Happiness(3)
「ですよね。明日、畑仕事が終わったらカ・パリさんの工務店に行って材料を購入して、後は雑貨店にも行きましょうよ」
「そうだな、やってみよう。ナナの言う通りなら、別にブラウニーに迷惑も掛けないだろうし、良い案かもしれない」
「やった、有難うございます♪ 」
ナナは嬉しそうに言った。
「そんじゃ、ナナも明日はその作業を手伝って貰おうかな」
「もちろんですよ。一緒にブラウニーを喜ばせます! 」
「ハハ、そうだな。では、今日は帰ろうか」
こうして、二人は帰路につく。
それから次の日、祖母と畑仕事を終えると、予定通り二人はカ・パリの工務店で木材やらを購入。その後、、商店通りの雑貨店に足を運び『ある物』を更に購入して、酒場に向かった。
「喜んでくれるかな、ブラウニー」
「きっと喜んでくれるさ」
二人が店に入ると、まずは夕方の開店に向けて軽く料理の仕込みを行う。メインの肉料理の下ごしらえだけ済ませると、アロイスとナナは外に出て、久しぶりに裏の倉庫に入って、仕舞われていたノコギリやらの日曜大工品を手に取った。
「ナナは俺が切った木材を磨いたりしてくれるか」
「分かりました。頑張ります! 」
トントン、カンカン。午後の森に響き渡る軽快な作業音。二人は創作に没頭して、あっという間に時間は過ぎていった。
「……終わったぞ! 」
「きれいに磨けたと思います、どうでしょうか」
「全然上等だ。後はこれを、店内の壁に取り付けよう」
造ったのは、木材の角を撤去して丸みを帯びた数枚の木板。それらを店内に運び、カウンターテーブルの端っこに、普段の客らの邪魔にならないよう取り付ける。アロイスが接着用に釘を打つ間、ナナは雑貨店で購入した水と白のストライプカラーの布をハサミで切って、取り付けが終わった木板を覆った。
「あとは、これを置いて……と」
また、用意していたのは『小さな人形遊び用のティー・セット』だった。ストライプ布で覆った木板に、それらの椅子、テーブルを置く。更に、ナナは、とても小さなクッションとテーブル・クロスを器用に縫って、テーブル上にお皿とコップも並べた。
「出来ました! 」
「おー、かなり良いじゃないか」
ナナが提案して二人で作り上げたのは、ブラウニー用の小さな小さな特別席だったのだ。
「喜んでくれるかなぁ。ちゃんと座ってくれるかな……? 」
「きっと喜ぶさ。閉店前にブラウニー用のちっちゃな料理も用意して置いていかんとな」
「はい。美味しい料理を食べさせてあげたいですよね」
「そうだな、今日の夜、閉店後に何か用意してあげて、夜に覗いててみようか」
「見てみたいです」
ブラウニーが喜んでくれたのなら、嬉しいけど……。不安と期待がいっぱいになる。
やがて、気づけば午後5時。外には既に、顔馴染みの客たちが今か今かと待機していた。
「おっと、不味い。ナナ、外の客に開店を教えてきてくれ」
「あ、もういっぱい並んでる……! はい、すぐに席にご案内します! 」
開店と同時に、酒場には客が溢れ返った。
てんやわんやに賑わう店内。アロイスとナナは、接客対応に勤しんだ。
……そして、6時間後。
今日は22時頃には客足が途絶え、少し早めに休憩を取る事が出来たのだった。
「昨日より1時間早く終わったな。今日もお疲れさん、ナナ」
「はい、お疲れ様でした。それで、これから……」
「そうだな。ブラウニーのために料理を用意しよう」
アロイスは指を鳴らして、調理を始める。ナナもキッチンに入り、その手腕を近くで見ていた。
「今日のメニューは、小さなオムレツと、メインの柔らか唐揚げ。それと、サラダもな。飲み物はミルクと、一応ミネラルウォーターの2つを用意しておこう。夏場だから少し長く置くと腐ってダメになるし、今日は冷蔵保管庫に仕舞っておいて、1時前になったら温め直して盛り付けるか」
本当はギリギリで料理を作ってあげたいが、もし毎日作ることになったら体力的にナナはしんどくなる。 今後のことを考え、冷めても美味しく食べて貰える料理を選んだつもりだ。
「あとは、掃除したり在庫チェックしたり、また軽食でも食べて時間を潰そうか」
「そうですね。じゃ、掃除とかしちゃいます」
二人は朝1時まで、のんびりと時間を潰した。それから時間は過ぎ、まもなく1時。アロイスは再びキッチンに立って料理を温め直して小皿に盛ると、いつものように明かりを消して戸締りを確認し、外に出た。店の横で腰を下ろし、ブラウニーが現れるのを待つ。
「……あっ、来ましたよ! 」
ほどなくして、1時を過ぎて直ぐにオレンジ色の明かりに包まれたブラウニーが現れた。昨日見た時と同じで、最初に店内をフワフワと飛び回る。そして、数分後、また以前と同じように、カウンターの縁に腰を下ろした。