番外:コロシアム決戦(5)
そして時間は6年後、アロイスの酒場に戻る。
【2080年12月1日。】
説明をしたアロイスの前で、ナナ、リリム、ネイル、ブランたちは思わず拍手した。
「おいおい、拍手なんか要らないって。とにかく昔話は、これでお仕舞い。もう良いだろ。結構、俺も痛々しい部分もあって驚いたかもしれんが、血気盛んな頃だって最初に断ったんだから、引かないでくれよ。引いたら今の俺は割とへこむぞ……」
4年前は冒険者時代全盛期。22歳という若さで猛々しく、実力に過信していた頃だ。自分で昔話をしていて思ったが、昔の自分は本当に若かったと思った。
「……いやはや、引くなんてとんでもない! 凄い話でしたアロイスさん。ねぇ、皆さん」
拍手しながら、ブランが一言。女子組に賛同を求めると、彼女らも併せて、言った。
「うーん、やっぱりアロイスさん格好良いね! 」
「アロイスさんは流石と言わざるを得ませんね。とても興味深い話で面白かったです」
「凄いですアロイスさん。あのちっちゃなリーフさんも強くて、びっくりしました」
話を聞いた四人は、思わずもう1度賞賛の拍手を送った。
あまり褒められた事にアロイスは少し照れて、
「昔の話だから、もう拍手はいらん! 」
と、昔のような若干乱暴気味な言葉で言った。
(ふふっ。アロイスさんたら、照れちゃってますね)
ナナはアロイスの態度に笑ってしまう。
他の三人もクスクスと笑い、アロイスも満更じゃなさそうに「うるさいぞお前ら」とか、わざとらしく言った。
……と、全員が和やかなムードに包まれていた時、酒場の扉がガチャリと開く。
「おっと、いらっしゃいませ」
「あ、いらっしゃいませー! 」
お客さんが来たか。
そう思ってアロイスとナナが扉を向いて挨拶すると、そこに立っていたのはー……。
「ぶたいちょ……じゃなかったッス。アロイスさん! お久しぶりッスー! 」
噂をすれば何とやら。
お客は、まさかの『リーフ・クローバー』本人だった。
「リーフさん! お久しぶりですね! 」
「あ、ナナ! 元気してたッスか! 」
目を細め、口を小さく三角に、敬礼するポーズで可愛らしく挨拶する。
変わらず金髪のツインテールにツナギという格好に、背には巨大なハンマーを背負っていた。が、しかし、少し見ないうちに、リーフはある一点、見た目に大きな変化があった。
「お、お前……随分と焼けたなあー」
アロイスが苦笑いして言った。
ノースフィールズに降り注ぐ雪のような透き通る白色だったリーフの肌。今や、見事に小麦色の褐色に染まっていた。
「しばらくサウスフィールズのリゾート篭ってたッスからねぇ」
そう言って、小さな手に握っていた白い袋から『マカダミアナッツチョコレート』の箱を取り出し、ナナに渡した。
「お土産ッス! 」
「あっ。有難うございます、リーフさん」
リーフは「良いッスよー」と一言、そのままカウンター席に向かい、ピョンッ、と飛び乗った。
それはリリムの隣で、リリムは可愛いリーフを見て「あらまぁ」と微笑んだ。
「リーフちゃんと言うんですね。私はリリムと言います」
「うにゃ。どこかでお会いしたッスか? 」
「いえ。実は今、リーフさんのお話をしていた所だったんです。急に現れたので驚きました」
「リーフの話してたッスか! 悪い話でもされてたッスかねー」
にゃはは、と笑う。
アロイスは「違うっての」と、リーフの前に立って、言った。
「何てコトない昔話だ。お前が副部隊長として、スゲェ奴だったーって話だよ」
「リーフのこと褒めてたッスか? 」
「そういうコト」
「それなら良かったッス! 」
リーフは嬉しそうに、床に着かない足をプラプラと動かした。すると、そそくさといつの間にかリーフの傍に寄っていたブランが、頭を下げて挨拶した。
「お久しぶりです、リーフさん! 」
「あー……っと、確かブラン! だったッスよね」
「正解です! 覚えていて頂いて、大変光栄ですぅッ!! 」
ブランは、リーフの大ファンで、メディア露出していた頃の雑誌を全て購入していたという徹底ぶり。一度ならず二度目に拝めたチャンスを逃すはず無く、リーフの隣に立ち、出来るだけ近寄って話を求めた。
「リーフさん、随分と日焼けしたようですが、南のリゾートに行ってたんですよね! 」
「そうッスねぇ。結構楽しかったッスよ。ダンジョンや戦いから離れるハズが、結局は戦っちゃったッスけどね」
「……と、仰られると? 」
ブランが尋ねると、リーフはリゾートで何があったかを説明した。
暴漢に襲われた青年を助けてから、研究所ダンジョンの攻略を行い、七色サンゴの入手を失敗までの一通りについてを。
「スワッチって男が、自ら七色サンゴを駄目にしちゃったッス。勿体なかったッスねぇ」
「な、何千万ゴールドを目の前で失ったんですか……」
「自業自得だから仕方無いッス。欲に溺れた結果ッスから」
何千万を失ったというのに、リーフはクールかつ平然に話すあたり、やっぱり凄い人なんだと、ブランはもちろんのこと、ナナたちも耳を傾けていて思った。
「ほう、研究所ダンジョンに入ったのか。キメラと戦ったとは、中々面白い話だな。でもな、俺も実は先月にダンジョン攻略してきたんだよ」
今度は、その話を聞いたアロイスが言った。
ブランは「何ですかソレ、聞いてないですよ!? 」と、鼻の穴を膨らまして叫んだ。
「あれ、知らんかったか。竜の槍のダンジョンの話はしてなかったっけか」
「聞いてないですよ! 教えてください! 」
「おお、良いぞ。えーっとな……」
最近アロイスがナナとダンジョンに落下した事故で、地上に脱出するまでの話をした。その際、数億から十億程度のオリハルコン槍を発見したことと、それを寄付したことを伝えると、ブランは口をあんぐりと開けて、言った。
「えぇ……。数億を棒に振ったってことですか……」
「元々がリターさんの槍だからな。俺が貰うわけにはいかないだろう」
「でもくれるって言ったら、少しの謝礼くらい貰いませんか普通! 数億ですよ!? 」
「まぁ、リターさんが喜んでいたらそれで良いさ」
話を聞いていたリーフも、
「そうッスねぇ」
と、小さな手を組んで頷きながら言った。
この二人は、どこまでスケールというか心意気が大きいのかとブランは白目になる。
それとも、これくらい寛容な心を持っていなければ、冒険者として大成出来ないのだろうか。
ブランは愕然として、項垂れた。
……と。
ある事に気づいたネイルが、ブランに話しかけた。
「あれっ。ていうか待ってよブラン。ちょっと良い? 」
「何、ネイル……」
「私たちはハンターだからアレだけどさ。ブランって、ダンジョン攻略したことないんでしょ? 」
「……それがなんだよ。俺が未だ攻略していないのがダサいって言いたいのか」
「ううん、そうじゃなくてさ。ダンジョン攻略って話で考えたら、ほら」
ネイルはチョイチョイと、ナナを指差して、言う。
「ナナって、一応ダンジョン攻略者になったんじゃないの」
「……えっ」
「そうでしょ、アロイスさん」
ネイルが訊くと、アロイスは「あっ」と声を漏らした。




