冒険者のブドウ酒(1)
【2080年11月21日。】
秋祭りも終わり、もうじき冬が訪れようとしているカントリータウン。
午前10時を回った今日、アロイスは珍しく一人で自宅の家事に勤しんでいた。
「食器洗いは終わり。えーと、次は……」
ナナと祖母は、朝早くから役所の『冬季農業説明会』に赴いていて不在。酒場も週始めということで休日である。そのため、アロイスが家事を請け負ったというわけだ。
「次は洗濯物か」
食器洗いが終われば、今度は洗濯。浴室で、昨晩の風呂で脱いだ衣服を、魔動式の洗濯器に投入して洗い、それらを庭に干さなければならない。
「おっと、これは……」
ふと、脱いだ衣服を仕舞ったカゴに、水色の若々しい下着が上下分見え隠れしていた。
「ほう……」
言うまでもなく、それはナナの下着だった。自分が触れて良いものかと考えるが、まぁ家事を任された身として仕方ない。仕方ないのだ。
(後で戻ってきてから、干された洗濯物を見て恥ずかしがるかもしれんな。だけどまー、致し方ない)
そう、致し方無いのだ。取り敢えず気にしないようにして、洗濯器にそれらを投入する。後は、自動で洗濯物は水流に回されて洗われるだけで、ノータッチ。1時間ほど後に、洗濯物をカゴに詰め直して、庭に干すだけだ。
(洗濯が終わるまで1時間は有るし、部屋の掃除を先に終わらせちまおう。玄関に雑巾やらホウキがあったっけ)
今度は、洗濯が終わるまでの間の時間を利用して各部屋の掃除に向かう。普段から酒場の掃除をやってる手前、普通の部屋掃除は慣れたもので、次々と美しく磨き上げていった。やがて、リビング、キッチン、廊下と、順調に進んだアロイスだったが、ある部屋の前でピタリと足を止めた。
(おや、そういえば、この部屋って……)
それは廊下の奥、バス・トイレの手前にあるナナと祖母の寝室。アロイスは、この部屋はバス・トイレに向かう際に通り過ぎる事があっても、この家に住んで6ヶ月、まだ入った事が無かった。
(ここは入った事がないんだよなぁ。ナナやお婆さんが居たら、遠慮せず入りなさいなんて言うんだろうけども……)
それでも他人のプライベートルームというには変わりないし、気が引けてしまう。
(とはいえ、ここだけ掃除しないっていうのも変な話だ。気にせず掃除をさせて貰おう)
二人の寝室に手を掛け、戸を開く。
「ふむ……? 」
そこは思いの外、広かった。奥にはクローゼットが2つ並び、その隣に、就寝用の厚めの床用シーツと毛布が丁寧に折り畳まれている。窓は大きめで等間隔で2つ、クリーム色のカーテンがそれを隠す。また、寝室入り口(アロイスの立っている場所)から近い窓の下にはキャビネットが置いてあって、その上に赤い花の入った花瓶とフォトフレームが飾られていた。
(おや、この写真は)
何の写真だろうか。気になって、近づいてみる。
(割と古い写真だな。ていうか、これは……)
小さな茶色い木材のフレームに嵌った写真。そこに写っていたのは、仲睦まじい家族の姿だった。