表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/358

秋の夕闇に輝く竜の祭り日(2)


「いやー、参ったな」

「ネ、ネイルさんらしいですよね。デ、デートだなんて」


 でも、ナナは思った。そういえば、お祭りを二人で歩いているのは傍から見ればデートにしか思えないかもしれないと。ネイルに言われて、妙に意識してしまい、アロイスの横顔を見つめると……。


「ははは、確かにデートだな。俺は楽しいけど、ナナは楽しくないか? 」


 アロイスは、冗談か本音か笑って言った。

 ナナは慌てて「楽しいです! 」と、アロイスに寄り添う。


「そうか、良かった。俺も楽しいよ」

「は、はいっ! 」

「うんうん。そんじゃあ、えーっと……」


 食べ物と飲み物が手に入ったし、ますます座れる場所を探さないといけない。

  ……だが、しかし。

 二人が歩くだけで、有名人アロイスは、そこらかしこから名を呼ばれた。


「アロイスさん、こっちこっち! 」

「おーうアロイス、デートとは良い身分だな! こっち来て飲もうや! 」

「綿飴を食べていかないか! 」


 今日は特にお祭りで、いつも以上に声が響く。一々寄っていたらキリが無いとはいえ、無視をするわけにはいかず、一言だけ喋るようにして、後はその場を離れた。ところが、その所為で、皆の優しさを諸に受け取る結果となってしまい……。


「……大変なことになったな」

「あ、あはは……。これ以上は持てそうに無いんですけど……」


 商店通りに足を運んでから30分も経っていないというのに、お互いに両手に大量の食べ物の詰まった袋を持ち、頭には地元アクセサリ職人自慢の御面を被り、まるで、お祭りを堪能しきったような格好になってしまった。


「こんなに貰っちゃって、食べきれないな」

「勿体ないですけど、残ったのは家に持って帰ってから、温め直して食べましょうか」

「そうだなぁ。けど熱いのは今のうちに食べたいし…………おっと」


 丁度、混雑する商店通りの道先に、テラス席のあるオープンバーがあった。


「あそこの店、今日は外の席でお酒を作って提供してるのか。青空酒場って感じだな。あそこに座ろうか」


 商店通りに在る、白い平坦屋根の小洒落たカフェ。

 昼間はランチとコーヒーを提供し、夜には淡いランプで彩った雰囲気ある酒場に変化する。今日はお祭りということで、外に簡易なキッチンを建て、テラス席を増やしているようだ。お祭りの観光客らは腰を下ろし、酒を嗜み、楽しそうに会話をしている。他の屋台で購入した食べ物もオープンにツマミにしているようだし、自分たちも場所を貸して貰おう。


「何か注文をして、休憩がてらテラス席で食べ物を食べようか」

「良いですね、賛成です」


 二人は適当なテラス席に腰を下ろして、貰った食べ物の山をドサリと置く。ハニードリンクだけを軽く飲み干してから、二人は外に設置されたキッチンカウンターに向かった。


「おお、凄いな。思ったより本格的なバーカウンターじゃないか」

「本当に凄くお洒落ですね」


 外に設置されたキッチンカウンターは、簡易とはいえ、随分と洒落た造りをしていた。カウンターにはカラフルな酒瓶と花が並び、南国風な癒やしの空間が広がっている。やや涼しげな気温といえども、お祭りの日にマッチして、気分が高揚する。


「南国風のバル(軽食喫茶店)みたいだな。見てるだけで楽しくなってくる造りしてるなぁ」

「ウチもこういう感じの飾り付けとかしてみます? 」

「冬場を前にして南国ってのもアレだけど、季節に応じて雰囲気を変えるのは有りかもしれん」


 酒場を始めてから、他人の飲み屋に赴く事が少なくなっていたし、こういう機会はいい勉強になる。そのうち、様々なお店を見て回っても良いかもしれない。


「……って、まぁ勉強してる場合じゃねえな。今は何か飲み物を頼みに来たんだった」

「あはは、そうですね。職業病みたいになってましたね」

「全くだよ。まずは何か頼もうか。何か飲みたいのはあるか? 」

「えーっと、どうしましょうか」


 簡易キッチンの上に貼られた、木板に掘られたメニュー表。わざと古めの汚れた木板をベースにして、白いペンキで印字してある。洒落た店には、洒落たメニュー表があるものだ。また、そのメニュー内容もユニークで、そそられる物が多かった。


「メニューの見た目も内容もお洒落なのが多いですねぇ。飲み物も、何となし南国風で……」


 飲み物のメニューは、ノンアルコールを含めた美味しそうなカクテルが並ぶ。

 モヒート、マティーニ、ブルーハワイ、マルガリータなどの有名どころが揃っている他、あまり目にしたことのない名称のものあった。


「……結構見たことないの有りますね。アロイスさん、全部分かりますか? 」


 ナナは難しい表情を浮かべて言った。


「そうだな、書いてあるのは全部分かるぞ」

「さすがですね……。アレとか、全く聞いた事も無いんですけど、変わった名前ですね」

「ああ、アレか。確かに山の中じゃ珍しいからな……俺も店を開いてから作った事は無かったか」


 ナナが指差したカクテルは『ピニャコラーダ』だった。


「どういうカクテルなんでしょうか? 美味しいですか……って、訊くのはおかしいですね」

「んー、ありゃナナ向きと思うぞ。トロピカルカクテルの一種で、作り方は……」


 ピニャコラーダ。

 ラム酒、パイナップルジュース、ココナッツミルク、それらをシェイクしたフルーティで甘いカクテルである。普通、大抵のカクテルはベースとなる酒を前面に出す作りだが、ピニャコラーダの場合、パイナップルジュースを8、ココナッツミルクとラム酒を1という少量で割る。その結果、南国フルーツ香る甘美なカクテルが作り出される。また、好みでバナナ、アップル、ヨーグルト、生クリームなどを加えれば、飲むデザートのような味わいを楽しめるだろう。


「えっ、とっても美味しそうです! 」

「とっても美味しいんだコレが。ナナは甘いものが好きだからな、飲んでみるか? 」

「はい、飲んでみたいです♪ 」

「分かった。じゃあそれ1つと、俺はシンプルなやつにしておこう」


 数ある南国メニューの中からアロイスの目に留まったのは、お馴染みのモヒート。すっきりした甘さの飲みやすいカクテルだ。


「俺は普通のモヒートにしておこう。先に座って待っててくれるか」

「分かりました。席で待ってますね」


 ナナは先に席に戻って、腰を下ろす。そこから、カウンターで店員に注文するアロイスの姿を眺めていたが、ふいに背後から声がした。


「こんちわー、君、友達と来てるのかなー? 」

「いっぱい食べ物あるねー。どう、俺らも混ぜてくれない!? 」


 これまた、南国風のシャツを身に纏い、軽装をした茶髪の男の二人組み。彼らの目的は、いわゆるナンパ。何気ない会話であったのだが、ナナは、以前男たちに囲まれた事を思い出して、彼らを見た瞬間、少し身震いした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ