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竜騎士の洞窟(2)

 

「僭越ながら。元凄腕の冒険者とお聞きしていますので、お祭りを安全に行う為にも、危険がない場所と調査して頂きたいんです。もちろん、謝礼は弾みますので」


 依頼を聞いたアロイスは、右腕を自らの後頭部に回して押さえて、やり辛そうな反応を見せた。町の為に働きたい気持ちもあったが、正直なところ引退した身で話を受けたく無かったからだ。


「ラットさん、大変恐縮ですが別に私じゃなくても、町の冒険団や滞在する冒険者に依頼を出してはどうでしょうか。そもそも未踏かどうかも分からない状態ですけど……」


 幸い、この町はダンジョンの宝庫。大勢の冒険者が宿に滞在しているし、攻略や調査には事欠かないはずだ。ところがラットは最もらしい事で説得してきた。


「竜騎士さんはウチの町にとって大事な方ですので、やはり確かな実力と町民からの信頼も厚いアロイスさんこそ、相応しいかと思います。それに今回のダンジョンは、竜騎士さんの敷地内です。誰が足を踏み入れた跡も無かったですし、未踏ダンジョンかと予想しています」


 卑怯な言い方だ。そう言われると非常に断り辛い。だが、一線を退いた身で未踏に足を踏み入れるなんて現役の冒険者に迷惑を掛ける他はないわけで。


「そう仰られて私も請け負いたい気持ちは有るのですが、やはり今回はお断りを……」

「いえ、是非お願い致します。町のために、是非お力を貸してください! 」


 アロイスの言葉を遮ってラットはこれでもかと、深々と頭を下げた。アロイスは、ナナと見つめ合ってから、小さく溜息を吐いた。


「……はぁ。分かりました、分かりましたから頭を上げて下さい」


 そこまでされたら、断るわけにもいかないじゃないか。


「えっ、本当ですか! 」


 良い返事を聞いた途端、ラットは明るい顔をして顔を上げた。


「ですが待って下さい。勘違いしないで頂きたいのですが、私は攻略はするつもりはありません」

「と、仰ると? 」

「調査のみです。ダンジョン周辺に危険が及ぶか及ばないか、それだけです」

「おおっ、それだけで十分です! 」


 喜ぶラットは何度も頭を下げたが、アロイスは一応忠告した。


「但し私は引退した身です。請け負う以上は出来る限り調査しますが、あくまでも参考程度に留め、本調査は別に依頼して下さい。それでも良いなら、請け負わせて頂きます」


 さすがに、何かがあった時の全ての責任は負うことは出来ない。それだけはしっかりと約束させた。


「有難うございます、有難うございます! 」

「約束は守って下さいね」

「はい、はい、勿論です! それでは、調査の日取りなんですが、いつが良いですか! 」


 本当に分かってるのか、この親父は。……まぁ、良い。


「お祭りは11月10日でしたよね。なら早いほうが良いですし、今からでも良いでしょうか」

「今日ですか! 此方としても早い方が嬉しいので、全然構いませんよ! 直ぐご案内します! 」

「分かりました。それでは準備するので少々お待ちいただけますか」


 そう言うと、アロイスとナナは一旦居間に戻る。すると、どうやら話が聞こえていた祖母が笑いながらアロイスに言った。


「うっふっふ、災難さね。どうしてもなら断っても良いと思うさねぇ」

「はは、請け負ったし仕事はやりますよ。そういうわけでちょっと出かけてきますね」

「はいさね。気をつけて行ってくるんだよ」

「有難うございます」


 ……と、ナナが、アロイスの肩をちょんちょんと指先で叩いた。


「アロイスさん。途中まで私も見に行って良いですか? 」

「おや、見てみたいのか」

「私はじっくりと本物のダンジョンって見たこと無かったから、見てみたいなって」


 ナナはダンジョン付近には足を運んだ経験はあったが、ゆっくりと眺める機会は無かったのだ。


「そうか。なら改めて、入り口だけでも見てみるか? 」

「やった♪ あと、アロイスさんに用意する服とか道具とかありますか? 」


 必要なものがあれば、直ぐに準備しようとして言う。が、アロイスは首を横に振った。


「そんな深い場所入るつもりはないし、半袖シャツとズボンで充分だよ。ナナも近くまで行くくらいだけど、暑いし泥があったら困るから、今の格好のままシャツと長ズボンで行くと良い」


 本格的な調査をするなら、冒険用の食糧や道具の詰まったバックパックや、頑丈な魔法糸で縫われた冒険服、自分の大剣なんかが必要になるが、今回は別に要らないだろう。服装もシンプルなズボンとシャツで充分だ。


(今までのダンジョンの形状から危険かどうかは入口や、少しでも踏み込めば気配なんかで分かるしな)


 一応それでも、準備として、瓶詰めの水とナイフ、ハンカチ、紙とペンをポシェットに仕舞い、魔石のランプをベルトに括り付けて、ナナに「行こうか」と伝えた。


「はいっ! 」


 ナナは頷く。祖母にもう一度「行ってきます」と言って、玄関で待つラットの元に向かった。


「では、ご案内宜しくお願いします」

「此方こそ、よろしくお願い致します」


 こうしてアロイスとナナは、ラットの案内で西の森へと赴くのだった。

 ……それから、ラットに案内をして貰って30分。

 東側の自宅から商店通りを抜け、西の森入口付近で折れ曲がった道を進んだ先。そこに、白く大きな建物が見えた。


「……見えてきましたね。あちらが当代竜騎士家です」


 ラットは指差して言う。


「おお、こんな場所に在ったんですね。本当に大きいですね」


 西の森付近の道に並行して建つ大きな家屋。近づくにつれ、その全容が明らかになる。


 長方形状の大きな建物が二つほど並び、森の一部を切り取った広い庭園には幾つもの畑が併設されていた。また、その庭の中心には、巨大な石材で彩られた竜の文様が掘られた槍が地面に突き刺さり、隣には炎の灯った石祠があった。その周囲には冒険者の格好をした数名の他、町で見たことのある面々で賑わっていた。


「お祭りが近いので、参拝者も多くて火が絶えないんですよ」

「へぇ。冒険者も居るようですけど、結構有名なお祭りだったんですね」

「竜騎士は槍を扱う騎士の神様のように扱われている節があるからじゃないでしょうか」

「なるほど、知る人ぞ知るって事ですね」


 三人はそのまま庭園に入ると、石像を横目に、道なり進んでいった。やがて、木々の隙間の向こう側から、断崖のような斜めに突き立った土山が見え始めたと思えば、直ぐ、洞窟と思わしき黄色いテープで入れないよう封鎖された大穴が見えた。


「おや、アレですか。どなたかいらっしゃるようですけど」


 目を凝らすと、黒の衣装を身に纏った男二人が腕を組み、立ちしていた。彼らの格好から男たちは警衛隊だと分かる。


「一応この辺は一般人も充分に足を運んでしまう可能性がありますから、子供たちなどが誤って迷わないように警衛隊に協力を仰いでもらっていたんです」


 お祭りシーズンということで、確かに危険が及びかねないだろうし、懸命な判断だ。


「……さて、着きましたが」


 ラットは、洞窟前で足を止める。ナナは「わぁっ」と洞窟に目を向けた。


「ここがダンジョンの入口なんですよね」

「まだ何とも言えないが、そんな雰囲気はあるな」

「け、結構怖いですね……」


 周囲に拡がる少し高めの土と岩の壁。そこにポッカリと開いた洞窟の入口があった。内部からはビュウビュウと冷たい風が吹いていて、穴の奥は地下に向かって斜め下方向に進んでいる。数メートルも進めば内部は真っ暗。見える限りではあるが、足場は若干濡れている。


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