番外:コロシアム決戦(4)
「そうか。……言いたい事は、それだけだな」
アロイスは静かな口調で言う。アロイスも、彼女が既に倒れる寸前であることは分かっていた。
「へ、へへっ。そうッスね、もう立ってるのも限界でッス……」
「なら、今すぐに楽にしてやる……」
そう言って右手拳に力を込めたアロイスは、リーフの眼前まで距離を詰めた。そのまま、鎧の装着された、みぞおちを狙い拳を振り上げた。
今度こそ、終わりだ。
いつの間にか炎が掃けたコロシアム。観客の全員が、終わりの一瞬を見守った。
「え、えへへ…… 。実は、まだまだ……」
しかし、リーフは殴られる寸前、ニヤっと笑った。そして魔力鎧を再び発光させる。リーフは、もう1度、鎧から魔力を肉体に流し込もうとしたのだ。
「な、何ッ!? こ、この馬鹿がぁッ!! 」
アロイスは握り締めていた拳を広げ、瞬時に鋭い手刀の容に変えた。指先に力を集中し、発光した鎧を切り裂いて破壊する。真っ二つになった鎧は空を舞って、ガランガラン! と激しい音を立てて地面に崩れ落ちた。アロイスはリーフの胸元を掴み、思い切り引き寄せ、叫んだ。
「馬鹿野郎がぁ、リーフ!! 何を考えている! 鎧を使って、また自分の身体を無理に動かそうとしただろテメェ! 俺が止めなかったら、死んでいたかもしれねぇんだぞ! 」
本気で怒って言う。リーフはズタボロの身体で薄ら笑いしながら、返事した。
「だ、だってこの戦いは本気だから。命をかけて戦うッスよ……。1万人の部下が見てる前で、これ以上の恥はかけないッス……。リーフが死んでも、その魂は部下たちに残る筈ッスから……」
リーフは、その場で反省して本気で命を懸けたのだ。死ぬことを問わず、戦いを挑んだのだ。アロイスは、彼女が、覚悟を持って戦いを挑んだのかを理解して、しゃあねぇなぁ、と呟いた。
「馬鹿野郎が。しかし今日のところは褒めといてやる。お前の覚悟、受け取った。次からは油断するんじゃねえぞ」
「有難うッス……。さすがに、もう奥の手は無いッスから、リーフは倒れるッスよ……」
リーフは、ガクリとついに力尽きて項垂れる。
アロイスは彼女が地面に伏せる前に抱きかかえ、高々と腕を伸ばした。
それが、試合終了の合図だ。
太い腕一本を伸ばしただけ、それがリーフの健闘と、部隊長がどれほどの強さであるかを鼓舞した。
それと同時に、1万人の部下たちが、拍手と叫びを送った。
「うおおおっ、凄い戦いでしたよアロイスさん! 」
「次は俺がそこに立ってみせるんで、待ってて下さい! 」
「リーフさん、めっちゃ可愛かったよー!! 」
「この場で命を捨ててまで戦うなんて、俺なんかには出来ないよ……。さすがですよ! 」
戦いといっても、多少なハデなくらいで、激しい打ち合いらしい打ち合いもなく、世界最高峰というには地味でお粗末だったかもしれない。それでも、コロシアムという場所においても戦いでは『常に自分の命を賭ける』という本気を目の当たりにした部下らには充分に気持ちは伝わったはずだ。
「……部隊長サン」
ふと、ボロボロのリーフが耳元で囁く。
「どうした? 」
「ひ、一つだけ教えて下さいッス。どうやって、リーフの炎を耐えたッスか……? 」
「あー、デスファイアーとかっていうやつか」
「ヘルファイアッス……。直撃したハズなのに、どうして無傷なのか不思議で……」
町一つを燃やしかねない大炎を受けても、アロイスはピンピンしていた。
「ああ、そりゃアレだ。お前が最初に見せた幻影魔法があっただろ」
「分身魔法ッスか……」
「アレを真似したんだよ。お前のヘルファイアは着弾で爆発するタイプだったから、着弾する寸前に幻影を残して俺は影響の少ない場所まで飛んでたんだ」
いつの間に……。
リーフは、してやられたと、小さく笑った。
「やっぱり部隊長サンは強いッスねぇ……。リーフ、部隊長サンの傍にいれて本当に幸せッス。じゃあ、もうお話するのも限界なんで、少し……気絶させて……貰うッスね……」
そう言うと、リーフは全身をアロイスに預けて眠ってしまった。
「おっと……やれやれ。ったく、随分と気持ちよさそうに寝やがって」
気絶したリーフは、アロイスの腕の中で、何とも気持ちよさそうにしていた。とても、満足そうな表情を浮かべて……。
…………
…