿り着くと、どうやらフィズを中心にしてライフと、数名のクロイツメンバーが集まっていた。やはり、彼らも何か感じ取ったらしい。


「アロイスさん! 」


 フィズが名前を叫ぶと、予期せぬアロイスの登場に、クロイツのメンバーはザワつく。中には古くからのメンバーもいて、脱退したハズのアロイスが目の前に現れたことに驚きの表情を浮かべ、話しかけた。


「ほ、本物ですか。もしかして、冒険団に戻ってきたのですか!? 」

「あー……違う。たまたま休暇で出会っただけで……」

「そうでしたか。でも本当にお久しぶりです! 自分の事は知らないでしょうが、自分は……」


 クロイツの一人が自分を売ろうとアロイスに話しかけると、メンバーたちは次々にアロイスに話をかけた。


「お、おいおい、落ち着け! タンマタンマちょっと待て! 」


 アロイスは全員に落ち着くよう促す。

 フィズも「待てお前ら」と声を掛けるが、驚くべきことに、ライフがアロイスとメンバーたちの割って入った。


「待って下さいよ先輩たち。今はそんな場合じゃないっしょ。俺でもヤベー感じなの分かってるんですよ」


 その台詞に、メンバーたちは「ああ」と落ち着きを取り戻す。

 フィズとアロイスは「おー」と、関心した。


「な、何を関心してるんですか。てか、アロイス……さんがココに来たって事は、変な感覚に気づいたんですよね」


 ぎこちない返事だったが、アロイスの強さを間近で見たり、言葉をかけられて、短時間で少しは変われたのかもしれない。

 アロイスは笑みを浮かべて、「そうだ」と返事した。


「当然、ライフも気づいていたな。この町に、何か気配が向かっているようだ」

「感覚的には魔獣の類っぽいっすね。なんつーか、コカトリスに始まって、よく魔獣が出る町だよなぁ」

「ふむ、魔獣が良く出る……か。なら……」


 アロイスは、フィズに向かい、話をかける。


「フィズ、この町に魔獣が訪れる頻度はどのくらいか分かるか? 過去と比べて最近は出没し易いとか」

「あ、いえ……。そこまでは調べていません」

「じゃあ周辺に出る魔獣の生態系について、12月に活発に活動する魔獣の種類は? 」

「すみません。この町の付近については、何も」


 なるほど。フィズたちは、この町はあくまでも滞在場所として活用していて、ロックタウンに関する業務ではないのだろう。それでは調査をしていなくても仕方ない。


「俺が以前にこの町に来たのは数年前だからな。魔獣が多くなって攻めてくるようになっても不思議ではないし。……とにかく、魔獣たちを止めることが先決か。この町を襲わせるわけにはいかん」


 フィズたちは「そうですね」と答える。


「おっし、行くぞ。お前ら遅れないでついてこい……って」


 アロイスは、ハっとした。


「そうじゃねぇーってな。俺がお前らの指揮官じゃなかったわ」


 アロイスは苦笑いして頭を抑えた。その様子に、フィズは笑う。


「はははははっ! その調子でクロイツを指揮して頂いても良いんですよ」

「バカいえ。今のは少し昔を思い出しちまっただけだ。俺は先に行ってるぞ! 」

「……その速度にも、今の俺らはついていけると思いますけどね! 」


 アロイスが飛び出すと、フィズたちも同時に足を動かした。

 夜闇に溶け込み駆ける影たち。アロイスの斜め後ろで、フィズは、言う。


「アロイスさん、武器はいりませんか。余っている武器なら、幾つかありますよ」

「この程度の気配なら、素手で十分だ。返り血を浴びた状態でコテージには帰れないからな」

「……彼女さんたちに迷惑がかかるってことですね? 」


 フィズはニヤニヤしながら言う。


「違うわ! 俺の面倒を見てくれてるだけだっての。おら、気配も近くなってきたぞ! 」

「フフッ、照れなくても良いんですけどね」


 アロイスと、フィズ率いるクロイツ冒険団の面子は、気配の強くなる森に突入した。そこには先に出た冒険者たちが、同じように気配に向かって走っていた。アロイスは彼らを見つつ、ふと、気づいた事がある。


(冒険者は熟練者ばかりではない。明らかに経験の少ない冒険者もいるか。援護しながら戦うことになりそうだ……)


 それだけ、今回の発せられる魔力と気配は強いということ。相当な相手が迫っている事になる。警衛隊たちも出動してくるだろうが、やはり主軸となるのは冒険者たち。手を合わせ、絶対にロックタウンを守らねばならない。他の冒険者同士は言葉を交わす無いが、その想いだけは合致している。


(恐らく、この気配は大量の魔獣に違いない。一体どうしてこのタイミングで襲ってきたのか。クロイツのメンバーの仕事はこれに関係していないようだし、たまたまなのか? それとも、まさかさっきの屋根の家に居た男が……。いや、今はアレコレ考えるのは止めよう)


 今はただ、目の前の敵を倒すことだけに集中しなければ。


(既に、魔力と気配の中には入っている。いつ敵の攻撃が来るか……)


 森を駆け抜けるアロイスたちは、目の前に迫っている敵たちには気を引き締める。

 ……と、その時。

 前方から何かが、アロイスたちを目掛けて飛んできた。


「ぬっ!? 」


 アロイスは素手でそれを弾き、後方のメンバーたちは武器を用いてそれらを弾く。


「今のは……木のツタか! 」


 それは、刃物のように鋭利化した"木のツタ"だった。刃物のような鋭さを持ち、アロイスたちを襲ってきたのだ。


「アロイスさん、今のは! 」

「プラントイーターだ」


 アロイスたちは足を止める。目の前には、巨大な樹木の姿をした魔獣、プラントイーターが何体も群れをなしていた。


「巨大なプラントイーターか。カントリータウンで見たのよりは少し小さいが、それでも……」


 プラントイーターたちは、バキバキと音を鳴らしながらアロイスたちに迫る。

 ところが、その樹木魔獣たちに集中しようとすると、今度は。


(……何っ!何かの気配。今度は後ろかっ! )


 プラントイーターに気を取られている間に、アロイスらの背後に再び別の魔力。そこには、庭園で見た巨大なコカトリスが、今度は何体もの群れで現れた。


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