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年の瀬旅行(2)


 ロックタウンは、インマウンテン地方、一流リゾート区。

 カントリータウンという田舎町の商品としては充分に豪華すぎる内容だ。だが、しかし……。


(うーん、本当は酒場にとって年末は繁忙期なんだよな。でも、折角当てたし、この笑顔を見たら……)


 ナナはアロイスの前で身体を揺らして喜び、えへへ♪ と笑みを浮かべる。


「アロイスさん、やっちゃいました! 」

「おお、さすがナナだ」

「えへへ、有難うございます。……あっ、でも」


 ナナは、ハっとした。


「これってペアチケットですよね。それと、年末って酒場は忙しくないでしょうか。特等取れたのは嬉しいですけど、旅行に行くのって難しいんじゃ……」


 少し不安げに言うナナ。アロイスは、彼女の頭に大きな手のひらを乗せて、言った。


「今回はノインシュタインに連れて行けなかったお婆さんも一緒に、家族みんなで旅行としゃれ込もうか。旅行会社や予約を増やして貰うように伝えれば、みんなで行けるさ」


 それを聞いたナナ。

 「やったぁ! 」

 とても嬉しそうに、頷いたのだった。


 それから一気に時間は飛んで15日後、12月18日。

 アロイス、ナナ、祖母の3人は、インマウンテン地方ロックタウンの空港に降り立つ――。


「……着いたぁ! 」


 ウェストフィールズの北東側に位置する、インマウンテン地方。

 山岳地帯により形成される広大な大地で、シュタウィン国家に属している。

 3人が降りたのは、ロックタウンと呼ばれる、点在する町村の中でもっとも大きい町である。


「すごーい! アロイスさん、お婆ちゃん、見てみて! あの山、凄く大きいっ! 」


 ナナは思わずはしゃいだ。降り立った空港から既に、主要峰を全て見渡せる最高の景色が見渡せるようになっていた。遥か遠くに見渡せる険しい山々と、望める景色のうち、低地は緑で覆われ、高峰は雪に覆われた白に染まる。佇む山々は勇ましく、それでいて美しい。


「凄い景色さねぇ。冷たいけれど空気がとっても澄んでいて美味しいさねぇ」


 祖母は、景色を眺めながら両腕を拡げて深呼吸した。どうやら彼女に気に入ってもらえたようだと、アロイスは良かった、と安心する。


「ハハハ、二人とも楽しんでいるようで何よりです。空港から歩いて直ぐにロックタウン中心街ですから、泊まる場所に早めに向かって、荷物を置いてから観光しましょう。パンフレットによれば、コテージタイプのホテルのようですから、きっと綺麗な景色を眺められる部屋でリラックスできる筈ですよ。少し歩くので、皆さんの荷物は俺が……」


 アロイスは、全員の荷物を軽々と肩に掛けて持つ。

 ……と、祖母がアロイスに向かって口を開いた。


「アロイスさん、私はこの年でこんな場所に旅行出来るなんて夢のようだよ。だけど良かったのかい? 」

「ん、何がでしょうか。もしかして、お気に召さなかったとか……」

「いやいや、そうじゃないさね。お金の事とか、こんな婆が一緒に来て良かったのかなーとねぇ……」


 アロイスは「何だそんなことですか」と、笑った。


「……"ばあちゃん"。俺たちは家族でしょ。家族に遠慮が要らないと言ったのは誰だっけかな? 」

「お、おっと。こりゃあ一本取られたねぇ! 」

「そういう事です。俺も、お婆さんと一緒に旅行したかったんですから、目いっぱい楽しみましょう」

「ああ。そうだねぇ、有難うよアロイスさん。いーっぱい贅沢させて貰うさね! 」

「望むところです。何でも言ってください、ハハッ」


 二人は「ハハハ! 」と声を揃えて笑った。

 すると、その間にナナは先に進んでしまっていて、

「早く行きましょうよー! 」

 飛び跳ね、こちらに手を振りながら叫んだ。


「早いな!? おーう、今行くから、そこで待ってろー! 」


 ……こうして、アロイスたち3人のインマウンテン地方の養生旅行は始まった。

 しかし、まさか。この旅行で、予想外な再会や、ちょっとした事件に巻き込まれる事を、アロイスは未だ知らない。


「うん、それにしても良い天気だ。最高の三日間になりそうだな! 」


 アロイスは、晴れ渡る青空を見上げて言った。


………



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